月刊総合雑誌04年7月号拾い読み (04年6月20日・記)
「雅子のキャリアや、そのことに基づいた雅子の人格を否定するような動きがあったことも事実です」。
右の皇太子の記者会見(5月10日)でのご発言が、国民にとっては衝撃的ですらありました。ご発言の1ヵ月後の6月10日前後に月刊総合雑誌7月号が手元に揃いました。
皇太子のご発言の背景と雅子妃のご体調について、友納尚子・ジャーナリストの「雅子妃 その悲劇の全真相」(『文藝春秋』)が詳しくリポートしています。雅子妃は、昨年暮に帯状疱疹を患われましたが、現在は、「強迫性障害」あるいは「不安神経症」の疑いがあるとのことです。宮内庁幹部の心ない発言・対応が引き金となったのですし、それらを改めようとしない宮内官僚たちが問題を大きくしていると論難しています。
なお、『文藝春秋』では、「異例の皇太子発言 私はこう考える」と題し、19人の識者が論じています。そのほとんどが、友納と同様、宮内官僚・宮内庁に非があると指摘しています。
『文藝春秋』の兄弟誌たる『諸君!』は「天皇と皇室の21世紀」を特集し、さまざまな角度から天皇、ひいては皇室と国民の関係を論じています。愛子内親王ご誕生後、女帝論の是非がマスコミを賑わすようになりました。『諸君!』では、「女性天皇 是か、非か」との対談で高橋紘・静岡福祉大学教授と八木秀次・高崎経済大学助教授が真正面から取り組んでいます。高橋は第一子の皇位継承を認めるべきとの立場です。一方、八木は過去の女帝は男系の皇統継承のためだったのであり、女帝を認めると男系から女系(女帝が生んだ子が天皇になり、その系統が皇位を継承していくこと)に移ることになり、女帝は認めがたいとのことです。
『現代』では鳩山由紀夫・元民主党代表が「いまこそ『女帝』容認のとき」で、さらには『正論』では高森明勅・拓殖大学客員教授が「改めて問う、『女帝』は是か非か」で、それぞれ、皇位継承資格者を皇族方のうち「皇統に属する男系の男子」とする皇室典範の改正を提唱しています。つまりは女帝容認論です。
この論議が雅子妃のご心労の遠因との指摘もあります(篠沢秀夫・学習院大学名誉教授「問題は皇室典範」『文藝春秋』)。今後の論議には慎重さが求められます。
小泉総理が、5月22日、1年8ヵ月ぶりに訪朝しました。その結果について、各誌が、多くの誌面を割いています。特集している雑誌も数多くありました。それらのタイトルをまずは紹介しましょう。「小泉の墓穴・金正日の背信」(『現代』)「北朝鮮を制裁せよ」(『ボイス』)、「小泉訪朝は『拉致』ヌキだ」(『諸君!』)、「小泉訪朝の誤算」(『文藝春秋』)、「小泉再訪朝その先に活路は開けるか」(『論座』)等々…。なお、『中央公論』は「小泉独走の危うい足もと」との名のもと、北朝鮮問題を年金問題と併せて特集しています。『正論』は4篇の関連論考を掲載していますが、特集とはしていません。
上の特集タイトルからだけでも想像できますように、拉致被害者の子ども5人が帰国できたのですが、小泉再訪朝は総じて高くは評価されていません。
特筆すべきは、拉致被害者の家族が雑誌上でも大活躍していることです。
特に7月の参議院議員選挙に出馬予定の増元照明・家族会事務局次長は、『正論』(「私たちが小泉訪朝を懸念した重大な理由」)、『諸君!』(「小泉首相は『北』のシナリオを演じた」)、『中央公論』(「私たちはなぜ総理訪朝を『最悪の結果』と受けとめたのか」)などで、小泉総理を鋭く論難しています。『中央公論』掲載論文によれば、「北朝鮮にとっては最低限の譲歩で巨大な果実を手にすることができた」のです。増元には、「(総理は)何が何でも国交正常化を進めたいと考えている」ようにしか見えないのです。「家族がこのまま見捨てられてしまうのではないか」との強い危機感を持っているのです。
一方、家族連絡会事務局長の蓮池透は、増元とは異なり、『ボイス』に「小泉首相に誠意を感じた」を寄稿し、訪朝から戻ってきた小泉総理に暴言に近い言葉をぶつけたと深く反省しています。
