月刊総合雑誌054月号拾い読み (05年3月18日・記)

 4月号を手にする前後に、西武グループ総帥の堤義明・前コクド会長の逮捕(3月3日)やソニーのトップ交替発表(3月7日)があり、ライブドアとフジサンケイグループによる“ニッポン放送株争奪戦”の進展などがありましたので、経営者像に関連する企画に目が向かいました。

 自動車業界で世界一の座を奪取する勢いを示すトヨタ自動車も、ソニーの衝撃的な発表の約1ヵ月前の2月9日に、社長交替を発表しています。こちらはソニーと違い、後継者養成は用意周到になされたとのことです(『文藝春秋』の佐藤正明・ノンフィクション作家「電撃の交替劇 トヨタ社長の資格」)。それも財界活動をも計算してのことです(奥田碩会長は日本経団連会長の任期をまっとうするため留任、張富士夫社長は副会長に、新社長に渡辺捷昭副社長が昇格)。

 このほか、経営者像を問う企画が各誌にあります。例えば、『文藝春秋』の岸宣仁・経済ジャーリスト「『百年企業』29社 繁栄の法則」や有森隆・ジャーナリスト「決定 日本の経営者ランキング ベスト20」『現代』などです。

 岸によれば、社会の根幹をなすのは創業以来一世紀を超す企業(「百年企業」)とのこと。百年企業が今後も発展するには、常に危機意識を持ち、組織を変え続けなければならないとのことです。

 有森によりますと、「ソニー神話」が揺らいだのは出井・ソニー会長が「時代を読み違えた」からです。ちなみに彼によれば、出井は、ノミネートされた50人中、20位。日産自動車のカルロス・ゴーン社長は、過大評価されていると、やっと9位です。紙幅の関係上、5位までを順を追って記しておきましょう。張富士夫・トヨタ自動車、御手洗冨士夫・キャノン、三木繁光・三菱東京FG、松井道夫・松井証券、永守重信・日本電産(いずれも社長)。

 なお、有森は、楽天の三木谷浩史社長やソフトバンクの孫正義社長を高くは評価していません。両社とも赤字が続いているからです。また、ライブドアの堀江貴文社長に関しては、「創業以来、一度も株式配当を行ったことがない。無配転落は経営者失格の烙印を押されたのも同然だ。無配会社がフジサンケイグループにM&Aを仕掛ける。冗談が過ぎはしないか」と記すほど、否定的です。

 毎日変化するライブドアとフジサンケイグループの動きは新聞・テレビに譲るにしても、月刊誌の記事には登場人物を理解するに便利です。たとえば、堀江社長の生い立ちは、奥野修司・ジャーナリスト他「堀江VS.フジ『仁義なき戦い』の内幕」『文藝春秋』に詳しいものがあります。小学4年生のころから「しゅみ・お金あつめ」と公言していたとのことです。

 『現代』の「揺れる企業、標的の男たち」と題する企画には、中川一徳・ジャーナリスト「日枝久、堀江貴文そして村上世彰」、町田徹・ジャーナリスト「海老沢勝二の首を取れ!」、七尾和晃・ジャーナリスト「堤義明に止めを刺した『取材ノート』」、須田慎一郎・ジャーナリスト「渦中の西川善文三井住友銀行頭取を直撃」があり、話柄となった経営者たちに迫っています。中川は、ニッポン放送と村上ファンド、ライブドアの因縁を、日枝(フジテレビ現会長)による13年前のフジサンケイグループでのクーデターを起因として詳述しています。

 堺屋太一・作家・元経済企画庁長官「団塊の世代『最高の十年』が始まる」『文藝春秋』によれば、彼が小説『団塊の世代』を世に問うたのは30年前です。「団塊の世代」とは昭和22(1947)年から24(49)年の間に生まれた人々で、現在、679万人。前の世代に比し27%、後の世代に比し21%も多く、戦後日本の動向に大きなインパクトを与え続けてきました。2007年には彼らが定年を迎え始めます。そのため「2007年問題」が盛んに論じられ、「団塊お荷物論」が横行しています。それらに堺屋は真っ向から反論し、かつ団塊の世代が、労働・消費において、自らの欲求・利便を満たすべく行動すれば、日本社会はかえって活性化すると説いています。

