月刊総合雑誌2012年1月号拾い読み (2011年12月20日・記)

 1月号の特集や巻頭論文は、その雑誌の特色を強く反映すると言われています。そこで、この稿では、各誌の特集や巻頭論文と思しき論考の紹介につとめることにします。

 『正論』の特集は「増税と反日マネー」です。
 元財務官僚の高橋洋一・嘉悦大学教授は、「野田首相を手玉にとった財務省の“裏技”」を寄せ、増税に頼らずとも、震災復興・社会保障・財政再建の財源は確保できるとしています。デフレ脱却や国有資産売却などを行うべきとのことです。他に阿比留瑠比・産経新聞政治部記者「嗚呼! 自虐まみれの韓国支援」や永谷英樹・台湾研究フォーラム会長「中国よ、いつまで日本にたかるのか」などがあります。
 『正論』の巻頭論文の大師堂経慰・元日本合成ゴム専務「慰安婦強制連行はなかった」は、戦時の慰安婦たちの多くは業者によって集められたのであり、日本の官憲が強制的に連行したものではない、と朝鮮総督府江原道地方課長だった体験に基づき、論述しています。

 「『世界危機』と日本」を『潮』は特別企画として編んでいます。
 竹中平蔵・慶應義塾大学教授「欧州問題は『世界危機』の入り口に過ぎない」は、金融緩和によるデフレ克服、法人税引き下げ・規制緩和による成長戦略の確立、高額所得者への年金廃止など社会保障の整理を説いています。
 榊原英資・青山学院大学教授「『TPP』のかかえる本質的問題」は、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉は「米国の要求することが九五lで日本の要求することは五l」になりかねないと警鐘を鳴らし、野田政権の取り組むべきテーマとして、国債の大量発行による復興やアジア諸国との経済外交、とりわけインドとの自由貿易協定を上げています。
 北岡伸一・東京大学教授「揺れる世界の中で『日米中』が果たすべき役割」は、欧州発世界同時不況という危機にあって、「日米両国が中心となって、国際社会のルールにのっとった秩序を強化し、そこに中国を迎え入れるべき」と提言しています。強硬姿勢に転ずる口実を中国に与えないために、侵略戦争を正当化するような発言を日本の政治家はすべきではないのです。

 細川護煕・元総理へのインタビュー(「政権は『脱原発』に舵を取れ」)を巻頭にした「原発 全面停止への道」が『世界』の特集です。元総理は、「東日本大震災で、原発容認の非をさとり、脱原発に“改宗”」したとのことです。
 続いて、「原発利用に倫理的根拠はない―ドイツ『倫理委員会』の報告書より」、河合弘之・弁護士・全国脱原発弁護団代表「原発再稼働をどう止めるか」、田中三彦・原発設計技術者「ストレステスト以前の重大問題を問う」などがあります。

 『ボイス』の「総力特集 課題先進国日本に世界が学ぶ時代」は、「誰も経験していない未知の領域で悪戦苦闘」してきた日本こそ、「課題先進国」から「課題“解決”先進国」へと歩む可能性大ではないか、というものです。
 小宮山宏・三菱総研理事長「『グリーン』と『シルバー』で世界を導け」によりますと、日本は資源を循環させる「グリーン・イノベーション」でエネルギー自給率及び鉱物資源自給率の70%達成は可能です。高齢者が大きな役割を果たすようにするのが「シルバー・イノベーション」です。小宮山は、二つのイノベーションよって生み出される「プラチナ社会」を期待しています。
 総特集の論者・タイトルだけで元気づけられそうです。それらを、以下、記しておきましょう。
 茂木健一郎・脳科学者「燃えるような『向学心』が爆発する日は近い」、楠木建・一橋大学教授「『尖った会社』に凝縮された日本の強み」、倉都康行・RPテック椛纒\「“世界経済を救える”邦銀の侮れない実力」、猪子寿之・チームラボ且ミ長「デジタル社会と日本文化の相性は抜群だ」、上野千鶴子・東京大学名誉教授「介護保険制度は超高齢社会の救世主」、村井嘉浩・宮城県知事「成長産業の『モデル地区』宮城の可能性」、中曽根康弘・元総理「野田総理よ、常在戦場の覚悟を貫け」。

