月刊総合雑誌03年1月号拾い読み (02年12月25日・記)
雑誌界では、12月が新年、初旬には、平成15年1月号が揃いました。
もっとも目立つ筆者・論者は、蓮池透・「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」事務局長です。4誌に登場して、これまでの経緯、帰国した弟をはじめとする拉致被害者の状況や日本政府・外務省の対応ぶりを詳述しています。タイトルと誌名だけでも掲げておきましょう。「変貌した弟に激しく迫った実兄の衝撃証言」『正論』、「わが弟、薫との暗闘の日々」『潮』、櫻井よしこ・ジャーナリストとの対談「助けにこなかった日本政府」『ボイス』、「弟と私 誰にも言えなかった修羅」『文藝春秋』。右の1篇にでも目を通せば、彼ら家族の労苦や政府・外務省のお粗末さを理解できるでしょう。
新年号の特集に、各誌の特徴が顕れると雑誌界では言われてきています。そこで、今月は、各誌の特集の紹介に努めてみましょう。
『正論』は、「押し込まれっぱなしでいいのか 今こそ国益を守る『新・近隣諸国条項』を!」との長い特集タイトルのもと、近隣諸国との関係について論じています。アメリカとの同盟関係はさらに強めるべきであり、友好のためにと譲歩していては中国は暴走するだけとのこと。つまりは、アメリカとの絆を強め、近隣の中国、ロシア、韓国、北朝鮮、いずれの国に対しても、「対外硬」を貫くべきと展開しています。
「対外硬」は『諸君!』の特集「対金正日『核』への備え」も同様です。巻頭は、田久保忠衛・杏林大学教授、兵藤長雄・元ポーランド大使、櫻井よしこ・ジャーナリストによる鼎談「ならば日本も『核』への選択!」です。元外交官の兵藤が、外務省、政治家、そして国民自身が国家意識を喪失していたことを問題視します。北朝鮮による拉致が明らかになり、さらに核やミサイルでの恫喝外交を繰り返すと、日本側も非核を再検討することになる、世論はそれを支持することになる、と田久保は予見しています。兵藤は、実際に核武装するかの選択の問題は別としても、パワーポリティクスのゲームの中では、日本にも「核カード」があると応じています。
同誌80年7月号に、清水幾太郎・評論家(故人)「核の選択―日本よ 国家たれ」が掲載されたさいには、多くから強い反発がありました。隔世の感があります。20年余が経過し、ようやく外交を論理的に論ずるようになったと評価すべきか、それとも「対外硬」を危険視すべきか、論が分かれるところです。
創刊25周年記念号でもある『ボイス』1月号は、緊急特集として「北朝鮮暴発」を編んでいます。元外交官である岡崎久彦・博報堂特別顧問は「日朝交渉の落とし所」で、世の批判を覚悟のうえでと「五〇万トンの米の供与を拉致事件の全面解決とリンク」させるべきと説いています。冒頭に紹介した蓮池・櫻井対談も同特集の一環です。『ボイス』が「特集」に「緊急」を付したのは、それこそ追い詰められた北朝鮮・金正日が、経済制裁などに耐えかねて過敏な反応(ミサイル発射など)をすることを危惧してのことです。北の危険性については、西岡力・月刊『現代コリア』編集長他による誌上シンポジウム「シミュレーション金正日暴発」が詳しく論じています。だからこその岡崎の提言となるのです。また、北朝鮮に核ミサイルを発射させないようにするには、中西輝政・京都大学教授によりますと、「『日本も核武装する』という宣言を、いち早く総理がすること」となります(福田和也・文芸評論家との対談「日本核武装宣言」)。危機感を共有していても、岡崎と中西とでは対応策が一八〇度違います。
『論座』の特集も北朝鮮関連です。タイトルは「『北朝鮮』と向き合う」です。特集の冒頭に、李修吾・在日本朝鮮人東京都商工会副会長「朝鮮総連執行部は退陣すべきだ」がありますから、『正論』などと同様の論調かとの印象を持ちがちです。しかし、朴一・大阪市立大学教授「正常化なくして拉致問題の解明はない」などで想定できるように、決して「対外硬」ではありません。李も、北朝鮮による拉致は「弁解の余地ない国家犯罪」としますが、日本の歴史教育は差別的朝鮮人観・韓国人観につながっている、それを改めるべきと、日本社会にも厳しく注文をつけています。
