月刊総合雑誌02年5月号拾い読み (02年4月25日・記)

 加藤紘一・元自民党幹事長の議員辞職表明(4月8日)前後に店頭に並んだ月刊総合雑誌5月号は、世論の動きと同様、小泉内閣と距離を置き始めました。

 たとえば、『ボイス』は小泉総理の異常人気を見直そうと「小泉ブームは終わったか」を編んでいます。同特集の掉尾の小林良彰・慶応大学教授「人柄四九%、政策四二%」は、参議院選挙のさい、有権者が小泉総理を支持した理由を、そのままタイトルにしたものです。この2月の支持率急落は、田中外相更迭に原因を求める見方をとりません。有権者の目に、小泉総理が抵抗勢力と妥協した、と映り始めていたことが伏線としてあったと指摘しています。
 『中央公論』の特集は、「このままでは日本は自滅する」とのサブタイトルを付しての「指導力不況」です。その巻頭は、G・カーティス政策研究大学院大学客員教授「日本政治に強いリーダーが生まれない理由」です。同教授は、五五年体制下で作られた伝統的政策決定システムが崩壊したにもかかわらず、新たなシステムが用意されていないので、有能なリーダーであってもリーダーシップを発揮できないとします。つまりは政党や官僚が機能しなくなっているのです。また、リーダーたる者には、本来、政策の優先順位を決定し、タイムテーブルを作るような戦略的センスが求められます。そのセンスに小泉総理が欠けていることを問題視しています。
 さらに、『現代』の特集は、小泉総理と近い関係にあると目されてきた舛添要一・参議院議員による「さらば、小泉純一郎」を巻頭に掲げる「身内から噴き出す『カウントダウン』」です。

 『文藝春秋』の中西昭彦・ジャーナリスト&特別取材班「鈴木宗男・松岡利勝 利権の共謀」は、自民党政治・族議員の体質を論難しています。同誌はその上で、「大特集 政治四流、経済三流、外交五流」のタイトルのもと、12篇を掲載。その批判の鉾先は、秘書問題、外務省のあり方、不況対策まで広範囲にわたっています。
 同特集内で、小泉総理の支持率急落の秘密に迫っているのが、椎名玲・ジャーナリスト「小泉・真紀子・辻元『主婦の世論』」です。オバサンたちは世の男性にルサンチマンを抱いています。男性優位社会を嫌悪しています。田中は、果敢に男性社会に斬り込んでいったのであり、「ベスト・オブ・オバサン」です。外交政策に失態があったとしても許容範囲内です。その田中が小泉を支持したから、オバサンが小泉をペット的に支持したにすぎないのです。田中更迭は、飼い主をペットが噛み付いたことを意味します。なお悪いことに、ペットは新しい飼い主(自民党の抵抗勢力)のもとに走ってしまったのです。これでは支持率は急降下必至です。辻元清美元議員もオバサン的感覚からすれば、男性たちに斬られたのです。
 先の小林の指摘が正しいのか、椎名のオバサン論が正しいのか、学問的裏付けのある研究が待たれます。ただ、直感的・感覚的には、椎名の論述は共感できます。

 『文藝春秋』の大特集で特筆すべきは、水木楊「二〇〇七年『合衆国日本州』誕生す」です。日本が独力では経済的苦境から脱することができず、米国に吸収合併されてしまうという近未来小説ですが、なぜか説得力があります。
 その米国も昨年9月11日(同時多発テロ)以来、おかしくなってきています。C・ボイド・米外交問題評議会副会長と渡邉昭夫・平和・安全保障研究所理事長の対談「ブッシュ『悪の枢軸』発言の狙いを読む」『中央公論』によりますと、外部の勢力に侵害されることなどあり得ないと思い込んでいた米国人にとり、同時多発テロは大いなる驚きだったので、それ以降、人々の世界に対する認識、見方、感じ方が大きく変化したとのことです。米国は、イラクなどに対し、単独でも軍事行動を起こしかねません。米国人はそれを許しそうなのです。
「報道の自由」を誇ってきた国のメディアさえ変質してしまいました。冷泉彰彦・著述家「苦悩する米国のテレビ界」『論座』は、愛国心に凝り固まった米国の世論の圧力により、テレビをはじめメディアの政府・政策批判が困難になっている状況を詳述しています。「報道の自由」も損なわれているのです。
 先の対談では、ボイドは、自国民の変化を肯定的にとらえ、かつ同盟国は米国と協調行動をとるべきと説いています。それに対し、渡邉は、行動の前に、同盟国間での「ビジョン・シェアリング」が大切だと応じています。「今後の世界をどう形成していくべきか」についての認識を一にしていかなくてはならない、とするのです。
 では、日本はいかなる認識で、いかなる行動をとるべきなのでしょうか。情けないことです。冷戦終結後10年もたったのに、わが日本は、50余年前からの懸案・戦後処理が終わっていません。まずは、北朝鮮とロシアとの外交関係を整理・解決しなくてはならないでしょう。

