月刊総合雑誌03年10月号拾い読み (03年9月25日・記)

 月刊総合雑誌10月号は、周知のように9月10日には店頭に出揃います。そこで、8月末の北朝鮮の核開発問題をめぐる6者(6ヵ国)協議、ならびに小泉訪朝(昨年9月17日)から一周年の総括、さらには小泉その人を主役とする自民党総裁選(9月20日)を視座としての編集となりました。

 北朝鮮関連では、『諸君!』が「拉致は続いている」を特集し、『正論』が「〈9.17〉一周年特集」を編んでいます。なかでも、『ボイス』の特集タイトルは、「北朝鮮に騙されるな」と直截です。3誌の特集の論者たちは重複していますので、北朝鮮関連については、『ボイス』を中心に紹介しましょう。
 横田めぐみさんのご両親、滋・早紀江夫妻「心強かった国民のご支援」で、国民の多くが支援に立ち上がってくれたことに衷心から謝意を表しています。横田夫妻も外務省が冷淡だったことを指摘していますが、より厳しいのが、山際澄夫・国際ジャーナリスト「亡国の外務省を解体せよ」です。外交は、「国家の独立と自尊を守るための命懸けの取り組み」であったのであり、今後もそうあるべきと熱く主張しています。
 にもかかわらず、増元照明・北朝鮮による拉致被害者家族連絡会事務局次長×西岡力・現代コリア研究所主任研究員「対話で被害者は帰らない」によれば、外務省内には北朝鮮宥和派が根強く存在しているとのことです。両者は、「経済」という武器を駆使し、世界に働きかけ、拉致被害者を救うべきだと提言しています。
 この1年を振り返り、政府内にあって奮闘してきた安倍晋三・官房副長官(当時)と中西輝政・京都大学教授は、対談「『戦後の終わり』が始まった」で、日本人の国家観・同胞感覚が目覚め、画期的な展開があったと総括しています。安倍は、結論として、理念と国益(プラグマティズム)とを絶妙に組み合わせた指針作りを、自らを含めての政治家に求めています。なお、国民が飢餓状態にありながら、金正日政権が存続しえている背景を知るには、呉善花・評論家「儒教国家・北朝鮮の正体」が恰好です。
 以上の『ボイス』掲載論文はじめ、対北朝鮮には強硬な論調が目立つなかで、冷静な対応を説くのが、青木理・共同通信ソウル特派員「北朝鮮報道に『理性停止』は許されない」『現代』です。北朝鮮に対し、粗雑なバッシングに終始しているかのようで韓国から見ても不快そのもの、とのことです。『世界』も、青木と問題意識を共有するのでしょう。同誌は、拉致問題に直接は焦点をあてることを避け、大ぶりに「北東アジアに平和を築くために」を特集しています。

 さて、自民党総裁選は、小泉純一郎・総裁(総理)の圧勝に終わりました。その直前、総合雑誌はいかに論じていたのでしょうか。
 早野透・朝日新聞社コラムニスト「小泉さんは自民党を割ったらいい」『論座』は、小泉総理の本心を「(小泉が)勝てば、既得権益の総本山としての自民党は事実上ぶっ壊れるんだ」と見ています。ただし、今後も小泉と抵抗勢力の田舎芝居は続くのであり、小泉が真の改革を目指すのなら、党を割る以外にない、とのことです。
 飯尾潤・政策研究大学院大学教授「総裁選の焦点は、誰が勝つか、ではない」『中央公論』は、「明確な政策論争を通じて、自民党の軸足の定まる総裁選挙が行われることは、誰が勝つよりも、むしろ重要である」と力説しています。
 『文藝春秋』では、小泉自身が猪瀬直樹・作家と対談しています(「国民よ、小泉こそ真の改革者」)。同誌には、小泉に対抗して出馬した亀井静香・衆議院議員と川勝平太・国際日本文化研究センター教授との対談(「総理のまやかしに騙されるな」)もあります。
 一方、薬師寺克行・朝日新聞論説員×山口二郎・北海道大学教授「日本政治はよみがえるか」『世界』は、改革を小泉が叫び続けるにしても、それは偽装であり、党内抵抗勢力との攻防も欺瞞である、としています。

