月刊総合雑誌2012年4月号拾い読み (2012年3月20日・記)
3月11日、東日本大震災から1年経ちました。月刊総合雑誌4月号の多くが震災にあらためて取り組みました。
「生き延びた人間は、失われたものを深く悲しまなければ、再び歩きだすことは出来ない」との思いをこめ、『世界』の特集は「悲しもう……東日本大震災・原発災害1年」です。
片岡龍・東北大学大学院准教授「悲しみを抱えて生きる」は、「原爆の怖さを十分知りながら、どういうわけか原発にはあまり関心が向かなかった」と吐露し、「こんどこそ本当に幸せな人格と社会を作り出す、その可能性に賭けて生きることが、生き残ってしまったすべての人間の務めではないだろうか」と述懐しています。
中手聖一・子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク前代表「生まれ変わろうとしている“福島人”」は、「すべての原発を止めること、福島を核のゴミ捨て場にさせないこと、子どもたちに胸を張って語り継げる生き方をすること」が自らの本懐だとしています。山川充夫・福島大学教授「原発なきフクシマへ」も、タイトル通り、「一日も早く、原発を恐れる必要のない社会を実現するために、多くの人たちが『脱原発』のもとに結集」するようにと訴えています。
トーマス・コーベリエル・自然エネルギー財団理事長「エネルギーシステムの改革は、今すぐに可能だ」は、日本はコストのきわめて高いエネルギーに依存してきたからこそ再生エネルギーを普及させるチャンスはきわめて大きいとし、地域ごとの電力独占体制をなくすべきと展開しています。
岡田知弘・京都大学大学院教授「どんな復興であってはいけないか」は、現在、政府や県によって進められている復興は、「ショック・ドクトリン」(惨事便乗型資本主義)と表現すべきで、グローバル企業や復興ビジネスの「経済成長」を最優先するもので、被災者の生活・地域社会の再建は遠のく恐れが強いと指摘しています。
高成田享・仙台大学教授/布施龍一・フェアトレード東北理事長「復興からとり残される『在宅被災者』」は、何らかの理由で仮設住宅に入れなかった人々への支援の手が届かないと問題提起し、孤独死や自殺を防ぐためにも、「地域包括ケア」を提唱しています。
『文藝春秋』は「総力特集 3・11日本人の反省」を編んでいます。
巻頭で、柳田邦男・ノンフィクション作家「巨大津波 無視された警告」は、専門家たちのリスク認識やリスク管理を論難しています。
船橋洋一「機密文書 官邸が隠した原発悪魔のシナリオ」は福島原発事故独立検証委員会プログラム・ディレクターとしての寄稿で、つまり「民間事故調」の調査・検証報告書の一部です。菅総理を中心とした官邸の狼狽ぶりが窺えます。「悪魔のシナリオ」のもと、3000万人の首都圏の住民の退避が必要となる可能性もあったのです。猪瀬直樹・東京都副知事「東京電力の研究」は、電気料金値上げの前に、子会社との関係見直しや企業年金の削減などの企業努力を東京電力に求めています。また、九電力による地域独占の改善を求めています。
水野倫之・NHK解説委員「原子炉内部はどうなっているのか」によりますと、放射性物質の放出は続いているのですし、原子炉の中の詳しい状況は依然としてつかめていないのです。完全に安全な状態にするためには、「溶けた燃料を取り出さなければならない」のです。まだまだ困難が予想されます。
「震災一年 科学は敗北したのか」が『中央公論』の特集タイトルです。
中野不二男・ノンフィクション作家「“敵探し”からは何も生まれない」は、「(原発の推進派と反原発派の)双方の理屈を理解し合い、現実解を探そうとする“真ん中”の議論」をすべきと提言しています。「脱原発」と言い切るのならば、エネルギー問題への答えを用意すべきで、一方、原発推進派は、核廃棄物・廃炉・事故などの解決策を提示すべきなのです。
