月刊総合雑誌04年1月号拾い読み (03年12月25日・記)
12月は、月刊総合雑誌の世界では新年。年初の号には、各誌それぞれの特徴が色濃く反映します。そこで、今回は、各誌ごと、入手順に、論評することにします。平成16(2004)年新年(1月)号の発行は、「イラクに自衛隊を派遣する基本計画の閣議決定」があった12月9日前後でした。自衛隊の派遣に関する、つまりは対イラク関連の論調につとめて触れることにしましょう。
最近の『正論』は際立って北朝鮮関連の記事が目立ちます。1月号でも、「救う会拉致アンケート 全衆議院議員480人の回答を一挙掲載」や曽我ひとみ・拉致被害者家族連絡会「母の匂いと優しさに包まれた日々よ」などが、まず目を惹きました。上のアンケートは、編集部の構成ですが、拉致被害者救う会の協力を仰いでいます。同会の幹部たちが他にも3篇、寄稿しています(佐藤勝巳・同会会長「経済制裁に賛成した議員たちよ、政治生命をかけて選挙公約を履行せよ!」他)。対イラク関連では、菅原出・ジャーナリスト「アメリカ国民はイラク戦争を後悔しているのか」がアメリカ国内の動きをリポートし、米軍のイラクからの早期撤退は危険であると指摘しています。森本敏・拓殖大学教授「恒久法制定による安全保障改革のすすめ」は、イラク戦争への対応から一歩進め、日本の喫緊の課題を提示しています。
『諸君!』の巻頭は、石原慎太郎・都知事「私は捏造報道を許さない」です。TBSが石原の発言としてテロップで流した「私は日韓合併の歴史を100%正当化するつもりだ」が捏造だったのです。TBSは番組内で詫びたのですが誠意が感じられないので、石原は名誉毀損罪で告訴するとのことです。捏造の真相は不明です。しかし、意図的な言論操作があったとしたら言語道断です。特集は「ニッポン分裂2004」。その巻頭対談は「『親米保守』vs.『反米保守』イラク決戦」です。親米保守に田久保忠衛・杏林大学客員教授、反米保守に西部邁・評論家と別れ、自衛隊派遣の是非を論じています。もとより反米保守は派遣反対です。
立花隆・評論家は、今月も『現代』に「イラク『戦争論』」を寄稿し、戦争には大義がないとしアメリカ追随と小泉総理を批判しています。同誌は、水木楊・作家×森永卓郎・経済アナリスト「小泉続投で『景気・年金・老後』はどうなる」で小泉の経済政策に疑問を呈しています。疑問どころか、金子勝・慶応大学教授は「『景気回復』と煽る罪は限りなく重い」と全面否定しています。舛添要一「参院選敗北必至 小泉首相に猛省を求む」には、現職の自民党所属・参議院議員の筆によるものとは思えないほど厳しいものがあります。小林祐武・元外務省課長補佐「独占手記 外務省『驕りと腐敗』にいまだ反省なし」は、前号の続篇ですが、すべて事実だとしたら、あらためて官庁の腐敗ぶりには驚かされます。
『論座』の特集「激化する戦争 問われる日本」は、アメリカの政策に批判的ですし、自衛隊派遣にも否定的です。寺島実郎・日本総合研究所理事長「21世紀日本外交の構想力 イラク戦争を超えて」は、アメリカ一辺倒から脱し、主体的なアジア外交を展開すべきだと論じています。日本は「衝突でなく対話を、混乱でなく繁栄を」の標語のもと、軍事力よりも人間と経済の健全な開発を目指すソフトパワーで貢献すべきと山内昌之・東京大学教授「日本の中東政策とソフトパワー」は展開しています。同誌が朝日新聞社発行であることから奇異に映ったのは、久米宏・TV朝日「ニュースステーション」キャスターを聞き手とする「元朝鮮労働党書記 黄長Y氏インタビュー 金正日の独裁に反対し北朝鮮の民主化を促進しよう」です。新聞、そしてテレビの路線転換の途を探るべく、その先駆けとして、雑誌の活用をはかったのでしょうか。
前出の寺島実郎をホスト役とし、船橋洋一・朝日新聞コラムニスト、中西寛・京都大学教授との連続対談をもって、『潮』は、特別企画「創造的な『日米関係』を模索せよ」を編んでいます。寺島には近著に『脅威のアメリカ 希望のアメリカ』(岩波書店)があります。二つの対談は、この書のタイトルに象徴される二重性を問題にし、日米関係を基軸にしながらも、日本のアジアでの位置を探るものです。この特別企画に添うようにして2ページモノではありますが、石田衣良・作家「アメリカをひとりぼっちにしてはいけない」があります。自衛隊派遣賛成を明確に打ち出しているのです。同誌の発行元をあわせ考えるとき、注目すべきことでしょう。特集としての「メディアと人権」は、『週刊新潮』、その発行元の新潮社の徹底的批判です。創価学会が新潮社を実に数多く提訴していることがわかります。
