月刊総合雑誌2012年3月号拾い読み (2012年2月20日・記)
中国の習近平国家副主席がワシントンを訪れ、オバマ米大統領、バイデン副大統領と、今後10年間の米中関係を見すえた会談を重ねた(2月14日)と報じられた頃に店頭に揃った3月号に中国関連の論考を探ってみることにします。
渡辺利夫・拓殖大学総長・学長「帝国を志向する中国」『正論』は、「中国は膨張する経済力をもって軍拡路線を進め、東アジアの地域覇権をいずれ掌握しよう」とし、この動きに、日本は鈍感であってはならないと警鐘を鳴らしています。さらに、尖閣諸島衝突事件以降の日本政府の対中対応を「主権侵犯という辱めを受けても、これに法治主義の原則に則って然るべき手を尽くす気概さえない」と慨嘆しています。なお同論考は、「第27回正論大賞」受賞記念論文です。
アメリカは財政能力上の問題から、「中国封じ込め」戦略をいずれ放棄せざるを得なくなるので、日本に「自主防衛能力を確立してから、対米協力する」との国家戦略を求めるのが、同じ『正論』での伊藤貫・国際政治アナリスト「アメリカの『中国封じ込め戦略』に対する8つの疑問」です。
また、『正論』では、宇田川敬介・国会新聞編集次長「中・朝・韓も見放す民主党害交」が、肝心の現政権には外交能力がまったくなく、「外交」ではなく「害交」となっているとまで論難しています。
一方、対中国外交の最前線にいる丹羽宇一郎・在中国日本国大使「日中の衝突は身体を張って阻止する」は、『ボイス』の「総力特集 中国の難題」の巻頭で、周恩来・元中国首相の言葉を借り、「和すれば益、争えば害」とし、日中友好の重要性を訴えています。
同特集には、エズラ・ヴォーゲル・ハーバード大学名誉教授×橋爪大三郎・東京工業大学教授「ケ小平の功績、習近平の試練」、上野泰也・みずほ証券チーフマーケットエコノミスト「『短期楽観・中長期警戒』の中国経済」、春名幹男・名古屋大学大学院特任教授「『北の崩壊』をめぐる米中韓の暗闘」、金美麗・評論家「『統一を望まない』台湾人の声を聴け」や中西輝政・京都大学教授「『キューバ危機』に陥った極東情勢」などがあります。
ヴォーゲルは、ケ小平は改革開放を実現したと高く評価し、次期・指導者たる習近平は胡錦濤よりも強い指導者になる可能性ありとみています。上野の見方は、中国経済は「官主導でいびつな成長を遂げてきた」ので、彼の論考のタイトルに集約さるとのことです。つまり、2012年の中国経済は楽観できても、その先の保障はできないというのです。
春名は、中国は北朝鮮の崩壊や南北統一を望んでいないので、北に改革開放政策の実行を強く迫りますが、北が反撥する可能性もあると指摘しています。
1月14日、台湾総統選挙があり、国民党の馬英九総統が、民進党の蔡英文候補を破り、再選されました。金は、台湾が中国に呑み込まれるのではと危惧しています。中西は、中国が「世界一の核戦力国家」になり、「アメリカをアジアから追い出す」ことが達成される可能性大とし、さらに台湾海軍や中国海軍が尖閣諸島や沖縄本島の沖合で共同訓練を行いかねないとし、日本に「自立防衛」を強く求めています。
宮崎正弘・評論家「美しき島のゆくえ―台湾総統選見聞記」『正論』は、政治状況が米中対立時代となったので、馬政権の北京への急接近は遠のいたと予見しています。また、岡田充・共同通信客員論説委員「台湾総統選挙 勝敗を決めた『2008年効果』」『世界』も、大陸・台湾の両岸関係の“安定”が選択された、と分析しています。
昨年末、北朝鮮の指導者・金正日が死去し、金正恩が後継者となりました。今後の東アジアには北朝鮮の動向が大きく影響します。上記の論考の多くが言及していましたが、とりわけ『世界』が「『金正日』後継体制と日本」を特集していました。
巻頭は、李鐘元・立教大学教授×平井久志・共同通信編集員兼論説委員による対談「ピョンヤンの抱える本質的ジレンマ」です。先軍と経済の立直し、核開発と諸国との関係改善は矛盾します。それが「本質的ジレンマ」です。李によれて、中国指導部の交代がある今秋以降、中国が相当「管理」する形になる可能性があるとのことです。蓮池透・拉致被害者家族「打開のために、私たちから動こう」は、「(北朝鮮に対し)拉致問題に協力すれば支援もするということを丁寧に説明」すべきと力説しています。
