月刊総合雑誌2010年12月号拾い読み (2010年11月20日・記)
『潮』は「【創刊50周年特別シリーズ企画】ニッポンの選択」として、「『日本外交』の破綻」を、中西寛・京都大学大学院教授「危機管理能力なき民主党政権」、竹中治堅・政策研究大学院大学教授「『外交』『経済』の解決策が見えない菅政権」、村田忠禧・横浜国立大学教授「“日中新時代”へ英知を尽くせ」の三篇で編んでいます。
中西は、尖閣諸島事件への対応は「日本は圧力に弱い」との印象を海外に与えてしまった、と民主党政権の管理能力に疑義を呈しています。竹中は日米関係を含め外交を安定させ、経済対策に力を注がなくてはならないと提言しています。村田は、日中両国間で狭隘なナショナリズムを焚きつけるような愚を避けるべきと強調しています。
『世界』の特集は「尖閣“衝突”と日中関係」です。
高原明生・東京大学教授「中国にどのような変化が起きているか」は、中国には若年層の不満・不安がナショナリズムと共鳴する社会的心理状況があると指摘しています。辻康吾・現代中国資料研究会代表「中国対外政策の決定過程」によれば、中国外交は「柔和で平和的なパンダ、牙を剥き怒号するトラ」の二つの顔を持っているとのことです。ネチゾン(ネット市民)の急増もあり、政策決定に関わる集団が複数になり、決定過程も複雑化しています。岡田充・共同通信客員論説委員「『ボタンの掛け違え』はなぜ起こったか」は民主党政権の謳い文句である「政治主導」がかえって混乱を招いたと論難しています。莫邦冨・ジャーナリスト「日中衝突の余波を拡大させてはならない」は、戴・中国国務委員が丹羽駐中国大使を呼び出す前に、岡田外相(当時)に直接、電話をかけたが、なぜか岡田外相がその電話に出なかった、電話が通じていたら穏便に解決できた、と記しています。まさしく“ボタンの掛け違え”があったかのようです。台湾の専門家たる蔡増家・国立政治大学教授「尖閣騒動で中国の『和平崛起』は終わる」は、中国の隣国との紛糾に可能な限り話合いをする路線は終り、中国と隣国との摩擦が激化する可能性ありと分析しています。尖閣問題で台北・北京の連携はないが、
万一、今後、台湾と紛糾するような事態が起れば、台湾の民意は相当激しいものになると予想しています。「(中国人船長を)10日目の満期を以て、拘置期限を延長せずに釈放することで幕引きを図ることが、日本側にとって最も有利だった」とのことです。
「政府による制御がきかなくなった『新興覇権国』中国。その行き着く先は……」との惹句を付して、『中央公論』は「中国狂乱」と題する特集を編んでいます。清水美和・東京新聞論説主幹×吉崎達彦・双日総合研究所副所長×渡部恒雄・東京財団上席研究員「新利権集団が中国を暴走させる」で、清水は「一般の中国人たちに中国が日本の実効支配を黙認している事実を気づかせてしまったこと」が一番問題だとしています。さらに、「日本は圧力をかければ引くという『成功体験』を与えてしまった」ことも問題です。「(中国の)さまざまな利益集団が、なりふりかまわず国外での権益確保に乗り出し、それを党や軍の対外強硬派がサポート」しているとのことです。その背景にある「一般民衆を含めた大国主義の台頭も見過ごすわけにはいかない」そうです。
ノーベル平和賞を受賞した中国人作家・劉暁波が起草した「08憲章」を読み解き、中国のインターネット空間を紹介しているのが、遠藤誉・筑波大学名誉教授「ネット空間が第二の天安門広場になる」です。「08憲章」の「立憲民主制の枠組みの下で中華連邦共和国を樹立する」との文言などが「国家転覆」の罪に問われたとこと。既得権益を擁護する江沢民派閥が支える次期・習近平政権はさらにネット検閲を強化し政治体制改革を遅らせるのか、それに対し若者たちの権利意識や不満が「民主」をもたらすのか、今後の動向から目を離せません。
