月刊総合雑誌052月号拾い読み (05年1月25日・記)

 月刊総合雑誌2月号は1月初旬に出揃います。それらが実質的な新年号です。従来から、実質的新年号たる2月号の特集に各誌の特徴が顕著に現れると言われてきています。そこで、今月は、各誌の特集を渉猟してみましょう。

 「日本が直面する10の難局」を『現代』が特集しています。経済面では榊原英資・慶應義塾大学教授が「『ドル安』容認で為替変動の影響は深刻か?」を論じ、外交については寺島実郎・日本総合研究所理事長が「対米追従をいつまで続けるのか?」などと問題提起しています。佐高信・評論家「それでもあなたは小泉首相を支持するか?」などもあり、全体として小泉政権に否定的です。

 『正論』は「金正日を追いつめろ! 拉致・特定失踪者問題特集」として、増元照明・家族会事務局次長「なぜ新たな拉致被害認定をしないのか」を始め、拉致問題に関する5篇の論考を掲載しています。さらに、北朝鮮関連に、姜哲煥・朝鮮日報記者「われら脱北者を絶望の淵に追いやる親北韓国」や全京千・元朝鮮青年同盟中央本部副委員長兼組織部長「元朝鮮総連活動家のざんげ録『未来のために私の過去を話します』」があります。北朝鮮に対し、総じて強硬路線を主張しているのです。ちなみに、『正論』の論調は対中国でも強硬です(兵頭平八・軍学者「お家芸の“恫喝”で露呈した張子の虎の実力」など)。

 『諸君』は特集を二つ編んでいます。「長持ちする思想家」と「中国と靖國と『歴史カード』」です。前者は福田恒存と北一輝を介しての現代社会の読み直しを提言しています。後者は、古森義久・産経新聞編集特別委員「中国に『歴史』を突きつけよ」や山本卓眞・富士通名誉会長「財界人よ、靖國に行って頭を冷やせ」など、歴史・靖國問題で、日本は中国に対し、「ノー」と言うべきだと強硬です。

 古森義久は、『ボイス』にも寄稿しています(「財界の『靖国反対』は間違いだ」)。古森論文を含め、『ボイス』は「『日中友好』は終わった」との過激なタイトルで特集を編んでいます。岡崎久彦・元駐タイ大使「台湾独立問題を論じる」や櫻井よしこ・ジャーナリスト「中国は台湾を武力制圧する」などもあり、刺激的です。『諸君!』と同様、いや、それ以上に中国に対し、強硬です。『ボイス』は、「新春特集・本社力で勝つ」をも編み、躍進著しいキャノンに焦点をあて、日本企業・日本的経営の成果・優秀さを強調し、日本経済・日本企業を元気づけ、自信回復するよう促しています。

 新春にあたり読者を元気づけようとする特集といえば、『潮』のそれです。題して「『復活』のドラマ」。閉鎖されかけていた北海道・旭川の動物園、倒産の危機に瀕していたエアーラインやチョコレートショップの復活劇(酒井玲子・ルポライター「日本最北の動物園−“入園者数・日本一”の秘密」など)を紹介し、創意工夫と頑張りの重要性を説いています。

 毎月、複数の特集を掲載している『中央公論』は、今月も「曲がり角に立つ日本宗教」(山折哲雄・国際日本文化研究センター所長「戦後の精神的空白と創価学会」ほか)と「戦後60年の美点と汚点」の二つを掲載しています。

 オウム事件から10年経ちました。バブル崩壊以降、不安感や閉塞感に覆われた現代、宗教を考え直すべきとの意図で前者の特集を編んだとのことです。後者の特集内の渡邉昭夫・平和・安全保障研究所理事長「『吉田ドクトリン』の遺産と誤算」は読み応えがあります。吉田茂元首相が主導した戦後外交を概観し、平和・経済・国連を軸とした外交の総括・評価につとめる力作です。今後の課題は、渡邉によれば、「中国との共存共栄を演出する場としてのアジア・太平洋地域の重要性を十分に計算にいれた国際政策」です。

 なお、「特集 戦後60年の美点と汚点」の巻頭対談「『一九六四年以前以後』の社会の大転換」(保阪正康・ノンフィクション作家×松本健一・評論家)によりますと、東京オリンピックを境にして大変化が生じたとのことです。美点もあれば汚点もあるはずです。しかし、二人の対談に限れば、美点は想定できません。それどころか、汚点のみが明確です。田中角栄が具現した欲望世界とのことです。