 小泉改革の真の姿は、把握しづらいものがあります。総裁選でも、政策論争が演出されますが、現実には政策論争外の力学が強く働くとの予測・解説もありました。実際、森喜朗・前総理と早坂茂三・政治評論家の対談「兄の心、弟知らぬでもなし?」『諸君!』、早坂「『政局の天才』小泉純一郎」『ボイス』、向坂隆二・ジャーナリスト「『焦点の男』青木幹雄の告白」『文藝春秋』などにあらためて目を通しますと、旧経世会(田中派の流れを汲む現・平成研究会)から清和会(旧福田派)への自民党内支配権の移行がなされていて、総裁選の結果はその延長線上にあるだけだとしか映じません。
 ただ、北岡伸一・東京大学教授「民由合同で現実味を帯びる『政権交代』」『中央公論』によりますと、小泉改革か、伝統的な自民党路線か、または“菅・小沢改革”か、という明確な選択肢が国民の前に提示され始めてもいるとのことです。

 北岡のいう“菅・小沢改革”の担い手たる菅直人・民主党代表と小沢一郎・自由党党首は、両党合併を前に2人揃って2誌に登場しています(「『菅内閣』誕生の条件」『ボイス』と「民主党内閣なら日本はこう変わる」『現代』)。さらに、菅は、『論座』にも、「日本経済再生の処方箋」を寄稿しています。菅は、小泉改革は、単に声高だけであって、実現されたとしても、予算のムダ遣い構造・非効率的行政は改善されない、それどころか「高齢化が進む日本の経済を活性化する道も、日本の技術を生かす道も小泉マニフェストからは見えてこない」と手厳しく批判しています。さらに、菅は、「与野党ともに首相(候補)とその党の公認候補者全員が一つのマニフェストを掲げて全選挙区で総選挙を戦うことで、初めて国民すべてによる本当の意味での『政権選択』が可能となる」と、マニフェストを掲げての総選挙実現を自民党にも呼びかけています。
 まさしく、北岡の解説するような、また菅が唱道するような選択肢が用意される総選挙を望みたいものです。

 小泉内閣のもとの竹中(平蔵・経済財政兼金融担当大臣)経済政策に対しては、従来から、否定的論調が主でした。今月も植草一秀・早稲田大学教授「小泉=竹中経済政策『粉飾と不正義』の28ヵ月」『現代』や堺屋太一・作家「デフレ政策では財政再建も果たせない」『論座』などをたちどころに上げることができます。それらに対し、竹中は、日本経済は再生に向かっていると自信満々です(「日本経済の『沸点』は近い」『ボイス』)。実際、自民党総裁選直前に株価は好転し、小泉再選に有利に働きました。

 ちなみに経済好転の兆しと同時に、総合雑誌上に、日本を、日本人を、肯定的に描く論調が登場するものです。過去の日本論・日本人論の動向から、そう判断できます。日本論・日本人論は、単純化しますと、経済情勢とあいまって、否定→肯定(自信回復)→否定、というサイクルで繰り返されるのです。
 今月号のうちでは、日本を肯定的に捉えている、描いているのは、まずは『文藝春秋』の杉浦勉・丸紅経済研究所所長「日はまた昇る―ポケモン興国論」です。11兆円産業となったアニメやゲームが日本を支えてくれるとのことです。また、GDP(国内総生産)よりも、GNC(グロス・ナショナル・クール)を国力の指標とすべき、というのです。「クール」とは「かっこいい」「いかす」「おしゃれ」の意味。日本は、ポケモンなどキャラクター商品を多く開発し、それらの売上げも甚大ですので、十分に「クール」ということになります。
 次いで、『中央公論』でも、岩井克人・東京大学教授×原丈人・デフタ・グループ会長「次世代産業は日本がリードする」があり、心強い限りです。株主の利益を優先する米国型資本主義は行き詰まっているのです。むしろ、ハードとソフトの両方の産業を有する日本は千載一遇のチャンスを迎えているのです。

 いずれにしましても、不況、または不況心理から一刻も早く脱したいものです。阪神が一八年ぶりに優勝しました。あやかりたいものです。阪神関連では、吉見健明・スポーツライター「誰も知らない星野仙一『運命を操る男』」『現代』をお勧めします。
(文中・敬称略)

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