 北朝鮮との関係ですが、同国とは、日本人拉致問題を抱え、1992年以来、外交関係が進展していません。この問題を通史的に詳述しているのが、小此木政夫・慶応大学教授「日本の外交戦略が試されている」『中央公論』です。安易な解決策はありません。忍耐強い、かつ機動性の高い外交が求められます。そのために、小此木は専従の「外交特捜班」設置の必要を力説しています。同誌には、枝村純郎・元駐ロシア大使「日露交渉の『枠組み』を立て直せ」もあります。鈴木宗男の容喙により頓挫したとされるロシアとの関係改善には、日本の外交戦略をまさしく立て直さなくてはなりません。それには93年エリツィン大統領来日時に発表された東京宣言(領土問題解決のための「枠組み」を両国が合意)の時点に立ち戻らなくてはなりません。日本外交は実に9年も浪費したことになります。
 北朝鮮・ロシアとの地道な交渉のほかに、日本は北東アジアの安定に貢献しなくてはなりません。この問題に『論座』の2篇の論文(劉傑・早稲田大学助教授「日中の相互不信を信頼へと変える法」、李鐘元・立教大学教授「北東アジアを『想像の共同体』に」)が答えようと努めています。
 2篇とも、日本はまず近隣諸国との友好関係を構築すべき、それが世界の平和・安定に寄与すると力説しています。中国・北京出身の劉は、日中両国とも、「歴史を克服」すべきだとします。そのためには、彼によれば、両国の学者が国籍から離れ、研究者としての立場を貫いての共同研究(「知の共同体」)を活発化すべきなのです。韓国・大邱出身の李は、各国NGO共同の「東アジア平和協力隊」を創設し、世界各地の紛争地域の平和構築・復興に取り組むことにより、日本と近隣諸国との相互不信を市民レベルから払拭するのが近道だと提言しています。

 サッカーの日韓共催ワールド・カップが迫っています。欧米からは、韓国人は犬肉、日本人は鯨肉を食することを野蛮視する声が届いています。それらに対し、真っ向から反論しているのが、呉善花・エッセイスト「犬・鯨、喰べて何がワルい!」『諸君!』です。韓国ではペット用の犬を食べているわけではありません。日本でも、鯨肉を牛肉のように大量に食べてきたわけでもありませんし、食べようとしているわけではありません。また、欧米人の肉食とどこが違うのでしょうか。呉は、小気味よいほど欧米の自然保護・動物保護の偽善をついています。

 いまだ景気回復を実感できません。しかも、高齢者だけでなく、会社人間になってしまった40代の働き手も生きづらいようです(堀場雅夫・堀場製作所会長と大前研一・評論家の対談「四十代が会社をつぶす」『ボイス』)。外資系企業の幹部から転じ証券会社を起業した若手経営者たる松本大・マネックス証券社長(「21世紀の仕掛け人」『ボイス』)のような覇気があらためて求められています。

 この四月から、公立小中学校では、新学習指導要領が実施され、完全週休2日制となりました。この問題につきましては、『論座』が「新指導要領スタート どうする学校!」と題して特集しています。ただし、この欄では、これまでもたびたび触れてきましたので、今月は詳述することは避けます。
(文中・敬称略)

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