月刊総合雑誌03年9月号拾い読み
(03年8月23日・記)
8月の初旬、月刊総合雑誌9月号は出揃います。8月といえば、帰省ラッシュ。今夏も各高速道路で渋滞が生じました。料金所での渋滞が主たる原因なのですから、いっそのこと、高速道路を無料にしたほうがよいのではないでしょうか。実際、アメリカの全国高速道路網は無料ですし、大都市での過密が解消され、各種の経済活動の活発化につながっています。日本でそれを実現するには、金利の安い現在が絶好機だそうです。その詳細なシナリオを、山崎養世・シンクタンク代表「高速道路はタダにできる」『中央公論』が明示しています。
道路建設・管理を担う日本道路公団で、内紛が生じています。『文藝春秋』先月号掲載の論文(片桐幸雄・日本道路公団四国支社副支社長「藤井総裁の嘘と専横を暴く」)が藤井総裁への名誉毀損にあたるとして、道路公団は損害賠償を求めて、筆者と文藝春秋を提訴しました。
それに対し、今月号の『文藝春秋』は「道路公団・藤井総裁追及第二弾!」として、日本道路公団「改革有志」による「片桐氏を訴えた『亡国の総裁』へ」を掲載し、問題の発端となった財務諸表の隠蔽工作などを再度詳述しています。『中央公論』も、清武英利・読売新聞編集委員「藤井総裁に“捨て身”で挑んだ改革派職員たち」で片桐たちを援護しています。約30兆円もの借金を抱えている日本最大の特殊法人の経営情報が隠蔽されていた、というのです。事実だとしたら、小泉内閣による「改革」の実現はますます遠のきそうです。
その小泉内閣を採点する座談会(「変人内閣全閣僚を採点する」) が『文藝春秋』にあります。採点者は、元ミスター円たる榊原英資・慶応大学教授や小泉総理の隠れ指南役の松野頼三・元衆議院議員など5名ですが、どうも各閣僚の得点は芳しくありません。榊原は、金融担当相としての竹中平蔵を25点としています。また、小泉総理すら平均で49点、つまりは落第です。
11月にも解散・総選挙があると予測されています(早坂茂三・政治評論家「茂三のざっくり巷談」『諸君!』など)。そのさい、『文藝春秋』の採点からも想像できるように、小泉政権続行とは簡単にはいかないようです。それは次期政権の枠組みについての世論調査(『朝日新聞』8月12日発表)からも読み取れます。同調査によりますと、「自民党を中心にした政権」と「民主党を中心にした政権」を望む人が、ともに34%で並んでいるのです。
だからこそ、無党派層の動向が結果を大きく左右します。無党派層3,500万人のうち2,000万人が投票すると、投票率は65%となり、その無党派層を取り込んだほうが政権を担当できるとのことです(田中愛治「投票率六五%で政権交代が可能か!?」『中央公論』)。戦略的にビジョンを打ち出す政党の登場が待望されています。民主党は自由党と合併して生まれ変わるのでしょうか。
終戦をめぐって、「昭和史第一級の資料」と銘打つ証言録が『正論』に掲載されていました(迫水久常「終戦の真相」)。同証言録は、終戦時の内閣書記官長(現在の官房長官に相当)だった迫水が、1960年頃に刊行した私家版の小冊子に基づくものです。新事実の発見ということにはつながりませんが、ポツダム宣言受諾にいたる最後の御前会議の模様など、臨場感にあふれています。
