月刊総合雑誌03年11月号拾い読み (03年10月22日・記)
小泉総理の自民党総裁再選・内閣改造が9月末にありました。そのうえでの衆議院解散が10月10日。ちょうどそのころ月刊総合雑誌11月号が読者に届くことになっていました。だからこそ、各11月号は、小泉総理、あるいは1ヵ月後(11月9日)の衆院選についての論考を数多く用意しました。
『ボイス』は、小泉が前回の自民党総裁選を勝利したさいの名セリフ「自民党をぶっ壊す」をもじって、「自民党が『ぶっ壊れ』た」を特集しています。
二人の政治評論家(早坂茂三・屋山太郎)の対談「小泉改造内閣に敵なし」は、派閥の意向と構造改革を両立させたと、小泉の閣僚・自民党人事を絶賛しています。高橋利行・政治評論家「派閥崩壊−橋本派は二度死ぬ」も、“政局の天才”たる小泉への最大派閥の完敗ぶりを詳述しています。さらに小泉再選の意味を「『田中政治』は死んだか」との共通テーマのもと、中田宏・横浜市長はじめ六名の有識者に意見を求めています。中田は、小選挙区制が国民の動向を探るのに有効であるとし、これが「派閥の崩壊、ひいては日本の旧来政治の終焉」をもたらすと結び、直接的ではありませんが、小泉の再選を評価しています。
ただし、巻頭の福田和也・文芸評論家「野中広務の呪い」は、「改革という名の停滞」が続くだけだと、小泉に否定的です。実は、選挙のたびに、自民党の総得票は100万ずつ減っているのです。このことをもって、同誌の新聞記者座談会は「それでも自民党は大敗する」と衆院選の結果を予測しています。
『諸君!』の特集タイトルは「小泉純一郎の『賞味期限』」です。巻頭論文は、道路公団民営化の推進委員会の委員として小泉内閣の改革に参与している猪瀬直樹・作家による「『変人』宰相に変節は似合わない」です。猪瀬本人の小泉への期待を表明しつつ、小泉改革の意義を叙述しようとするものです。
では、なぜ小泉はかくも強い(強かった)のでしょうか。立花隆・評論家「小泉再選が秘める『新たなる使命』」『現代』によれば、自明なことです。それは、小泉支持率が自民党支持率よりもはるかに高いからです。自民党所属の各議員は、自民党員であるよりも、小泉の率いる党の党員でしかないのです。小泉は憲法改正を視野に入れ、大宰相への道を歩もうと試みると、立花は予見しています。
『現代』で一貫して小泉に批判的な論陣をはってきたのは、高杉良・作家です。11月号にも、「竹中平蔵留任は亡国の選択である」を寄稿し、竹中主導による、小泉の経済・金融政策を真っ向から否定してみせます。「小泉内閣発足以来、成功した改革は、目下のところ皆無に等しい」とまで斬って捨てています。
高杉と論点が異なりますが、『世界』は、特集「経済回復は本物か?」で、現政権の経済・金融政策を力をこめて否定しています。「改革の手順とテンポが間違っている」(佐和隆光・京都大学経済研究所長)や「『ぶっ壊した』のは日本経済だ」(紺谷典子・エコノミスト)などのタイトルだけでも、その論旨を想定できるでしょう。
否定的なのは、『文藝春秋』の柳田邦男・ノンフィクション作家「精密検証『小泉以前』と『小泉以後』」も同様です。特に自殺者の増加を問題にします。経済に関しては失政続きなのに、小泉支持が激減しないのはデフレだからとのこと。デフレの悪影響は個別的・集中的になるのです。それゆえ、世は一見、静かです。一方で、自殺に追い込まれる人々が急増している、と柳田は指摘するのです。
小泉再選に伴っての人事で大成功だったのは、前述した早坂・屋山対談も言及していますが、安倍晋三の自民党幹事長への抜擢です。岸信介を祖父に、安倍晋太郎を父に持つ安倍、その彼について、母の洋子が「息子・安倍晋三」を『文藝春秋』に寄せています。佐野真一「『異形の秘書官』飯島勲の高笑い」と併せ読むことをお勧めします。政治がより身近になるでしょう。
小泉内閣の発足直後に話題・問題になったのは、田中真紀子外相(当時)と、彼女と対立した鈴木宗男・衆議院議員のいわゆる「宗男疑惑」でした。その鈴木宗男議員が二誌に登場しています。
