月刊総合雑誌2012年12月号拾い読み (2012年11月20日・記)
『ボイス』は「『反日』に負けない日本経済」を総力特集として編み、その巻頭は、遠藤功・早稲田大学教授「傷ついた日本ブランド・復活の条件」です。尖閣諸島国有化に端を発した反日デモによる破壊行為などは「想定内」として考えるべきで、「リスクに腰が引けて撤退するくらいなら、初めから進出しなければよい」とのことです。「付加価値の高い商品やサービスを提供し、そこから得た収益を地元の従業員に還元していく。日本企業の存在が、中国のためにもなっていることを目にみえるかたちで示す」ことが日本ブランドの復活への道です。
一方、福島香織・ジャーナリスト「日本なくしては中国人の生活は成り立たない」は、中国の中産階級のライフスタイルへの日本製品の影響力が甚大であることを紹介しつつも、それが手に入らないことに気付いた低層の若者たちの不満の矛先が日本製品に向かう傾向にあり、反日カントリーリスクは数年は続くと予見しています。
「今回の問題から受ける経済的なダメージは、日本と中国のどちらでより大きいかといえば、やはり日本ということになる」と、上野泰也・みずほ証券チーフマーケットエコノミスト「『中国に頼らない』景気回復は可能か」は分析しています。「野田内閣は予備費を財源とする新たな経済対策を打ち出した。だがそうしたことよりも、日中関係をできるだけ早く正常化することのほうが、景気対策としては意味がある」と結んでいます。
『文藝春秋』の川村雄介・大和総研副理事長「日本企業 声に出せない本音アンケート」によれば、9月の日本の対中輸出は前年同月比マイナス14%です。仮に日本の対中輸出が1ヵ月間停止すると日本の国内生産は2.2兆円減りますが、中国経済への影響も大です。中国製品の心臓部を構成する高度な製品の供給源は日本です。また日系企業で働く中国人は約1000万人です。しかし、今後、日系企業は、アセアンなどに有望な進出先を求め、リスク分散をはかり、「チャイナ・プラス・ワン」でなく、「プラス・チャイナ」の時代に入るとのことです。
同じ『文藝春秋』で、伊藤博之・ジャーナリスト「中国人労働者『賃上げ暴動』の内幕」が、中国人の賃金は実は安くないとの衝撃的なデータを明らかにしています。生産性が日本の四分の一から六分の一しかないので、コストパフォーマンスが悪いのです。むしろ日本人パートの賃金水準の方が低いことになりそうです。「日本の生産現場にとってはチャンスでもあり得る」のです。
「領土問題と歴史認識―対話の道を探る」が『世界』の特集です。高原明生・東京大学大学院教授「尖閣問題をパンドラの箱にしまいなおす」は、尖閣問題を単純に「棚上げ」すべきとするものではありません。短期的目標としては、互いに「同意しないことに同意」し、「力」で現状を変えないようにすべきとのことです。中長期的には、「日米中安全保障対話メカニズム」の構築を求めています。
田畑光永・ジャーナリスト「『領有権問題』をめぐる歴史的事実」は、40年前の日中国交回復交渉時からの経緯を踏まえ、両国にとって一番らくな対処であったが故に暗黙の了解として採用された「棚上げ」が、それぞれの国家主義者の不満を累積し、かえって危険を招いたと分析します。ですから、「問題に正面から向き合わずに事なかれ主義で日を送ってきた両国外交当局の不作為」が問題なのであり、今後は、「両国は対座してまずあの島々についての双方の主張をぶつけ合うべき」なのです。
岡田充・共同通信客員論説委員「『脱領土』を模索する馬英九提案」は、馬総統による8月5日提案の「イニシアチブ」を評価します。趣旨は「領土争いの棚上げと共同利益の追求」です。漁業権ならば民間レベルで交渉できます。この点では、台湾とともに実質的利益を追求できそうです。
領土問題をめぐる日中の衝突において、薮中三十二・立命館大学特別招聘教授「いまこそ国際世論を味方につけよ」『ボイス』によりますと、「第一幕」は中国の国際世論作戦が効果あり、「第二幕」では国際世論が日本に有利な方向に動いているとのことです。日本が国有化を仕掛けたから問題が大きくなったと受け取られましたが、その後、中国の脅威に対し、日本は意外に頑張っている、もっとしっかりやってくれとの期待が高まっているのです。2008年6月に発表された大陸棚ガス田の共同開発の合意を死守すべきとのことです。