 その兆候を、まさしく『ボイス』の2篇が捉えています。百貨店業界はバブル経済の崩壊後、売り上げ減で悩み、東京・新宿では大型の5店が顧客争奪戦を繰り広げてきました。劣勢とみなされてきた京王百貨店が見事に売り上げを伸ばしてきています。「団塊の世代」をターゲットにしたからです(西村晃・経済ジャーナリスト「京王百貨店のシニア集客力」、宮田洋一・京王百貨店社長「リタイアする『団塊』を狙え」)。

 1月12日付朝日新聞は、安倍晋三・自民党幹事長代理と中川昭一・経産大臣が番組放送前にNHK幹部を呼び、圧力をもって番組を改変させた、と報じました。これに対し、安倍・中川、NHKが、反論したり、取材方法の問題点を指摘したりしてきています。この問題関連の論考を4月号から拾ってみましょう。

 『正論』は「朝日・NHK問題追及特集」を編んでいます。同特集は、稲垣武・ジャーナリスト「朝日新聞『従軍慰安婦』欺瞞報道」、野村旗守・ジャーナリスト「『従軍慰安婦騒動』に再び火をつけた朝日新聞報道」、同紙編集部「それでも朝日、NHKはニュースメディアか」にあるように、まずNHK・朝日が「従軍慰安婦問題」を取り上げること、取り上げたことを批判しています。安倍もインタビュー(「朝日への不信、筑紫哲也氏への異議」)に登場し、政治的圧力などかけようもなかったこと、その後のTBS系列のNEWS23の筑紫キャスターの朝日擁護に怒りを露わにしています。さらに4年も前のことを大きく報道することに政治的意図があると、朝日を批判しています。

 安倍は『諸君!』でもインタビュー(「私の朝日新聞批判、筑紫哲也批判」)に応じ、『正論』上と同趣旨を展開しています。安部のインタビューをも含む『諸君!』の特集タイトルは「朝日新聞に愛の鞭を!」。きわめて朝日の報道姿勢に批判的で、特集巻頭は渡邉恒雄・読売新聞グループ本社会長・主筆による「NHK・朝日論争に直言する」です。渡邉は、左翼勢力による偏向番組をNHK幹部が部分カットして報道したことの正否と問題設定しています。そのうえで、政治家たるもの番組内容を事前に知っていたらカットを要求すべきでありとし、さらにその“事前介入”があったことを立証できない朝日に非があるとし、朝日に謝罪を求めています。

 一方、『世界』の「特集『公共放送』の条件」は、噴出するNHK批判や番組制作費不正支出など職員の不祥事をめぐる議論はさておき、「公共放送制度」理念や「公共性」概念について論じています(花田達朗・東京大学教授他「公共放送のリアリティとジレンマ」など)。花田論文は、公共放送制度は擁護すべきですが、さりとて現実としてNHKという組織に自浄能力を見込めないと説いています。結局は、そのようなジレンマを抱えたNHKを生かすべきか否か、近く結論を出さざるを得なくなるとのことです。

 NHKと同様、受信料で成り立っているBBC(英国放送協会)も、政権からの干渉とつねに戦わざるを得ないようです。BBCについては、『論座』に外岡秀俊・朝日新聞ヨーロッパ総局長「岐路に立つ公共放送」がありました。BBCは、最近では、イラク戦争の「大義」をめぐり英政府と全面対決し、トップ二人が引責辞任しました。しかしながら、「英国がBBCとバッキンガム宮殿を失えば、英国は英国でなくなる」ほど、BBCは英国の民主主義システムの核心に組み込まれているとのことです。結局は、政府など制度の監視役、商業放送への防波堤としての役割を担うべく、強力な自主管理のチェック機構・経営委員会の強化につとめれば存続する意義はかえって深まるようです。外岡論文は、NHKを論ずるさいに参考となるでしょう。

 また、昨秋、アメリカのメディア界を騒然とさせたCBSテレビによる大統領軍歴誤報事件についての解説(金平茂紀・TBSワシントン支局長「政府との緊張関係はどこに行ったのか」『論座』)を併読すると、メディアが抱える別の側面を垣間見ることができます。メディアは無謬性の神話にとらわれてきたのです。当然なことですが、メディアも誤りを犯すのです。それにいかに対処するか、何を学ぶか、が問われるのです、問われているのです。 (文中・敬称略)

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