 経済成長著しい中国は、石油・エネルギーの確保に急です。そのため、東シナ海の海底油田開発や極東ロシアの石油・天然ガスのパイプラインの敷設をめぐり、日中間に対立の兆があります。『世界』の特集は、対立が激化し、紛争にいたらないようにと祈りをこめ、「共生のための石油戦略」です。十市勉・日本エネルギー研究所常務理事「一国主義から『地域主義』へ」も李志東・長岡技術科学大学助教授「中国の石油需給見通しと石油安全保障戦略」もアジア諸国間でのエネルギー協力体制の確立の重要性、まさしく特集のタイトルにある“共生”の重要性を指摘しています。この特集は、中国の人々にこそ読んでもらいたいとの感がします。

 先の保阪と松本の対談では、日本にとって1964年が大転換点でした。

 一方、『論座』の特集(「溶解する日本1995−2005」)は、この10年間に日本が大きく様変わりしたとの問題意識をもって編集したものです。改革が成ったのではなく、政治も経済も教育も、その基盤が液状化し、溶けだしている、溶解しているとのことです。政治も溶解し、山口二郎・北海道大学教授「戦後の終わりが見えてきた」によれば、自民党も官僚も統治能力を喪失しています。医療・福祉など社会保障が危うくなってきて、新たな社会モデルの構築が求められています(広井良典・千葉大学教授「家族・会社にもう頼れない」)。そのうえ、学力が低下しています。学校教育を種々多々改革してきました。それが、逆効果となってしまったとのことです(佐藤学・東京大学教授「『改革』によって拡大する危機」)。集団自殺に走る若者を目前にして途方に暮れるばかりです(香山リカ・精神科医「家か、死か」)。

 日本企業も大変化しました。従来のようにはモノ作りに強さを望めなくなってきています。ただ、平野正雄・マッキンゼー日本支社長「崩れた伝統、問われる強さの再定義」によれば、「洗練された製品やサービスを開発し、モノ以外の知的文化的商品を輸出していく道」もあります。しかし、その場合、「爛熟した内向きの『引きこもり』型の経済構造」となりそうです。失業率の上昇、少子化が着実に進行しています。清家篤・慶應義塾大学教授が説くように、可能なことから改善していく以外に方途はなさそうです(「生涯現役社会の実現を急げ」)。

 「戦後60周年 総力特集 1945」を、『文藝春秋』が新証言・秘話満載の完全版とうたって、呈しています。34の新証言・秘話、登場する論者数はなんと38。「父・東條英機に渡した青酸カリ」、「李香蘭 上海からの脱出行」、「近衛文麿 息子に託した遺書」、「『ポツダム宣言』天皇への密使」等々…、タイトルだけで十二分に面白そうです。

 櫻井よしこ・ジャーナリスト、車谷長吉・作家、谷垣禎一・財務大臣による鼎談「われら『敗戦の年』生まれ」によれば、昭和20(1945)年生まれは約190万人で、本年、還暦を迎えることになります。彼らは、前後の年生まれ、とりわけベビーブームの22年生まれの268万人に比べ、きわめて少ないのです。車谷は、「(20年生まれは)戦争でいっぺん死んだようなところから生まれてきた強さを持っている」のですが、戦後60年の間に、「何のために死ねるかという『死に甲斐』を喪失してしまった」と自己分析しています。 

 敗戦の年生まれが還暦となれば、中国をはじめアジア諸国にとっては、日本の軛から解放されて60周年です。日本外交にはより一層の注意深さが求められます。北朝鮮に対しても、先に紹介した強硬路線一辺倒ではうまくいきそうもないとの論文がありました。伊豆見元・静岡県立大学教授が、北朝鮮に日本単独での経済制裁を発動しようとすると、かえってマイナスになる可能性があると予見しています(「国際的制裁の道を閉ざすな」『中央公論』)。彼によれば、核問題を含めた包括的な解決や国際的制裁をめざすほうが望ましいとのことです。

 最後に、経済的効率やアジア諸国との結びつきを考えたさい、放置しておけない不便さがあることを記しておきましょう。多くにとって、成田空港を利用すると、日本国内の移動に要する時間のほうが、飛行時間の数倍となっています。中田宏・横浜市長が『中央公論』で展開しているように、「羽田空港国際化こそ日本再興のカギ」なのです。(文中・敬称略)

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