宮本雄二・元中国大使「日中消耗戦を勝ち抜く智恵」『文藝春秋』は、「日本社会は自己抑制のきいた大人の対応をしてきた」のであり、「ここに日本社会の成熟を見る」と展開しています。「日本の成熟した大人の対応は、中国を驚かせ、世界に好感を与えた。それが国家社会としてのソフトパワーなのだ」なのです。
問題の発端を作った石原慎太郎・前東京都知事は、『文藝春秋』に「国を変え、日本人を変える」を寄せ、国政復帰への決意を語っています。「中央官僚に操られる愚鈍な政治家にはしばしば呆然」とさせられるから国政に復帰するようです。また、「『寄らば斬る』の態度を示さなければ、日本外交はシナに一点突破全面崩壊させられてしまう」と危惧しています。さらに、「『アメリカ様』『シナ様』に卑屈な姿勢を示し続ける外務省と、それに完全にコントロールされている歴代政権」と論難しています。
『中央公論』の特集は「あなたの雇用、明日はあるか」で、「第一部 定年制は誰の味方か」と「第二部 リストラはどこまでひどくなる」とで構成されています。
第一部の柳川範之・東京大学教授「四十歳定年制の真意は誤解されている」は、内閣府国家戦略会議フロンティア分科会「繁栄のフロンティア部会」の報告書が提言した「四十歳定年制」を詳述しています。現在の正社員のような期限に定めのない雇用契約を20年の有期契約にするのです。20年を目安に多様な働き方ができるようなオプションを設けるのが眼目です。
しかし、濱口桂一郎・労働政策研究・研修機構統括研究員は海老原嗣生・ニッチモ代表取締役との対談(「管理職を目指さない自由を」)で、40歳定年制は、「年功的な賃金体系のために中高年の人件費がかさむので、早いうちに追い出したいだけではないか」と疑問視しています。海老原は、35歳ぐらいの時点で半分以上が幹部になれないのならば、「あなたに管理職は無理だから、平社員のままやっていきますか」といった契約変更があってもいいと応じています。
第二部の山本一郎・イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役「国内にしがみつく人と未来はない」によりますと、経済停滞期に入った日本にとっての活路は、「国内事業のソフト化、研究開発やコンテンツなどの付加価値産業への移行」であり、また「都市部への産業の集積を行いつつ海外で稼げる体制へのシフト」です。「海外で戦える人材や組織を作るためにどうするか」が問われています。
井出豪彦・東京経済情報部長「これから危ない業界はここだ」によりますと、将来性は業界別よりも各企業別に検討すべきなのです。自らの勤務先が心配な場合は、酒井英之・三菱UFJリサーチ&コンサルティング経営戦略部長「会社危険度を占う七つのチェック項目」が参考になるでしょう。年商や利益額だけを目標に掲げたり、安易な値引きに走るような企業は、まずダメなようです。
『文藝春秋』の「『世代間格差』団塊勝ち逃げは許されるか」は、久田惠・ノンフィクション作家他による座談会です。昨今は、社会保障や年金などにおいて、若い世代は高齢者の世代よりも損をするようで「世代間格差」があり、「世代間闘争」とさえ言われるようです。国ができることは小さく、即効薬もなさそうです。「自己防衛」しかないのかもしれません。
山崎正和・劇作家・評論家「大停滞時代の変革願望症候群」『中央公論』は閉塞感を感じての「変革願望」が政治を困窮に追いこんでいるとの問題提起です。「変革は人に一つの目標の錯覚を与え、共同の運動に参加しているという幻想を提供するものだが、絆に飢えた日本人はいま、その幻想に憧れている」のです。しかし、実際は、「着実に進んでいる小さな改善の物語は少なくない」のです。むしろ、「近代人特有の堪え性のなさと訣別することこそ」が「とりわけ日本人に課せられた急務」とのことです。
(文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時) |