結局、『論座』の「過去を溶かし、未来を築く」で李鐘元・立教大学教授が説くように、今後も「政策決定者と世論を巻き込んだ幅広い議論」が必要です。
イラク情勢をも7月号の多くが扱っています。
『文藝春秋』の「捕虜虐待は米国の国家犯罪だ」は、「アブグレイブの拷問」を『ニューヨーカー』に発表したセイモア・ハーシュへの青木富貴子・ジャーナリストによるインタビューに基づいています。イラクのアブグレイブ刑務所で米軍によりイラク人収容者虐待が行われたのです。ハーシュは、ベトナム戦争で起こった「ミライの虐殺」事件報道でピューリツァー賞を受賞し、インベスティゲイティブ・リポーティング(調査報道)分野を切り拓いたと高評価を得ている記者です。1968年3月、ベトナムのソンミ村ミライ地区で起こった虐殺についての報道により、アメリカ市民はベトナム戦争反対に大きく傾きました。「アグレイブの拷問」報道も、青木によれば、多くのアメリカ市民にイラクからの撤退を考えさせるようになった、とのことです。同誌には、イラク人捕虜を取材した、金子貴一・ジャーナリストによる「米兵は笑いながら私を犯した」も併載されています。
日本政府は、連合国暫定当局(CPA)から主権移譲(6月30日)されるイラク暫定政権を承認する予定です。そのイラクで編成される多国籍軍への自衛隊参加をも決定しました。日本独自の指揮下で活動し、他国の部隊の武力行使とは一体化されることはない、とのことです。
自衛隊派遣反対・懸念論の典型例を今月の『論座』から紹介しましょう。
最上敏樹・国際基督教大学教授との対談(「世界秩序の常識を問い直す」)で、船橋洋一・朝日新聞社コラムニストは、「非戦闘地域」があるかのような幻想をもったことがまず誤りだとします。さらに、「(撤退時期を想定する)出口戦略」を持っていないことを問題視します。
また、蓮實重彦・前東京大学学長は「『呪われた人』の醜い戦争」で、「自衛隊」の「海外派遣」は、「軍隊」による「他国侵略」であり、同様に「復興支援」は「版図拡大」と“正しく”翻訳すべきとします。さらに不正確な情報にこだわるブッシュ米大統領を不可思議だとします。ブッシュ大統領は、いわば情報に呪われているのです。イラク戦争は、その呪いの集大成ともいうべきものなのです。
『世界』は、今月も「イラク占領統治は破綻した」を特集し、ブッシュのアメリカに反対しています(特集の巻頭は、先のハーシュの『ニューヨーカー』の記事の訳出掲載。「告発−イラク収容所における虐待の実態」)。特集内の杉田弘毅・共同通信記者の「ブッシュ再選に点滅し始めた黄信号」によれば、アメリカ国内でも、イラク戦争に関連し、ブッシュ大統領批判が高まっているとのことです。しかし、それが対抗馬のケリー上院議員の支持増につながってはいません。11月の米大統領選挙の予想・予断するには、まだまだ材料不足です。
『世界』は、「犯罪不安社会ニッポン」をも特集しています。治安や安全に対する人々の関心が高まっています。しかし、だからと言って、監視・処罰を強化すればよいのか、と問題提起するのです。犯罪や不安が過剰に煽られているのであり、防犯カメラなどによる監視強化は、かえってプライバシー侵害につながりかねないとのことです。
金子勝・慶応大学教授は「『無責任』と『不安』のスパイラル」で、凶悪な事件が大きく報じられるだけで、その原因究明がおろそかにされていることを問題視します。さらに、「外国人は犯罪者」と考えるべきでなく、外国人が日本に来て罪を犯すようになるのはなぜなのか、といった視点を持つべきなのだと展開します。現今の政策は、金子によれば、漠然としたリスクを煽ることで国防や警察の強化に結びつける「新自由主義」の手法によるものです。「新自由主義」は、「規制緩和や民営化によって市場原理に任せる『小さな政府』を主張する一方で、国防や治安を強化する『強力な国家』を唱える」とのことです。
漠然としたリスク・不安といえば、年金問題が欠かせません。二人の早稲田大学教授(田中愛治・河野勝)の筆による『中央公論』の「政治不信世代は年金制度も信じていない」を、世代論としても、お勧めします。 (文中・敬称略) |