 「『大阪維新』の真価を問う」をも、『ボイス』は特集として編んでいます。
 堺屋太一「“橋下改革”こそ日本の救い」は、大阪府知事から大阪市長に転じた橋下徹の「大阪維新の会」が掲げる「大阪都構想」を高く評価しています。東京一極集中から脱し、二重行政、分割行政を廃さなくてはならないのです。特集には、中田宏・前横浜市長も、「いまこそ都道府県の枠組みを考え直せ」を寄せ、橋下の「大阪都構想」を補完しています。

 問題提起として大島真生・産経新聞記者による「民主党政権下で平成が終わる日」を『文藝春秋』は巻頭に掲げています。大島は、民主党政権が「次の皇統の課題」を放置し続けていると論難しています。「一代限りの女性天皇を視野に入れた一代限りの女性宮家容認」の議論を早急に始めないと手遅れになる可能性があると危惧しています。

 「日本はどこで間違えたか」と『文藝春秋』は、日本が「低迷をまねいた分岐点はいつか」のアンケートを有識者30人に行なっています。例えば、石原慎太郎・作家・東京都知事によれば、「無条件降伏という過誤―1945年8月」です。菅原文太・俳優「勤勉を捨てた日―バブル期」、中村邦夫・パナソニック会長「ものづくり軽視の風潮―1990年代初頭」、鈴木敏文・セブン&アイ・ホールディングス会長「消費者の変質を見誤った―1990年代以降」などもあります。
 『文藝春秋』の「保存版 年賀状 絆と希望を!」は、「著名人36人 年賀状に書き添えたい一言」や青山七恵×綿矢りさ「芥川賞作家対談 年賀状から恋がはじまる!?」などがあり、盛り沢山です。

 『中央公論』の特集は3つです。
 まず、「人脈と権力」では、後藤謙次・ジャーナリスト「田中、中曽根、竹下の力の源泉を読み解く」が、首相の面会録たる新聞の「首相動静」に首相及び政権の性格・方向性が浮かび上がると指摘し、野田首相の場合、「首相動静」に「らしさ」が見えてこない、「人脈なき政権」であり、「このままでは何も決まらない」と野田政権の前途は危ぶんでいます。
 次の特集は、久保文明・東京大学教授×細谷雄一・慶應大学教授「ポピュリズムとナショナリズムを超克できるか」を巻頭にする「2012年、指導者交代で世界は変わるか」です。二人に共通するのは、世界の指導者に比しての、日本の指導者の能力への疑念です。細谷が論ずるように、「従来の発想や慣例を超えて本当に能力のある人物」を選ぶ必要があります。
 3つ目の特集は、震災・原発事故関連のニュース以外に、重要な出来事はなかったのかとの問題意識で編まれた「大震災で忘れられたニュース」です。大沢洋一郎・読売新聞論説委員「住民を置き去りにした福島・仙台地検の容疑者釈放」は、東日本大震災時に、警察の施設に拘留中だった容疑者を釈放した地検の判断の是非を問うものです。他の施設に移送すべきではなかったか、今後の災害時のためにも再検討すべきと問題提起しています。

 『新潮45』は、榊原英資・青山学院大学教授「世界恐慌の跫音」、中野剛志・京都大学大学院准教授「貿易協定という名の『仁義なきルール戦争』」などによる「路頭に迷う世界」を特集しています。榊原は野田政権を「政策音痴」とまで難じ、中野はTPPへの参加は日本にとって望ましくないと断言しています。
 さらに、『新潮45』には「保存版! 弁護士国会議員総覧」を付した「『弁護士政治家』が日本を滅ぼす」との特集があります。国会議員752人のうち弁護士資格を有するのは32人で、比率としてはかなり高いものがあります。佐藤優・作家・元外務省主任分析官の論考のタイトル(「『政治指導者』に最も向かない人々」)が示唆するように、弁護士が多い日本政治を憂慮する企画です。

 渦中のマイケル・ウッドフォードが『文藝春秋』(「オリンパス外国人元社長の告白」)と『ボイス』(「オリンパス問題の真実」)の2誌に登場しています。
 

(文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時)

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