月刊総合雑誌053月号拾い読み (05年2月21日・記)

 『ボイス』が「『日中友好』の終わり?」、『論座』が「波立つ日中関係」と題する特集をそれぞれ編んでいます。2誌の筆致は少し異なります。

 まず『ボイス』をみてみましょう。

 町村信孝・外務大臣は中西輝政・京都大学教授との巻頭対談「意見をぶつけ合う日中関係」で、「国益を反映した外交」を掲げ、「東アジア共同体構想」は時期尚早であり、中国との良好な関係を築くとしても日米関係を基礎としなければならない、と説いています。なお、「東アジア共同体構想」とは、ヨーロッパのEU(欧州連合)を想定し、日本、中国、韓国などの国で貿易、金融、エネルギーなど、さまざまな分野で協力し、政治的にも強い結びつきをめざすものです。

 日下公人・東京財団会長「闘え、日本外交」は、「日本が決然として行動すれば、外国は引く」ことを、日本国民は知り、「威信対面を守る」「正邪曲直を正す」という感覚を持つようになった、その国民に後押しされて、各官庁も海外に対して「闘う」ように変化した、と指摘しています。これでは、日中間も、従来のようには、“友好第一”というわけにはいきそうもありません。

 日下の指摘する変化を反映してのことでしょうか、『ボイス』は中国に辛口です。片岡鉄哉・フーバー研究所元研究員「仮想敵国になった中国」があり、6篇による「『日中友好』終結宣言」との企画も掲載しています。その6篇には田久保忠衛・杏林大学客員教授「対中ODAは黙って中止せよ」、金美麗・台湾総統府国策顧問「李登輝さん訪日は一歩前進」、大石光太郎・ジャーナリスト「外務省は改心したか」、中嶋嶺雄・国際教養大学学長「中国首脳が靖国を参拝する日」などがあります。論文名だけで対中国の姿勢が想像できるかと思います。ロナルド・A・モース・ネヴァダ大学教授「アメリカは『米中同盟』を望む」は、アメリカにとって戦略的にアジアで最も重要な国はやはり中国とのことです。

 上の企画の6篇のうちに深田祐介・作家「再論・田中審議官に天誅を」が含まれています。しかし、これは北朝鮮問題を主眼とした論考です。さらに、北朝鮮への制裁を主張する対談「外務省も本気になった」(飯塚耕一郎・拉致被害者家族会連絡会×西岡力・救出するための全国協議会副会長)まで、特集内にあります。この2篇が、なぜ特集に含まれているのか理解に苦しみます。

 『論座』に目を移します。

 「東アジア共同体構想」について、寺島実郎・日本総合研究所理事長が、榊原英資・慶応義塾大学教授、西部邁・評論家との座談会「アジアを舞台に21世紀のゲームが始まっている」で熱弁をふるっています。共同体を一気に構築しようとすると、対立が生じます。食糧、エネルギーなどで連携をどうするかという具体的なテーマに沿った「段階的接近法」をとるべきとのことです。

 日中間にあっては、やはり小泉総理の靖国神社参拝が問題となっています。武見敬三・自民党参議院議員「『中国脅威論』にはバランス感覚をもってあたれ」は、靖国問題のウエートを小さくするための努力をすべきと説いています。そのため、日本からの無償資金協力により、中国国内の貧困・社会的格差問題を解消するべく、日中両国政府による「人間の安全保障委員会」の設置を、武見は提案しています。

 化粧品の資生堂の中国進出は大成功でした。その経緯を、福原義春・資生堂名誉会長が「対中進出は『百年の大計』で臨め」で明かしています。秘密など何もなく、短期的な利益を追わず、言わば王道を歩んだが故の成功だったようです。

 中国は93年から石油の純輸入国となり、エネルギーを必要としています。そのため、東シナ海の天然ガス田が日中の新たな火種となっています。陳言・ジャーナリスト「石油やガスを奪い合っても何にもならない」は、両国にとって共同歩調がいかに有利になるかを分析しています。ガス田の共同調査・開発、シベリアのパイプライン・ルートについての対ロシア交渉などでの協力が考えられます。

