月刊総合雑誌2012年2月号拾い読み (2012年1月20日・記)
2月号は新年早々の店頭に並びます。新年にふさわしく、『中央公論』は「忘れられない恩師」を特集として、『文藝春秋』は「嗚呼『同級生』たかが同い年されど同い年」を特別企画として編んでいます。
『中央公論』で、塩川正十郎・元財務大臣が岸信介を、中村吉右衛門・歌舞伎役者が松本白鸚を、森下洋子・バレリーナが松山樹子、趙治勲・囲碁棋士が木谷實を、それぞれ恩師として敬意をこめて紹介しています。
塩川は、岸の「声ある声に屈せず、声なき声に耳を傾ける」信念・姿勢に感銘を受けたのです。中村は実父・白鸚の“雑な教え”に、その真意は悪い癖まで伝わることを避けるためでありと知り、教える立場の困難さを悟るのでした。舞踊歴60年目を迎えた森下は、松山樹子の舞台に感動し、松山バレエ団の門をたたくことになったのです。趙は6歳で韓国から木谷道場の内弟子となり、師から受け継いだのは、「碁盤のマス目は勉強すればするほど広くなっていく」とのことです。他に、リービ英雄・小説家など12名が含蓄に富む文章で師を綴っています。
「嗚呼『同級生』たかが同い年されど同い年」は、1911年生まれ(日野原重明)から1992年生まれ(松山英樹)までの「あなたと同い年の有名人年表」を付し、30組の同級生を取り上げています。森田実・政治評論家が1932年生まれの石原慎太郎・青島幸男・横山ノックを論じたり、二宮清純・スポーツジャーナリストが王貞治と大鵬を、その他、花の中三トリオや大岡昇平・太宰治・中島敦・松本清張を取り上げるなど多彩です。キムタクこと木村拓哉は今年不惑を迎えますが、実は“女装の怪人”マツコ・デラックスと“同級生”だったのです。
自らが同い年を語っている稿もあります。例えば、中曽根康弘が田中角栄を語り、みのもんたが久米宏・草野仁を語っています。松下政経塾のルームメイト(加藤康之・CNインターボイス副社長)によりますと、野田総理は「必ずしも目立つほうではありませんでしたが、不思議な磁力のある男」だったとのことです。
野田政権が進めるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加や「社会保障と税の一体改革」に、『潮』は否定的です。
野口悠紀雄・一橋大学名誉教授「関税同盟のTPPは『時代遅れ』」は「(TPP参加で)打撃を受けるのは農業、得するのは輸出しやすくなる製造業」との認識は誤りだと力説しています。TPPは自由貿易化ではなく、関税同盟だとし、参加すれば最大の輸出先の中国市場を失い、日本の製造業が崩壊する可能性があると指摘しています。
高橋洋一・嘉悦大学教授は、鈴木亘・学習院大学教授との対談(「『増税の罠』に陥ると財政再建は失敗する」)で、経済成長率を高めるべきであり、「『社会保障と税の一体改革』は、厚生労働省と財務省にとっては大きな利益になるでしょう。しかし、国民にとってはまったく意味がない政策です。景気を悪くするうえに、税収を少なくしてしまう可能性が高い」とまで言い切っています。
『ボイス』は「総力特集 崩れゆく世界、ひとり勝ちの日本」を編んでいます。その中で、ポール・クルーグマン・プリンストン大学教授「世界中の銀行が凍結する日」は、ヨーロッパ経済をきわめて悲観しています。日本は、財政拡張をし、インフレ目標を定め、実質金利をマイナスにし、個人消費を促進すべきで、消費税増税の前に、上の高橋と同様、経済をよくすることが必要だとのことです。
それに対し、前原誠司・民主党政策調査会長は、竹中平蔵・慶應義塾大学教授との対談(「歳出削減なき増税の愚」)で、「税率五%は世界的にも低い水準で、それを引き上げた場合には、むしろ政治決断を評価し、円が上がり、金利が下がり、株価が上がる可能性がある」との見方を紹介しています。
