月刊総合雑誌2010年11月号拾い読み (2010年10月20日・記)
岡田充・共同通信客員論説委員「尖閣諸島中国漁船衝突『領土か外交か』の二択論が敗北を招いた」『世界』は、「領土問題は存在しない」との虚構にこだわり日中関係を犠牲に船長を逮捕し、結局は日中関係を優先しての船長解放、と全く逆の政治判断をしたのは二重の誤りだったと日本政府を論難しています。
「強気に終始した中国の対応に垣間見える脆さを見過ごし」たことに日本外交の欠陥を見るのが、清水美和・東京新聞論説主幹「菅政権が見逃した中国『強気の中の脆さ』」『中央公論』です。中国は、実は、「対立が続けば大衆の街頭行動が抑えられなくなるリスクを抱えていた」とのことのです。
政府を難ずるのは、佐藤優・作家・元外務省主任分析官「中国帝国主義に対抗するには」『中央公論』も同様です。「想定される中で、最悪の選択」をし、国際社会に「領土係争が日中間に存在する」との認識を持たせてしまったのです。佐藤によれば、自国の利益のみを追求する「中国の理不尽な態度に日本は妥協してはならない」のです。
対中国強硬論はまだまだあります。中西輝政・京都大学教授「尖閣『喪失』、菅政権の歴史的大罪」『ボイス』によれば、日本は一挙に「三つのもの」を失ったのです。一つは、「尖閣諸島の実効支配、つまりは領有権」、次に「『法治主義』という国是と『司法権』の独立」、三つめは「『アジアの主要国』という国際的地位」です。中西はさらに『正論』に「中国の無法を阻止する戦略はあるか」を寄せ、「日米同盟を基本にしながら、日中友好を進める」との外交路線はもはや成り立たなくなったとし、自主防衛力の画期的拡充と日米同盟の強化、憲法改正を提言しています。
『正論』では、西村眞悟・元衆議院議員「尖閣の主権発動に待ったなし」が、反日暴動に怯むことなく、「中国の横暴を一切許さないという実効措置にでることは、南シナ海における中国の横暴を阻止しようとしているASEAN諸国との連携を深めることになる」し、「日米同盟を強化する道となる」としています。
唯一の戦利品は、米国の尖閣諸島に関与するとの明確な姿勢を引き出したことであり、それを実のあるものにするためにも、九州・東シナ海での11月の日米共同訓練の場を通して、日米連携を強化すべきと、勝股秀通・読売新聞編集委員「尖閣衝突の先にある東シナ海十一月危機」『中央公論』は説いています。
山田吉彦・東海大学教授「尖閣事変勃発『自存自衛』の戦いが始まる」『文藝春秋』は、埼玉県在住の個人の私有地であり、国が約四千万円の地代を払い借り受けているなどと尖閣諸島を巡る歴史的経緯を詳述し、「領土を守り抜く、日本の『覚悟』が今こそ問われている」と結んでいます。
菅政権そのものに疑問符を付すのが、徳岡孝夫・ジャーナリスト×保阪正康・ノンフィクション作家「菅直人だから中国がつけあがる」『文藝春秋』です。
徳岡は、菅に「誠心誠意」という言葉を使わないでもらいたいとまで言い切り、また小沢一郎への不信感を露わにしています。保阪も「この国の政治家になにかを期待するだけ虚しいです」と応じています。
不信感どころか、全面否定するのが、潮匡人・国家基本問題研究所評議員「懲りない媚中閣僚の“前科”を暴く」『ボイス』です。官房長官や国家公安委員長などの前歴を問題視し、「旧日本社会党と労働組合の出身議員が居並ぶ」菅内閣は、「媚中、親北リベラル左派の正体を現した」とまで厳しく批判しています。
佐藤卓己・京都大学准教授×苅部直・東京大学教授「『ファスト政治』への処方箋」『中央公論』によりますと、十分な議論をへて導き出される理性的な意見は「輿論」=「パブリック・オピニオン」であり、好悪の空気・感情は「世論」=「ポピュラー・センチメント」とのことです。佐藤は世論調査があたかも疑似国民投票のごとくなり、即時の充足を求める政治のファストフード化が進んでいると指摘しています。両名は、政治が昨今、「世論」に引きずられていることを問題にしているのです。