吉川弘之・科学技術振興機構研究開発戦略センター長「地に墜ちた信頼を取り戻すために」は、「科学と社会の関わり方」がテーマです。未知の事象について、科学者、あるいは科学者の集団は、社会にいかに提言すべきなのでしょうか。日本の「審議会方式」は政治に恣意的に利用されがちと指摘し、原子力などについては、日本学術会議が機能すべきと提唱しています。
吉川によれば、日本学術会議は提言にあたっては、次のような方式を採用しています。「議論に参加した科学者の八割以上が賛成した場合は、学術会議の総意として提案する。例えば反対者が三割以上いたら、そのことを付帯条件として明記した提言にする。賛否が半々に近いような場合は、定期的にそれについて論議する『オープンフォーラム』を開いて、その結果はすべて公開する」。結局、日本学術会議としての提言の中身は「原子力の安全性のレベルはどのあたりにあるのか、どうしたらそれを高めることができるのか」となるので、それを踏まえて、「脱原発」か「推進」か、といった政策を決するのは、「100%政治の仕事」とのことです。
加藤尚武・京都大学名誉教授「テクノ・ポピュリズムとテクノ・ファシズムの深い溝」は、「核廃棄物の利害関係者の大半は未来世代」との問題を考察しています。現在の世代の決定が、それがいかに多数決によって民主的になされたとしても、未来世代にとって不利になる場合、現在の多数決制度は不正を防止する機能は持たないのです。「未来世代への慰謝料を電力料金に加算する必要」がありそうです。「ポピュリズムの体質に浸った政治家もジャーナリストも、反対するだろう」とし、加藤は「決定能力のない国民は前へ進むことができない」と結んでいます。
『ボイス』では、被災県の知事が登場しています(「特集 震災一年、県知事が語る!」。
佐藤雄平・福島県知事「子供医療費“無料化”で安心な社会を実現」は、全県民を対象に被曝線量の推計評価や甲状腺検査など、詳細な調査を長期間にわたって実施するとのことです。また、福島県沖に世界最大規模の集合型洋上風力発電所をと意気込んでいます。
村井嘉浩・宮城県知事「仙台空港を民間委託で東北の新しい顔に」は、民間のノウハウ・資金力を最大限に活用すると明言しています。復興特需を県全体に行き渡らせるため雇用回復に努め、「水産業復興特区」に民間の参入を促し、水産業の立直しと回復を企図しています。
達増拓也・岩手県知事「“復興党”の旗の下に政治勢力の結集を」は、ユネスコの世界文化遺産となった平泉町を中心とした観光振興を復興の柱の一つと捉えています。さらに、北上山地への素粒子研究施設誘致を復興の起爆剤として捉えています。
大阪府知事から大阪市長に転じた橋下徹が率いる「大阪維新の会」の動きが活発です。
屋山太郎・政治評論家「橋下旋風は“遊び”では終わらない」『ボイス』は、橋下が提唱してきた、府市統合、公務員制度・教育改革は、これまで等閑視されてきた大きな問題だと位置づけます。さらに橋下が“船中八策”の名のもとに取り組んでいる憲法改正なども、「社会の根本に関わる問題ばかり」だと高く評価しています。『ボイス』では、渡辺喜美・みんなの党代表が、高橋洋一・嘉悦大学教授との対談(「民主党に脱・官僚は絶対にできない」)で、「脱官僚」「地域主権」「生活重視」など、「大阪維新の会」とみんなの党のアジェンダは一致するとし、結集していくと表明しています。
一方、野中尚人・政治学者「橋下徹大阪市長は“壊し屋”を超えられるか」『中央公論』や渡邉恒雄・読売新聞会長・主筆「日本を蝕む大衆迎合政治」『文藝春秋』は、橋下の独裁的政治姿勢を危惧しています。渡邉は、日本がギリシア化しないため、ごく近い射程として「税と社会保障の一体改革」を求め、消費税は20%前後まで上げるべきと説いています。
(文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時) |