「米、中、韓、台、露、仏という日本にとって重要な国々が軒並み、選挙や指導者交代を迎えるから」大変な一年になると、PHP総研グローバル・リスク分析プロジェクト「指導者交代!2012年の10大リスク」は予見します。10大リスクとは、地域経済ブロック形成の動き、欧州・米国の経済低迷の世界的連鎖、米国の対外関与の後退、中国の挑戦的対応、南シナ海の緊張、不穏な北朝鮮、ミャンマーを巡る米中の外交競争、南アジアの不安定化、中東バトルロイヤル、イランの暴発です。
中西輝政・京都大学教授「米中対峙最前線という決断」『正論』は、米国は「中国封じ込め戦略」を明確にしましたが、国防費を大幅に削減せざるを得ず、日本は中国の軍事的脅威にさらされると警鐘を鳴らしています。対中抑止力の象徴たる「辺野古の海兵隊」問題を解決しなくてはならないし、「財政危機よりも社会保障よりも、今はるかに緊急性が高いのが防衛力の増強」とのことです。
一方、寺島実郎「世界認識の鮮明なる転換」『世界』は、「冷戦期を引きずる時代遅れの日米同盟」に執着してはならないし、「米国を頼りに中国の脅威と向き合う」固定観念から脱却し、「自立自尊をかけて米国と正対して主体的にアジア太平洋に安定基盤を構築」すべきだと説いています。麻生時代の「自由と繁栄の弧」などの外交構想をも斬って捨てています。
寺島が否定するような外交ビジョンすら、民主党政権になってから出てきていないと慨嘆するのが、山内昌之・東京大学大学院教授×久保文明・東京大学大学院教授「激変する世界と日本の行方」『潮』です。山内の表現によれば、「民主党政権は『脱官僚』と『政治主導』を誤った文脈で解釈した結果、外交と安全保障の領域を『解体』してしまいました」となります。
『ボイス』は、「日本の家電は甦るか」をも特集しています。昨年、日本の総合電機メーカーは、新興国企業の低価格商品との競合で赤字に陥りました。技術面でも苦境が続いています。日本の家電の前途が不安です。
巻頭で、大坪文雄・パナソニック代表取締役社長「『暮らしソリューション』で世界に勝つ」は、ソリューション・ビジネスにシフトすると明言しています。個別の製品をシステム化していくのです。例えば、「コンビニまるごと」は、コンビニの照明、空調、冷凍冷蔵機器など、個別の商品を用意し、さらに保守・メインテナンス、改善などを担うのです。地域全体の生活を対象にする「スマートコミュニティ事業」などもあります。
この事業の可能性については、柏木孝夫・東京工業大学教授「スマートコミュニティを新たな輸出アイテムに」が詳しく論じています。個々の家庭ではなく、千所帯、二千所帯を一つの「自然エネルギー発電所」にし、効率的に電気をつくり、使うようにするのです。2030年までに世界で三千兆円以上の巨大な新市場を生むとの試算もあるようです。
安倍晋三・元総理「民主党に皇室典範改正は任せられない」『文藝春秋』は、女系天皇には反対であるとし、女性宮家の創設よりも、旧宮家の中から希望する方々の皇籍復帰の検討を提唱しています。旧皇族の竹田恒泰・作家・慶應義塾大学講師も『ボイス』(「女性宮家は日本を滅ぼす」)で、「まず男系継承の伝統を守ることを先に考えるべきだろう」と説いています。
『中央公論』は、上述した特集は第2特集的で、それよりも大きく「大学改革の混迷」を特集として掲載しています。
青木保・国立新美術館館長×吉見俊哉・東京大学大学院教授「日本の大学の何が問題か」は、大学の歴史的な位置づけを試みています。グーテンベルグが印刷技術の発明した当時と同様、現在IT革命によって、大学は知識を囲い込むことができなくなっているのです。青木によれば、「(日本の大学からどんどん失われている)専門知識と教養の融合によって文化による人間的成長を図る」機能を取り戻すことが必要です。さらに、「国際標準」に合わせる「9月入学」に起爆剤的役割を期待しています。
苅谷剛彦・オックスフォード大学教授「『小さな政府』に高等教育は可能か」は、学費を親が負担し、大学の偏差値ランクで就職が決定され、閉じた空間内で教育の付加価値が問われない状況下、国際的レベルにキャッチアップする困難さを詳述しています。
(文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時) |