月刊総合雑誌04年8月号拾い読み (04年7月20日・記)

 7月11日に行われた第20回参議院選挙は、「自民不振 民主が躍進」(7月12日付け『読売新聞』朝刊1面の見出し)の結果(議席数:自民党49、民主党50)に終りました。では、参院選直前に出揃っていた月刊総合雑誌8月号は、小泉政治をいかに論じていたのでしょうか。

 『現代』は、「選挙直前特集 小泉純一郎の『精神分析』」を編んでいます。巻頭の櫻井よしこ・ジャーナリストによる「権力の迷走」からして、小泉総理、ひいては自民党に批判的です。櫻井によれば、小泉総理が声高に改革を提唱してきた道路・年金・郵政の全分野で、改革どころか、改革潰しがなされているとのことです。同誌は、特集の結びとして、岩瀬達哉・ジャーナリストと森永卓郎・経済アナリストによる「核心対談」を掲載しています。同対談のタイトルは、なんと「投票で『年金改悪』の怒りを晴らせ!」です。『現代』は、全誌あげて、はっきりと反小泉政権を打ち出していたのです。

 「小泉長期政権の力量」を特集し、安倍晋三・自民党幹事長と深田祐介・作家による対談(「断固たる意志を示す政治」)や宮内義彦・オリックス会長の「構造改革は進んでいる」を戴いている『ボイス』は、親小泉政権かと想定しました。しかし、見事裏切られました。屋山太郎・政治評論家などに小泉政権を勤務評定させ、題して「さらば、小泉B級政権」です。ダメ押しをするように、中西輝政・京都大学教授による「小泉首相の退陣を求める」を掲載しています。

 ご存じのように、『世界』は、その創刊以来、反保守(反自民)です。今月は、都留重人・日本学士院会員による「小泉政治の三年を問う」で、小泉政権は、内政は混迷させただけ、外交では米国に追従するだけ、と斬って捨てています。

 上の3誌以外でも、小泉政権に厳しい論述が目立ちました。『論座』の特集(「激戦!? 参院選が面白い」)内の早野透・朝日新聞社コラムニストによれば、「小泉喝采の時が過ぎた」のです。『論座』には、平成世論研究会と同誌取材班により6月中旬に実施された都市有権者調査の結果も紹介されています。その結果には、すでに、「年金問題の反発で小泉・自民敗北も」と出ていました。

竹中平蔵・経済財政・金融担当大臣が、『文藝春秋』で、「『学者大臣』とはもう言わせない」と頑張っていました。しかし、まさしく孤軍奮闘としか表現しようがありません。

 上述でわかるように、雑誌論調は、小泉政権に厳しく、選挙結果も小泉政権にとって思わしくなく、そこで小泉退陣かとの新聞記事も散見されました。しかし、元来、参議院は第2院ですから、その選挙結果によって政権の構成が変わる必要はありません。これでは、せっかくの選挙がさほど有用・有効に機能しないことを意味します。ですから、もともと議院内閣制下、第2院は不要だとする論者が数多くいます。このままでは不要論が勢いを増すばかりです。衆議院とは違った役割を担うようにすべきと、飯尾潤・政策研究大学院大学教授が『中央公論』の「二院制の利点を生かす参議院改革が急務だ」で熱く提議しています。

 参議院改革を行うためにも、憲法の全面的見直しが必要です。自民党はもとより、民主党も改憲に熱心です。たとえば、民主党の元代表であり、現・常任幹事の鳩山由紀夫は『ボイス』に連続して「私の憲法改正試案」を寄稿しています。徐々にではありますが、改憲へと世は動いているかのようです。

 他方、改憲となれば、9条改悪につながると改憲に反対する勢力にも根強いものがあります。彼らは、主に『世界』に寄って活動しています。8月号の『世界』には、大江健三郎・作家が「あらためての『窮境』より」を寄稿し、改憲反対を訴えています。同誌は、「『九条の会』発足のアピール」や「『憲法行脚の会』ご参加の呼びかけ」をも併載し、平和憲法死守の運動への参加を呼びかけています。