イラク戦争に、『世界』は、一貫して反対してきました。同誌1月号で刮目すべきなのは、防衛庁の高官から新潟県加茂市長に転じた小池清彦による「国を亡ぼし、国民を不幸にするイラク派兵」です。「自衛隊員でイラクに行くのがいいことだ、なんて思っている人はいません」であり、「小泉総理への信頼は地に堕ちています。もう、怨嗟の声でいっぱい」とのことです。特集は、「HIV/エイズ―『感染爆発』への警告」です。木原正博・京都大学教授と木原雅子・京都大学助教授の共著「エイズ問題が照射する日本社会の脆弱性」には驚かせられます。自分は関係ない、日本は安全だ、ではないのです。感染拡大の危険性が高いのです。忘れられがちな社会問題を掘り起こすことを得意としていると自負している同誌ならではの企画でしょう。
大艦巨砲主義が得意な雑誌といえば、『文藝春秋』です。今月も、経済界の大物による論考(奥田碩・日本経団連会長「死に物狂いで成長を実現せよ」と出井伸之・ソニー会長「ソニー神話は五度崩壊した」)で賑やかです。奥田は、少子高齢化社会に対応した社会保障制度の構築とそのためにも消費税18%を主張しています。出井が言いたいのは、彼の入社以来、ソニーは五度の危機を迎え、そのつど蘇生してきたのであり、その繰り返しだということです。ただし、過去の成功体験に安住しているようでは、蘇生・発展は期待できないとのことです。特別企画「父が教える昭和史[戦後篇]」は、「日本は無条件降伏したかのか?」から「『全面講和』はなぜもて囃された」など24篇、曖昧になりがちな論点を整理しています。なお、陸自幹部座談会「自衛隊の本音も聞いてくれ」では、先の『世界』の小池とは違って、イラク行きを忌避するような自衛隊員はいないとのことです。ただ、テロリストを撃っても「殺人罪」に問われることになりかねない法的問題もあり、行動にあまりに規制が多く、そのため自らをも守れないのが問題だとのことです。
菊地信義・装幀家により、『中央公論』は、表紙を一新させました。誌名を小さくし、内容を大きく盛った、文字の多い表紙ではありますが、軽快さを感じさせます。表紙一新とともに、「読みやすく、分かりやすく、親しみやすく」を心がけるとのこと。このこともあずかってのことでしょう、掲載論文を分類し、三つの特集を編んでいます。まずは、「『自衛隊イラク派遣』と首相の責任」です。まさしく総理大臣に国民への丁寧な説明を求めるものです。次に1ヵ月前の総選挙を総括した「小泉対菅―本当の勝負はこれからだ」です。蒲島郁夫・東京大学教授他「公明がどちらを選ぶかで政権は替わる」は説得性高い論考です。第3の特集は「2004年のキーワードはこれだ」です。「メディアになった『お菓子のおまけ』」など、経済効果を「キーワード」で探る試みです。
現在の日本にとっての経済効果といえば、『ボイス』の総力特集「日本経済復活宣言」に勝るものはないしょう。巻頭対談の牛尾治朗・ウシオ電機会長×唐津一・東海大学教授「製造業は完全復活した」で、まず元気づけられます。日本の輸出は円相場とは無関係に拡大すると説く長谷川慶太郎「『デフレ好況』がやってくる」には勇気づけられるでしょう。特集内ではありませんが、松沢茂文・神奈川県知事「首都圏連合が日本を変える」は、八都県市の総合力で霞ヶ関政治を凌駕しようという気宇壮大な提言です。経済回復、その持続のためにも地方分権の進展を望みたいものです。なおイラク戦争に関しては、安部晋三・自民党幹事長×古森義久・産経新聞編集特別委員「自衛隊派遣は日本の義務だ」の1篇だけですが、この対談のタイトルに同誌の方針が窺えます。
総選挙の総括関連を期待しました。しかし残念ながら、上述の蒲島他による以外、強く推薦できる論考が見当たりませんでした。(文中・敬称略) |