月刊総合雑誌04年11月号拾い読み (04年10月20日・記)
日本銀行は10月18日の支店長会議で、一部地域で景気改善に遅れが出ているものの、全体的には「景気は回復の動きを続け、前向きの循環が続いている」との見方を確認しました(19日付け各紙)。
月刊総合雑誌にも景気を前向きに捉える動きが目立ってきています。『ボイス』は「景気悲観論は嘘ばっかり」とまで謳った特集を編んでいます。「『景気は地方の回復待ち』は嘘」とまで言い切る強気な論考すらあります(増田悦佐・HSBC証券シニアアナリスト)。
好調なのは特に名古屋を中心とする中京地区です。そこで、『潮』は「『名古屋経済』最強の理由」を、『中央公論』は「したたかな『名古屋モンロー主義』」を特集しています。水谷研治・中京大学教授の「名古屋経済を支える『人づくり』の伝統」(『潮』)によれば、名古屋港は、日本全体の貿易収支黒字の約9割を稼ぎ出している全国一の輸出港のです。同地区には、ご存じのように、トヨタ自動車、本田技研工業、ヤマハ発動機などトップ企業があり、同地区は日本の製造業の心臓部です。バブル期の流れに乗らず、「モノづくり」という本業に徹してきたことが利したのです。
実は、濃尾平野で誕生した織田信長や徳川家康の軍団が江戸時代の藩組織・行政組織に転化したとのことです(磯田道史・茨城大学助教授「日本型組織『濃尾システム』の謎」『文藝春秋』)。そのシステムは現代まで連綿として続いています。つまりは、現在の名古屋(中京)経済の強さのルーツは、遠く信長や家康にあるということになります。
『中央公論』は「江沢民引退、中国は変わるか」をも特集しています。9月中旬、中国の江沢民は中央軍事委員会主席を辞任し、胡錦濤が党・国家・軍の三権を一手に掌握することになったからです。
高原明生・立教大学教授は「急激な方針転換は困難である」とのタイトルのもと、日中関係に急激な変化は生じないと分析しています。それに対し、朱建栄・東洋学園大学教授「新指導部の柔軟性に注目せよ」は、新指導部では「反日」的人物が少ないと指摘しています。そのうえで、歴史問題が片付かないと友好関係が築けないと考えられていました(「入口論」)が、今後は関係を密にしていく過程で歴史問題を乗り越えていく(「出口論」)との動きが生じてくるとの楽観論を展開しています。朱の説くように展開してほしいものです。しかし、関志雄・野村資本市場研究所研究員は「『政冷』は『経熱』の足を引っ張る」で、政治面での相互不信がビジネス関係の構築にも支障をきたす、と警鐘を鳴らしています。
『ボイス』では、台湾の元総統の李登輝が深田祐介・作家と対談しています(「二〇〇七年激変する中国」)。李は、「中華民国」の名を捨て、台湾人のための台湾を作ると、熱を込めて語っています。中国本土の政情にも言及し、権力闘争が激化し、その山場は第17回中国共産党大会が開かれる2007年となると予言しています。そのタイミングにあわせ、台湾で新憲法を制定するとのことです。
日中両国関係は、台湾要素がからみ、問題が簡単ではありません。ただ、相互に感情的な対応は避けたいものです。日本側が問題視する中国の“愛国教育”は決して“反日教育”ではないとの言(阮蔚・農林中金総合研究所研究員「サッカーがなぜ国際問題になったのか」『外交フォーラム』)にも耳を傾けるべきでしょう。
日本外交にとって、やはり国連は肝要です。
9月22日、小泉総理は国連総会で演説し、日本の安全保障理事会常任理事国入りの意思を鮮明にしました。
『中央公論』の猪口邦子・上智大学教授の「戦争なき世界への貢献」は、日本の常任理事国入り実現に向けての日本外交へ提言です。彼女は、軍縮担当大使の体験を踏まえ、小国や戦争被害国の思いを代弁しうる大国として信頼を得ていく努力が重要だと説いています。
平和憲法のままでは、国連に全面的に関与できないなどとの議論があります。それに対し、渡邉昭夫・平和・安全保障研究所理事長「憲法九条は『常任理事国』入りの邪魔になるのか?」(『中央公論』)は明快です。「憲法を改正しようがしまいが、日本が『新しい国連』のために最も有意義な貢献ができる分野が『平和定着』や『国家建設』への支援にあることに変わりはない」のです。ただし、あまりに現行憲法が曖昧なので、究極的には「『平和的に』憲法を改正する必要がある」ということになるのです。