『諸君!』は特集「グッドバイ、永すぎた『戦後』」を編み、昭和史・戦後史の読み直し、組みなおしを図っています。その巻頭対談は、安倍晋三・内閣官房副長官と福田和也・文芸評論家による「岸信介の復活」です。岸は、開戦時の東条内閣の一員であったためA級戦犯として収監されながら、後、総理大臣として日米安保条約改定に取り組み、全国レベルの反対運動を招きました。従来、悪役とみなされてきた政治家です。その岸こそ、戦前・戦後を貫く気宇壮大なビジョンを有していたと再評価しています。確かに外交路線に止まらす、岸がデザインした国家総動員体制が日本の社会体制の基底となっています。悪役のまま放置しておいてはならないでしょう。しかし、いま「改革」が叫ばれているのは、岸のデザインが“流行遅れ”になったからではないでしょうか。岸の孫たる安倍が受け継ぐべきは、政策ではなく、政治家としての使命感だけではないでしょうか。
他誌と違う角度から、『世界』が歴史を特集しています(「日本現代史をどう描くか」)。
ジョン・ダワー・マサチューセッツ工科大学教授「忘れられた日本の占領」は、日本はかつて満州国を築き上げましたが、そのさいの政策と今日のアメリカ“帝国”の政策との類似性を指摘しています。ちなみに同教授は、『敗北を抱きしめて』(上・下、邦訳・岩波書店)で2000年、ピューリッツアー賞を受賞しています。翌年ピューリッツアー賞を獲得した『昭和天皇』(上・下、邦訳・講談社)の筆者であるハーバード・ビックス・ニューヨーク州立大学ビンガムトン校教授が「二〇世紀の歴史における天皇裕仁」で、自著『昭和天皇』に寄せられた否定的書評に反論を試みています。ビックスは、天皇の戦争責任を証明しようとしているとの批判に抗し、「天皇の全生涯をあらゆる段階を通して理解しようと努めただけ」と力説しています。
いずれにしましても、近・現代史はつねに見直しが必要です。先の対談で、中村は「日本の歴史家の構想力と文章力の衰弱」を慨嘆しています。日本人研究者・歴史家の奮起が望まれます。
9月号にも、北朝鮮による日本人拉致問題に関する論考がかなりあります(『諸君!』の特集「援金ルートを封鎖せよ」など)。しかし、今月、朝鮮関連で特筆すべきは、『世界』の池明観・翰林大学日本学研究所長「国際共同プロジェクトとしての『韓国からの通信』」でしょう。同誌に15年(73年5月号〜88年3月号)にわたり連載された「韓国からの通信」の筆者「T・K生」の正体が明かされたのです。同通信は、北ではなく、南の韓国の独裁・圧政・腐敗を筆鋒鋭く糾弾するものでした。安江良介(当時編集長、後岩波書店社長、98年没)なども筆者に擬せられていましたが、池その人が、国際的なクリスチャン・ネットワークに支えられ、執筆していたとのことです。南の民主化に一定程度貢献したとしても、北を批判するに急だったため、北の惨状を看過するような雰囲気を醸成してしまいました。この点を池や『世界』編集部はどう考えているのでしょうか。
12歳の少年による殺人事件が生じました。即座に反応として現れましたのは厳罰主義です。「親を引き回しのうえ、打ち首」との極端な発言もありました。この問題に関しては、『文藝春秋』は「12歳の殺人者」を緊急特集しています。他にも高山文彦・ノンフィクション作家「十二歳の君へ」『現代』や芹沢俊介・評論家「長崎事件にみる子どもと親の罪と罰」『論座』などがあります。
『中央公論』も「長崎幼児殺人事件の教訓」として3篇の論文を掲載しています。そのうちの養老孟司・解剖学者「『親の責任』と乱暴に決めつけるな」が短文ながら説得力があります。子どもを犯罪者に育てた親を問題視するなら、その親の親は、と無限に問題にしなくてはならなくなる、と説きあかします。戦後日本は子どもの都合を無視してきたのであり、犯罪は「子どもから大人に対する、暗黙の異議申し立て」なのだと養老は力説します。その上で、子どもを甘やかすのではなく、大切にすることの肝要さを静かに説いています。大人ひとりひとりが問われている、と養老は言いたいのです。
(文中・敬称略)
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