 年金問題が、参議院選挙の争点になりました。

 その年金を含め日本社会の特性についての従来のイメージが揺らいでいます。福祉が充実していたかのように錯覚がありました。実は、支えてきたのは企業や家庭だったのです。さらに所得や教育など諸分野での各差は拡大の一途にあります。橘木俊詔・京都大学教授と和田秀樹・精神科医の対談「日本をアメリカ型『非福祉国家』にしないために」(『中央公論』)によれば、福祉充実の是非などを論議する前に、現状を正しく認識すべきとのことです。

 その現状認識のためとして、『世界』が「『日本』の現実」を特集し、直視すべきとして12の指標(「少子化とジェンダー」、「税収」など)を掲げています。それらの指標に基づきますと、日本は、雇用不確実なので自殺者が多く、税負担がきつく、教育費が高く、子どもを安心して産めないし、環境対策もそれほど進んでいない国となります。日本人の多くが、現状に不安を抱き始めていたようです。参院選の結果は、日本人の多くが抱えている不安が反映したものなのでしょう。

 さて、『正論』には、北朝鮮関連では西岡力・東京基督教大学教授による「北朝鮮の仕掛ける対日謀略戦を打ち破れ」、中国関連では「中国にやられっぱなしでよいのか」(舛添要一・参議院議員と平松茂雄・杏林大学教授の対談)など、勇ましいタイトルが踊っていました。気になります。

 先の『世界』の指標によりますと、日本は世界第2位の軍事大国です。もとより単純に軍事費を比較してのことです。しかし、中国の1.5倍、韓国の3.5倍、北朝鮮の30倍以上となります。諸外国からみれば、いかに平和憲法を有しているからといっても、脅威と映ずるに違いありません。ですから、外交には慎重さが求められます。雑誌論文のタイトルなどにも…。

 北朝鮮に対しては、同じ『正論』で中山恭子・内閣官房参与が「曽我ひとみさんの『ややこしい人生』に終止符を打つために」で説くように、日本外交は「対話と圧力」で臨んでいく方針です。それも、現在のところ、「対話」に比重をおいた外交が功を奏しています。だからこそ、曽我さんの家族も日本に来ることができたのではないでしょうか。

 隣国・中国は、その自己認識あるいは自国認識において、日本よりもはるかに賢明かもしれません。中国はその経済的発展により、世界から「脅威」として把握されていることを自らが認識して、中国の台頭は脅威ではなく、むしろ国際場裡にあって、平和に貢献するのだとする理論(「和平崛起」論)を精緻化する動きがあります。たしかに経済的繁栄は何よりも平和でなくてはなりません。さらには、経済活動を円滑にするためにも国内問題(貧富の格差、環境破壊、政治不安)を解消しなくてはなりません。結局は、平和的な国際社会構築に邁進し、省資源による循環型経済体制を目指さなくてはならないというものです。

 「和平崛起」については、船橋洋一・朝日新聞社コラムニストが「中国は自らに『緊箍呪』をかけることができるか」(『中央公論』)で詳述しています。

 ここで、かつて米国で「日本異質論」が跋扈し、「日本脅威論」が蔓延したことを思い出しました。「日本脅威論」に対し、当時の日本人の多くは、日本の成功に嫉妬がすぎると強く反発し、かえって米国からの再反発を招いてしまいました。現在、中国は、かつての日本と同種同様の問題を抱えています。日本の轍を踏まないようにと心がけているのでしょう。

 月刊総合雑誌上のタイトルだけで判断すれば、日本は諸外国にとって、あらためて脅威となるでしょう。日本も、中国と同様、「和平崛起」論を構築しなくてはならないではないでしょうか。

 日本経済について、前述の『世界』の指標によれば悲観的にならざるを得ません。しかし、景気循環論の大家である嶋中雄二・UFJ総研投資調査部長によりますと、日本経済は、長期的に見て明るい展望が開けているとのことです、それも06年度には「黄金の上昇サイクル」に乗っていく可能性が高いとのことです(「景気拡大は06年に始まる」『現代』)。さらに、その後の10年間について自信を持ってよいとのことです。もし、そうだとしても、いや、ぜひ、そうあってほしいものですが…、かつてのように“ジャパン アズ ナンバーワン”と評されても有頂天となったり、諸外国を見下すようなことがあってはなりません。繰り返します。隣国に見習って、「和平崛起」に徹するべきでしょう。なんせ、すでに世界2位の経済大国であり、軍事大国なんですから。(文中・敬称略)

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