一方、『世界』の最上敏樹・国際基督教大学教授「これで常任理事国化の用意は整ったか」は、国連総会での小泉総理の演説には一貫性・整合性がないと疑義を呈しています。彼によれば、国連は軍事大国中心主義から脱し、多国間主義を基盤とする法の支配が貫徹されるべきなのです。この面での国連改組への日本の努力が不足しているとのことです。さらに、常任理事国として日本が有資格とする小泉演説の論拠を問題視します。小泉演説は、イラクでの「人道復興活動」などをもって有資格と論じています。最上によれば、イラク戦争を違法とする国が多く、整合性に欠けるということになります。
『中央公論』には、佐藤謙・元防衛事務次官「『国防の基本方針』を不磨の大典にするな」もあります。自衛隊の存立基盤を現今の安全保障環境のもとで探る試みです。佐藤は、「日米同盟の幅広い意義とその信頼性の向上の考え方を明確に示すべき」と主張しています。しかし、日米同盟は重要だとしても、同時に世界での日本の位置づけ、つまりは国連での日本の役割を明確化すべきではないでしょうか。
30年前の『文藝春秋』1974年11月号に「田中角栄研究」を寄せ、田中総理の金脈を暴き、田中失脚のきっかけを作った立花隆・評論家が、あらためて同誌に「三十年目の田中角栄研究」を寄稿し、30年前の政治状況、その後の政治展開を感慨深けに回顧しています。立花によりますと、つい最近の日歯連(日本歯科医師連盟)1億円献金事件(橋本元総理はかろうじて不起訴)によって、長年にわたる田中派・経世会系列(竹下派・小渕派・橋本派)による日本政治支配の時代が、ようやく終焉したのです。また小泉の「自民党をぶっこわす」という発言の真意は、自民党の中の経世会政治の部分を、あるいは経世会そのものをぶっこわすということだ、と立花は指摘しています。
さて…、9月27日、第2次小泉改造内閣が発足しました。『文藝春秋』の名物的な赤坂太郎との筆者名による政治コラム(今月のタイトルは「小泉が安倍に仕掛けた最後の罠」)は、今回の人事の眼目は、党内の衆望を集め出した安倍晋三・前幹事長の封じ込めだったと描いています。安倍を幹事長代理するという前代未聞の降格人事を成功させ、とりあえずは小泉総理の大勝利となりました。
しかし、今夏の参院選の自民党敗北の真因を探りますと、小泉にはかつての神通力はありませんし、人気は低下する一方で、回復する兆しはありません(蒲島郁夫・東京大学教授ほか「自民党から『ハト』が逃げた」『論座』)。立花の指摘するように、「経世会をぶっこわす」だけに終り、小泉政権は、本来、期待された経済社会システム改革に成果をあげることができずにいます。また、蒲島らの分析では、年金問題、イラク政策で小泉自民党は有権者の支持を逃したのです。ただ、北朝鮮という喫緊の対外問題では自民党政権は支持されています。逆に言えば、安全保障・外交問題が潜在化すると、年金や地方分権を含む経済社会システム改革がクローズアップされてきます。そのさいには、民主党政権への期待が高まるとのことです。
小泉の後をうかがうとされる安倍の雑誌上での発言(『現代』の「総理になれば日本をこう変える」や『正論』での「今こそ“呪縛”憲法と歴史“漂流”からの決別を」)から判断するに、彼には経済社会システム改革へのビジョンは期待できそうもありません。安倍を始めとする自民党議員の問題意識が現状のままだと、「経世会をぶっこわす」が、まさしく「自民党をぶっこわす」につながり、民主党が政権を勝ち取る可能性がますます高くなりそうです。
11月2日の米大統領選挙を目前に、『世界』が「ブッシュか、反ブッシュか」、『論座』が「米大統領選〈帝国〉はどこへ」を特集しています。『中央公論』も「アメリカ大統領選を読む」のタイトルのもと、2篇を掲載しています。アメリカ理解を深めるためにも、一読すべきでしょう。
(文中・敬称略) |