『中央公論』の座談会「世論調査は魔物なのか?」はまさしく世論調査に政治が振り回されている実相を明示しています(細野豪志・民主党・衆議院議員×世耕弘成・自民党・参議院議員×橋本五郎・読売新聞特別編集員×星浩・朝日新聞編集委員)。「世論に耳を傾けるべきですが、政治家は自らの主張を掲げてあえて世論に抗する気概、迫力がほしい」との橋本の言に問題は集約されそうです。
民主党の「三長老」(渡部恒三・党最高顧問×石井一・党副代表×藤井裕久・元財務相、司会=田崎史郎・時事通信社解説委員)が『文藝春秋』の座談会に臨んでいます(「小沢一郎クン あんたの時代は終わった」)。秋からの政局は、座談会のタイトルどおりになるのでしょうか。
北朝鮮は、金正日総書記の三男・金正恩を後継者として選択したようです。李英和・関西大学教授「迷走・北朝鮮の『金正日後』体制を解読する」『中央公論』は金正日の身体的健康とともに判断能力に不安があるので、金正日の義弟・張成沢が主導権を奪おうとしていると指摘しています。西岡力・東京基督大学教授・「救う会」会長「金正日政権の崩壊が始まった」『正論』も同様に分析し、「韓米同盟と日韓友好の強化」の必要を説いています。
江川紹子・ジャーナリスト「村木厚子さんが開けた『パンドラの箱』」『文藝春秋』は、郵便不正にかかわる公的証明書偽造事件での主任検事による証拠改竄
問題に迫っています。「突発的な証拠の改竄ではなく、日頃の特捜検察の捜査のやり方の延長線上で行われた」のであり、「第三者委員会を作り、事件の背景を含めた徹底的な検証を行い、改善策を議論すべきだ」と江川は言います。
東京地検特捜部、長崎地検次席検事などの経験を有する、郷原信郎・名城大学教授・弁護士が「特別公務員職権濫用か核心は特捜検察の構造的犯罪」を『中央公論』に寄せていますが、江川と同意見です。
一方、東京地検特捜部に逮捕された経験のある佐藤優・作家・元外務省主任分析官(「外務省に告ぐ あえて特捜部を擁護する」『新潮45』)によりますと、検事は「自分で善悪の基準を決めることができるという世界観」を持ちやすく、「事実を曲げてでも真実を追及する」というクーデター的手法で世直しをしようする文化を有しているとのことです。特捜事案については「完全可視化」を実現しなくてはなりません。また、捜査情報を漏洩した守秘義務違反は糾弾しなくてはなりません。なお、大阪地検特捜部は残すべきで、東京地検特捜部と競争させ、特捜検察内部での牽制が可能となるようにすべきとのことです。
ユニクロを展開する柳井正・ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長が田原総一朗・ジャーナリスト相手に自らの経営理念を語っています(「世界で稼ぐ気がないのは、経営者の怠慢だ」『中央公論』)。柳井によれば、「安定経営」は考えない経営であり、「リスクを計算したうえで、そのリスクを取る」ことが求められるのです。要諦は「即断・即決・即実行」です。日本は世界中で稼がないと「本当は食えない国」であり、「日本発外資」を目指さなくてはならない、そのためにも外国人が仕事しやすい企業にすべく社内公用語を英語にしたと柳井は力説します。
日本経済の先行きに不安を感じる昨今、『ボイス』の総力特集「『世界に誇る』日本の技術77」を一読すると元気づけられます。
巻頭は、日下公人・評論家・日本財団特別顧問×伊藤洋一・住信基礎研究所主席研究員「『日本のモノづくり』は21世紀も揺るがない」です。伊藤は、注目すべき日本の技術として、色素増感太陽電池、患部に貼る細胞シート、ロボットを挙げています。日本の技術は「ガラパゴス化」しているといわれますが、「オーバー・クオリティー」なのであり、「進化しているぶん価格が高く、海外で売れない」だけであり、将来性を感じさせると楽観的です。日下は、高齢者関係に有望なマーケットがあると指摘しています。
橋本久義・政策研究大学院大学教授ほかによる「明日の希望を拓く『この技&この逸品』」では、「小さいけれどシェア世界一企業」が数多くあることを知ることができます。(肩書・雑誌掲載時)
(文中・敬称略) |