月刊総合雑誌03年5月号拾い読み (03年4月26日・記)
月刊総合雑誌5月号では、先月号に引き続き、イラク戦争関連記事が目につきました。特筆すべきことは、『世界』と『論座』が、他誌とは違い、明確に米英のイラク攻撃に反対の立場からの編集だったことです。ちなみに、『世界』の特集名は「道義なき侵攻」であり、『論座』のそれは「大義なき攻撃」です。
一方、『ボイス』、『正論』、『諸君!』などでは、積極的にアメリカを支持する筆致が目立ちました。たとえば、『ボイス』では、片岡鉄哉・元フーバー研究所研究員「ブッシュ政権は日本の命綱」、日高義樹・ハドソン研究所研究員「『反米平和』が日本を滅ぼす」が強く対米協調を求めていました。また、『正論』の菅原出・ジャーナリスト「イラク攻撃!アメリカの『新秩序』構築と日本の決断」は、国益を守るため「反米」を叫ぶべきでない、と主張しています。さらには、『世界』や『論座』に見られる、新たな国連決議がないままのイラク攻撃反対の論調に対しては、『諸君!』に、元国連大使の波多野敬雄が「日本よ、『国連幻想』から目覚めてくれ」を寄せ、国連は、「国益追及の泥臭い場」になっている現実に気づくべきと展開しています。さらに『諸君!』には、藤井厳喜・拓殖大学客員教授「同盟軍として自衛隊派遣を」、佐々淳行・初代内閣安全保障室長「日米同盟」などもあります。
直接的にイラク戦争を論じているわけでないのですが、立花隆・評論家「『ロボット大国』日本の盲点」『文藝春秋』は示唆に富んでいます。ロボットと言っても、人間に近い体型を持ったものだけではありません。制御能力を有して自ら標的を探して飛んでいく巡航ミサイルもロボットなのです。つまり、イラク戦争に投入された先端兵器の相当部分がロボット兵器(情報マシーン兵器)でした。イラク戦争は、ロボット対人間の戦いだったのです。たしかに日本は産業用ロボットの面では進んでいます。しかし、軍事的必要性から巨額な投資をするアメリカにはかなわない面が多々あります。そこで、立花は、日本がまたまたアメリカの国家的開発力に敗れる可能性が高いと警鐘を鳴らしているのです。
『文藝春秋』の特集「イラク戦争 私の視点」のうち、曾野綾子・作家「追う者と追われる者は、共に神の名を口にする」は無視できません。曾野は、イラクに民主主義を定着させるのは無理であり、結果的にはブッシュは全アラブを敵に回すことになった、と指摘しています。また、その場限りの平和を唱えることで自分は善人であることを証明しようとした多くの日本人は卑怯者である、と手厳しく責めています。
「アメリカの正義」を「普遍的正義」に翻訳するという、ポスト冷戦時代における国連安保理の唯一の機能が果たされなくなったと、白石隆・京都大学教授「国連安保理の危機の真相」『中央公論』は分析します。今後、「力」の行使についての「合意」を調達するメカニズムをいかに作るかが問題として残されているとのことです。
『中央公論』の特集「イラク戦争―世界の亀裂は修復可能か」内では、山崎正和・劇作家「アメリカ一極体制をどう受け入れるか」は、白石とは違って、「イラク戦争によって国連の権威も世界世論の力は無視されなかった」と説いています。アメリカは国連決議1441に続く決議を4ヵ月も待ったのであり、市民運動がいとも簡単に国境を越える今日、圧倒的な軍事力を有するアメリカといえども帝国主義的独善はとりえない、と説いています。
『中央公論』の特集の特徴は、むしろイラク戦争後に焦点をあてていることです。小泉政権発足から4月26日で丸2年です。一昨年4月26日の日経平均株価は1万3973円、今年4月25日には7699円50銭、株価はこの2年間で45%下落したことになります。そこで、『中央公論』は特集内で、榊原英資・慶応大学教授を始め5名の論客による経済についての小特集「世界同時不況への警告」を編んでいます。日本発の世界同時不況としないためにも、小泉政権の「政策転換の明言なくして景気回復なし」と、野口旭・専修大学教授は力説しています。
内外の金融・投資関係者から高い評価を得てきている格付け会社・三國事務所を経営する三國陽夫は、最近、『円デフレ』(東洋経済新報社)を共著で上梓しました。その主調音を『ボイス』で披瀝しています。日本経済はまさしくデフレ下にあるのであり、「金利引き上げがデフレの脱出口」とのことです。おりよく、『現代』が「やさしく詳説 ニッポン経済13の論点」と題して、金子勝・慶応大学教授や森永卓郎・経済アナリストなど9名による解説を掲載しています。併せ読みますと、日本経済の現状の理解につながるでしょう。
経済がかんばしくないにもかかわらず、日本の若者には、いまだ「自分探し」「自分らしさ探し」に没頭し、きちんとした就職をしない傾向があるようです(苅谷剛彦・東京大学教授「若者よ、丁稚奉公から始めよう」『文藝春秋』)。苅谷が説くように、若者には、まずは、「手に職」をつけてもらいたいものです。
ちなみに、苅谷によれば、若者が「自分探し」をするようになったのは、初等・中等教育での個性尊重・自己重視に因があるとのことです。それに対し、現今、「読み・書き・計算」の徹底こそが創造力を育むのだ、との教育が再評価されてきています。その第一人者たる陰山英男は、公募で、兵庫県の小学校の教員から広島県尾道の市立小学校の校長に赴任しました。その経緯や彼の抱負は、「『新米校長』私の学力向上計画」『文藝春秋』で知ることができます。徹底反復こそが基礎学力を確かなものにするのであり、多様な学びに発展するのだそうです。
大学も改革を求められています。「国立大学法人法案」が2月末閣議決定され、いわゆる国立大学の独立法人化が進められようとしているのです。
この問題については、『世界』がかねてから熱心に取り組んできています。5月号では、小特集「『大学改革』がもたらす荒廃」を編み、かつ、池内了・名古屋大学教授、井上ひさし・作家など15名を呼びかけ人とする反対のアピールを掲載しています。教育における官僚統制を強め、また、教育者・研究者が自由に教育・研究できなくなる恐れがあるとのことです。
『中央公論』は、「少子化日本 男の生き方入門」をも特集しています。家庭の理想像が見失われ、未婚率が高まるなかで新しい父親像を模索している人もいるようです。川端裕人・作家「マーパーの誕生」によりますと、彼は、一人で母親的役割である育児をこなし、なおかつ伝統的父親の役割をもこなしているとのことです。つまり、ママでもないパパでもない、融通無碍の存在、それが「マーパー」なのだそうです。同特集には、育児休業を取った経験者による「育児パパ座談会 子どもの笑顔と過ごす豊かな時間」や八代尚弘・日本経済研究センター理事長「共働き家族を基準にした政策が必要だ」もあります。
(文中・敬称略)
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