まず、『文藝春秋』のインタビューにこたえています(「拘置生活437日から帰還―」の副題を付し、「私を売国奴に仕立てた外務省へ」)。北方領土は返還されても何の利益にもならない、と鈴木が発言したとされていますが、外務省が内部文書を改竄したのだと反論し、彼を陥れる策略・陰謀があったと力説しています。
さらに、彼は、『諸君!』で上坂冬子・ノンフィクション作家と対談(「激突!北方領土」)しています。鈴木が北方領土住民への支援が必要としているのに対し、上坂が「それでは返還が遠のくだけ」と強く反対しています。ただそれ以外は、両者の外交手法の相違についての討論であり、読ませます。何故に鈴木が疑惑の対象になったのか、逮捕されたのか、判然としません。今後の解明が待たれます。
なお、今回の衆院選は、新聞では、「政権選択の選挙」、「政権公約選挙」、「マニフェスト選挙」などといわれています。マニフェスト(政権公約)を各政党が掲げ、誰を首班とする政党が政権を担うべきかを、選挙民(国民)に選択を迫るという選挙だというのです。
『中央公論』は、民主党のマニフェストの概要を掲載しています(菅直人・民主党代表「民主党政権 始動『一〇〇日改革プラン』の全容」、21世紀臨調「政権奪取後のロードマップ」ほか)。霞が関中心の「官僚主導型政府運営」から官邸・内閣中心の「政治主導型政府運営」への道筋などを簡潔に記してあります。『中央公論』の政治評論家たち(岩見隆夫・国正武重・橋本五郎)の座談会「小泉自民党よ、政策で勝負しろ」が主張するような選挙にするためにも、選挙民が各政党のマニフェストを比較・検討すべきでしょう。
イラクでは、戦争が終了したはずなのに、毎日のように自爆テロが生じ、自爆者とともにイラク市民や米兵が生命を失っています。イラク情勢をいかに読み解くべきかを、『中央公論』は三篇で取り組んでいます。
立山良司・防衛大学教授「『帝国』になりきれない超大国の苦悩」によれば、米国が国際秩序の「保証人」や「保護者」として行動することに対し、各国が反発・不信感が持っているのです。さらに米国は、「同時多発テロ事件を契機に世界中から集まった同情をすべて憎しみに変えてしまった」のです。
ですから、イラクへの自衛隊派遣は対米関係上、やむをえないとしても、対米一辺倒と諸外国に解されてはならないとのことです。国際安全保障共同体の一員としての行動だと映ずるようにすべきだとのことです(渡邊啓貴・東京外国語大学教授「『何のための自衛隊派遣か』に新たな文脈を」)。
『産経新聞』(1月24日)に「米国はイラクを武力攻撃すべきでない」を寄稿し、波紋を呼んだ元外交官であり、イラク問題担当の総理補佐官の岡本行夫は、『中央公論』では、一転して、「湾岸戦争のような禍根を残さないために」と、米国への協力の重要性をうったえています。日米が緊密であればあるほど、対北朝鮮外交を有利に運ぶことができるであり、いささかでも揺らいでいると映ずるようでは、彼の地の指導者がミサイルのボタンを押す可能性があるとまで言い切っています。
イラク戦争に関連して、『論座』が、「読売新聞 社論の研究」を特集しています。朝日新聞社発行の『論座』が、ライバル紙の論調を、自社の発行紙と比較・検証しているのです。もとより、『読売』が米国・日本政府の外交政策支持であり、『朝日』は否定的です。その是非を問うものであり、『朝日』、『読売』、『産経』の論説委員長たちの論考が並ぶ異色な特集です。一篇一篇の内容はともかく、特集として成り立っただけでも話題性があり、一読に値します。
以下、蛇足ながら…。上に取り上げた論考のいくつかは、衆院選の結果によっては無意味になるかもしれません。しかし、月刊総合雑誌の論調と実際の動向との差異を探索することに、さらには差異を把握したら、その原因を考察することに意味があるのではと愚考してのことです。
(文中・敬称略)
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