 中国社会での民主化が進んでいます。都会の若者によるネットを利用しての世論形成がみられるようになりました(青山瑠妙・早稲田大学助教授「インターネットが導く中国式民主化」)。ネット化は諸刃の剣です。日中間の相互イメージを悪化させる可能性をも秘めています。「中国側に日本人と日本軍国主義との区別をあいまいにする口実を与えるような『妄言』や言動を控えねばならない」(小倉和夫・青山学院大学教授「『常識』に潜む六つの誤り」)のは当然です。

 心配なのは、日中双方の若者の中に、相互に理解し合おうとしない傾向があることです(吉田裕・一橋大学教授「台頭・噴出する若者の反中国感情」)。吉田によれば、日中両国の若者が有しているのは、情緒的・感覚的ナショナリズムです。容易に攻撃的に転化します。このような状況での小泉総理の靖国参拝は、両国関係の悪化を招くだけだと、吉田は総理の参拝中止を強く求めています。

 中国側にも、中国は過度に歴史認識問題にこだわるべきでないとする「新思考外交」の提唱がありました。その論客の一人である時殷弘・中国人民大学教授が加々美光行・愛知大学教授と対談しています。対談のタイトル(「新文化の共同構築は可能だ」)に見合った動きが活発化することを期待したいものです。

 ほかの雑誌の3月号の中国関連記事にも目を通してみることにしましょう。

 中国に対する日本のODA(政府開発援助)見直し論議が、いよいよ最終局面を迎えているかのようです。中嶋嶺雄・国際教養大学学長「ODAを取りやめ対中国外交のあり方も見直せ」『中央公論』によりますと、対中国ODAは、贈与に近いかたちで総計7兆円にもなったとのことです。それも日中友好のためであったはずなのに功を奏さず、逆に中国は対日内政干渉を強めている、と中嶋は憤慨し、日本は「贖罪外交」「位負け外交」から脱し、対等な姿勢を保持しなければならないと力説しています。

 同じ『中央公論』の濱本良一・読売新聞調査研究本部部長が「四半世紀の歴史を活かすために知るべき中国の心情」が、ODAの経緯や現状を詳述しています。濱本によりますと、日本側は長期的・戦略的発想なく始めてしまったのであり、「中国市場の開拓を狙う財界の要請を背景に、政府が日中関係の推進を狙った構図が浮き上がる」とのことです。一方、中国の指導部は対日戦争賠償放棄の代償であると思い込んでいます。これでは、中国は日本に感謝する気持ちが足りないという批判がありますが、濱本が指摘するように、「そもそも中国に感謝を期待するほうに無理がある」のかもしれません。四半世紀の努力を無にしないためにも、浜本論文の結論である「双方が納得できる形で着地点を模索することが必要」でしょう。

 エズラ・ヴォーゲル・ハーバード大学教授は、『中央公論』で「日本よ、外交力で中国に負けているぞ」と、日本の総合政策・戦略の欠如を問題視しています。アジアでの存在感を増すためにも、小泉総理は靖国参拝をやめ、日中関係を好転させるべきとのことです。

 今月の『文藝春秋』の中国関連記事は、東谷暁・ジャーナリスト「日経新聞『中国報道』が危ない」と水木楊・作家「中華人民共和国が消滅する日」の2篇です。日経新聞には中国語版発行の計画があり、そのため、中国報道に希望的観測や阿りが散見できる、経済情報ですら当てにならない、と東谷は論難しています。水木は、繁栄の陰で指導部に腐敗が見られる中国では、いずれ暴動が頻発し、共産党一党独裁は崩壊し、10年後には連邦制に移行すると予想しています。可能性なしではありませんが、あくまでも“読み物”です。しかし、同種の記事、つまり日本崩壊を予想する記事が、中国を代表する雑誌に掲載されたら、気分のよいものではないことは確かです。日中双方の若者を刺激するような報道・記事が頻出しないよう祈るばかりです。

 4年前のNHKの放送に関し、政治家からの圧力があったとする朝日新聞の報道(1月12日付)があり、日本の二大メディアが対決しています。3月号にもこの問題関連の記事が多々ありましたが、もう少し推移を見守るべきでしょう。そこで、今年は戦後60周年にあたりますし、中国の存在が大きくなってきていますので、中国関連の論考・記事を拾い読みしてみました。(文中・敬称略)

<< 2月号へ