北朝鮮問題を広い視野で考えようと試みるのが、『世界』の「日朝関係と東アジアの未来」です。同特集内には、『世界』の特色となっている時に応じての緊急声明も付せられています(駒込武・京都大学助教授「重ね合わせる願い」)。500名の賛同を得ての(2002年)9月26日付け「日朝間における真の和解と平和を求める緊急声明」と題するものです。同緊急声明は、拉致は許しがたい行為ですが、「『同時に』植民地支配のことも忘れることができない」と記しています。
同誌のもうひとつの特集も、他誌とは色合いが異なります。「『ブッシュの戦争』は止められるか」と題し、イラク問題に取り組んでいます。タイトルからも類推できますように、戦争を絶対悪とみなす姿勢が貫かれています。さらに「対外硬」を戒めるものです。
上記の5誌の特集が北朝鮮関連や外交問題でした。以下は少しく趣が異なります。
まず、『中央公論』。なんと特集が4本もあります。掲載順から判断するに第一特集は「小泉政権の「暴走」を叱る」でしょう。中曽根康弘「政局波瀾、各党内に造反の兆しが出てくる」、宮澤喜一「もう少し親父らしくなったらどうか」と二人の元総理が現職の総理に注文をつけています。奥田碩・日本経団連会長「いまこそ攻めの姿勢が求められている」は、政治に発言力を持つために、政治献金をも再考・再編するそうです。また、「今や経済を語れない政治家など軽蔑の対象だ」と現総理にきわめて厳しいものがあります。かつてのように財界主導による政変が生じるかもしれなません。
次の特集は経済を焦点にした「このままでは30年代大恐慌の再来になる」、そして、ICカードで変化する社会を論じた「世界とサイバースペースが融合する日」です。さらには「『飽食』から『崩食』へ」で現代人の食生活に警鐘を鳴らしています。
新年になりますと、やはり、年齢や健康のことがあらためて気になるものです。だからでしょう、国民雑誌を標榜する『文藝春秋』は「医療大特集111ページ 医者も病院も味方にする」を掲載しています。「『受け身の患者』は損をする。知識という名の保険証を携え、医者と対等に渡り合うための17篇」と謳うだけあって懇切丁寧な特集です。いかに知識取得に繋がるかは、以下の3篇の筆者名・タイトルだけででも想像できるでしょう。川端英孝・JR東京総合病院外科医長「手術!あなたならどうする」、別府宏圀・都立北療育医療センター院長「安全で有効な必須薬リスト」、中村聡樹・医療福祉ジャーナリスト「全国介護施設ベスト14」。
『潮』は「特集」とはせずに、「特別企画」として「地方が変わる、地方を変える」を編んでいます。現在、財政危機を理由に政府主導により3300の自治体が1000になる方向で動いています。それに対し、特集巻頭の五十嵐敬喜・法政大学教授「市町村合併は住民の利益になるのか」は真っ向から反対しています。現在の動きは、五十嵐によれば、政府の「アメとムチ」政策によるものです。住民による民主主義が貫徹されなければならないのであり、かつ住民個々にとりプラスとなり、プライドが持てるようでなければならない、とのことです。
今月の『現代』は、特集を編まず、数々の興深そうな論考を掲載する方式をとっています。1篇だけを紹介するとしたら、文句なしに「極秘入手 金正日『独白録』一挙掲載」です。朝鮮総連最高幹部を前にした大演説の内容です。世界から圧殺され、孤立していることへの対応として、飢餓を演出する戦術に転換したなど、驚かされます。この記事は、「この隣国の特異な独裁者といかに対峙していくのか、いまこそ日本の外交が問われている」と結んでいます。多くが共感することでしょう。2003年の平安を祈念しつつ、擱筆します。
(文中・敬称略)
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