特集外ですが、『中央公論』には、安替・コラムニスト・ブロガー「中国ネット公民社会の夢と現実」もあり、インターネットが中国社会をいかに変革したかを詳述しています。検閲はありますが、海外情報の国家レベルの独占が打破され、ネットの自由な精神を伝統メディアに持ち込んだのです。ツイッターは140字の制限がありますが、中国語であれば英語の情報量の三倍になります。ツイッターの出現は、多くの人々に民主化を推進させるとの期待を抱かせているのです。
さらに『中央公論』には、田原総一朗・ジャーナリストを聞き手に「前原誠司外務大臣インタビュー 今後も日本の原理原則を守る」があります。前原は、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定参加の必要性を熱く説いています。
民主党内からも日本外交への強い異論・深い懸念が表明されました。民主党きっての外交・安全保障政策通として知られる長島昭久・衆議院議員・前防衛大臣政務官たちが菅総理・仙谷官房長官に「建白書」を提出しました。その核心を『ボイス』に発表しています(「あくまでも“日本が主、米国が従”で尖閣は守る」。長島によれば、今回の結末は痛恨の極みであり、民主党政権の外交・安全保障政策を採点すれば、せいぜい50点で、及第点とは言えません。
宮崎正弘・評論家「“次期主席”習近平と日中関係」『ボイス』は、中国における反日デモは民衆の不満のガス抜きのための「官製デモ」であり、今後も「反日色」は強まる懼れ大とのことです。
円高・株安の状況下、若田部昌澄・早稲田大学教授「『諦念』こそを克服せよ」『ボイス』は三点を問題にします。第一は財務省の財政再建至上主義です。次に日銀のバブルへのトラウマ、第三は経済産業省の国際競争力主義・産業政策信仰です。その上で、「何もできない」とする諦念をもっとも恐れるべきだと問題提起しています。
今月の『ボイス』の総力特集は「『不透明な未来』を見通す 激突討論!2011年の日本経済」です。
巻頭の竹森俊平・慶應義塾大学教授「漂流を始める世界経済」は、「景気対策は、世界最大の大国アメリカではもはや実現が望めず、しかも保護貿易戦争も発生寸前まできている」とし、「来年のことを考えると、筆者の気持ちが暗くなる理由が理解していただけるだろう」とまで心配しています。
円高に関しては、榊原英資・青山学院大学教授「サービス立国に変身するチャンス」が、円高こそが日本企業にとって有利に働くと展開しています。それに対し、北尾吉孝・SBIホールディングス代表取締役「モノづくりの生態系が消滅する日」は、円高では「モノづくり立国」としての日本が消滅するとし、早急のデフレ克服と円建てでの海外資産の購入を提唱しています。
中国を含めた新興国経済については、松本大・マネックスグループ社長CEO「人口ベースの経済に回帰する時代」がタイトルどおり、「人口規模が経済規模を決定する時代に世界は回帰しはじめた」のであり、中国の経済発展を見込み、それを自らの成長に結びつけるべきだと説いています。しかし、柯隆・富士通総研経済研究所主席研究員「チャイナ・リスクはまだ沈静化しない」は、中国の抱える環境・政治改革問題など否定的材料をあげ、投資環境改善のため、日中両国政府の対話促進が必要だと結んでいます。
一方、竹中平蔵・慶應義塾大学教授「2020年―中国経済10年後を読む」『潮』は、中国経済の強さ、その強大化を予測し、その活力を取り込むべきと力説しています。
1960年安保改定時に“宿敵”関係にあった「昭和の妖怪」たる岸信介・元総理と清水幾太郎・社会学者は、実は安保改定から23年後(1983年)に対談していました。その秘蔵テープが『文藝春秋』で公開されました(「封印された対談 岸信介・清水幾太郎」)。清水の安保改定反対はアメリカと深い関係を持つことが日本にとって得策ではないとのことからだったとのことです。深い論議だったとは評し難いですが、“宿敵”関係が融和された雰囲気は感じ取れます。
なお、『文藝春秋』には、二人の今年度の日本人ノーベル賞受賞者が登場しています(鈴木章・北海道大学名誉教授「科学廃れて国滅ぶ」、根岸英一・バデュー大学特別教授&すみれ「金婚式 プレゼントはノーベル賞」)。共通するのは日本の若者への叱咤・激励です。 (肩書・雑誌掲載時)
(文中・敬称略) |