「日朝関係正常化なしには拉致問題の解決もない」と説いているのが、小此木政夫・九州大学特任教授「北朝鮮・金正恩体制にどう向きあうか」『潮』です。
北の政治体制の変化を期待するのであれば、市場経済を導入させ、まず経済体制を変化させなくてはならないとのことです。
『父・金正日と私 金正男独占告白』(1月20日、文藝春秋刊)の著者・五味洋治・東京新聞編集員が『文藝春秋』に「金正男の衝撃メール」を寄せ、先の著書のさい、未公開にしたメール9通を明かしています。そのうちの1通には、「父上(金総書記のこと)は老い、後継者(正恩氏のこと)は幼く、叔母の夫(張成沢国防委員会副委員長のこと)は軍経歴が一度もなくて、北朝鮮軍部を制約する人が事実上いないようです」などとありました。
『世界』は「何のための『一体改革』か」をも特集していました。
宮本太郎・北海道大学大学院教授「『一体改革』を新しい構造改革へ」によれば、「一体改革」とは、「社会の持続可能性」確保のための社会保障政策と「財政の持続可能性」のための税制改革を相乗的に進める改革のはずだ、ということです。経済成長がすべてを解決するとの議論を排し、一体改革を真の構造改革に高めていく必要があると説いています。
「成長が分配の問題を解決してくれる」との幻想は一定の世代以下は持たなくなっているし、「経済成長あるいはGDPが増加すれば人々は幸せになれるといった“単純な時代”ではなくなっている」と広井良典・千葉大学教授「ポスト成長時代の社会保障」は指摘します。「持続可能な福祉社会」とその実現のための政策はいかにといった議論に多くの世代に参加を求めていくべきなのです。
37年前(1975年2月号)に掲載された論文が『文藝春秋』に再録されています。題して、「日本の自殺」、筆者は、グループ一九八四年。若宮啓文・朝日新聞主筆が紙上(1月10日付)で、「『日本の自殺』がかつてなく現実味を帯びて感じられる」と記したことが再録の契機になったのです。同論文の趣旨は、編集部が付したリードによりますと、「高度成長を遂げ、繁栄を謳歌する日本に迫る内部崩壊の危機に警鐘を鳴らすものだった」のです。当時の編集長の田中健五による「『グループ一九八四年」とは何者か』によれば、グループ一九八四年とは、ジョージ・オーエルの近未来小説『一九八四』をもじったもので、「多くの文明において、国民が利己的な欲求の追求に没頭し、難局をみずからの力で解決することを放棄するようになり、しかも指導者たちが大衆迎合主義に走った時、国家が自殺する」と指摘したのです。田中は、「『日本の自殺』がますます近づいているような気もします」と結んでいます。
『文藝春秋』には「第146回芥川賞発表」があり、受賞作2篇(田中慎哉「共食い」、円城塔「道化師の蝶」)とともに、選評と受賞者インタビューが掲載されています。受賞者はともに39歳です。円城はポスドクでお金に困って小説を書き始めたとのこと。田中は、高校卒業後、職についたことはないし、選考委員の石原慎太郎を揶揄したような受賞時の会見が波紋を呼び、一躍話題の人となりました。石原の選評には、「描かれている人間達のほとんどがちまちまとひ弱く、どの作品のそれもそのまま横並びの印象にくくられている」、「新しい文学の現出のもたらす戦慄に期待し続けてきた。(中略)ほとんど報われることがなかった」とあり、今回をもって選考委員を辞めるとのことです。
『中央公論』には「新書大賞2012」の発表がありました。大賞は橋爪大三郎/大澤真幸『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書)です。橋爪・大澤による「大賞受賞記念対談」も付されています。
(文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時) |