月刊総合雑誌055月号拾い読み (05年4月21日・記)

 5月号に目を通すのは、中国の諸都市で反日デモが繰り返されているとの報に接しながらのこととなりました。そこで、今月は、中国関連の論考を中心としての“拾い読み”とすることにします。

  台湾の独立阻止を目的とする反国家分裂法を中国が成立させたことを踏まえ、『正論』は3篇の編集長連続インタビューを「台湾政府要人に中国問題の核心を聞く」の通しタイトルで掲載しています。呉サ燮・行政院大陸委員会主任委員「国連憲章に反する中国の『反国家分裂法』」は、内部に問題を抱えると国民の視点をそらすために中国は民族主義・ナショナリズムを利用する、結果として台湾と日本が深刻な影響を受けると指摘しています。侯勝茂・行政院衛生署長「疾病対策は政治を超えたレベルにある」は、中国国内での伝染病対策や医療制度の遅れを心配しています。蔡明憲・行政院国防部副部長「中国の軍事力アップにどう対処するか」は、中国の核兵器を憂慮し、軍事面での台湾・日本・アメリカの緊密な協力が必要だと論じています。

  しかし、日本は簡単には軍事面でアメリカ・台湾と共同歩調をとれないと、岡崎久彦・外交評論家は彭明敏・台湾総統府最高顧問との対談「中国が台湾を攻撃したら日本はどうするか」で慨嘆しています。青木直人・ジャーナリスト「中国経済情報の″嘘≠ヘこうして作られる」は、日本企業・財界人による反中国的雑誌への広告拒否や反中国的企画への協力・取材拒否の実情を紹介し、対中ビジネスに携わる日本企業の中国に対する遠慮やおもねりは過剰すぎると論難しています。中国が核開発によって国際社会で威信を高め、影響力を持つにいたる過程を、平松茂雄・杏林大学教授「公開された外交文書『中国の核開発』を読み解く」が明らかにしています。

  『諸君!』の特集は「“お得意様”中国経済はバブルか、粉飾か?」です。巻頭で『正論』に登場していた彭明敏が、ここでも石原慎太郎・東京都知事と対談(「中国こそ『国家六分裂法』を制定せよ」)し、民主・自由を尊ぶ小さな国(台湾)を独裁国が武力を以て併合しよとしていると、中国を非難しています。中川昭一・経済産業大臣「中国経済、ここがほんとに心配だ」は、東シナ海ガス田開発などについて、「国益を守るためならば、あらゆる選択肢を検討し実践していく覚悟があります」とし、中国の経済発展の歪み(経済格差、人民元の切上げ、政府系銀行の不良債権、インフラの未整備)を問題視しています。

 山本一郎・イレギュラーズ&パートナーズ社長「『日本にとって都合の良い中国経済』とは」は、「豊かな都市を持つ州が、貧しい州の救済を拒否して」国家分裂を来たす可能性がきわめて高いと分析しています。日中間の政治的軋轢の主因は小泉総理の靖国参拝にあるとの声が財界にもあります。それを真っ向から斬って捨てているのが、山本卓眞・富士通名誉会長×葛西敬之・JR東海会長「『政冷経熱』の原因は中国側にあり」です。また、野村旗守・ジャーナリスト「尖閣諸島・海底油田―弱腰外交三十年分のツケ」はタイトルどおり、先方の顔色を窺っているうちに中国が既成事実を積み重ねてしまった、と日本政府の対応のまずさを糾弾しています。伊藤惇夫・政治アナリスト「“暴言反日大使”王毅の大いなる誤算」によりますと、小泉総理の頑な対中姿勢は、日中間のパイプ役的役割を果たしてきた旧田中派潰しの怨念からきているとのことです。伊藤は、日中関係はさらに危ういものになると予測しています。

  王毅・中国大使と藪中三十二・外務審議官の二人が基調講演を行った慶應大学主催シンポジウムを『論座』が採録しています。王は、あくまでも互恵協力と共同発展を求め、ウィン・ウィンの関係を構築したいとのことです(「中国の発展は日本の脅威にはならない」)。また、海底資源や島嶼など意見がまとまらない問題は、共同開発を考えるべきと提唱しています。藪中はこの1年間の諸問題の起因は中国側にありと指摘しています(「日中間に問題があるからこそ首脳は会うべきだ」)。

  シンポジウム(「日中関係の再構築に向けて」)では、陸忠偉・中国現代国際関係研究院院長が「首相が(靖国)参拝をやめることです。そして、中日両国のマスコミがこの問題を報道しないことです」と提言しています。それに、小島朋之・慶應大学総合政策学部長は賛成の意を表明したうえで、「日中両国は歴史問題に真正面から取り組まなければいけないでしょう」と応じています。

  『論座』では、特集外で、朱建栄・東洋学園大学教授「反国家分裂法 中国の本音は」が、冒頭に記した『正論』の論調とは違い、反国家分裂法は、字面はきついが内容はソフトだ、と展開しています。中国の本音は、当面は現状維持であり、将来は対等な「中華連邦」の形成である、とのことです。

  「13億人の脅威 中国を警戒せよ!」と題して『現代』は4篇で特集を編んでいます。半田滋・東京新聞記者「大国の軍拡路線に自衛隊再編は万全か」は、有事のさいの台湾からの避難民への対処や台湾在留邦人の保護をなんら想定していないと日本政府を糾弾しています。割安な人民元が中国製品の各国への輸出ラッシュにつながっているので、人民元の切り上げは早晩実施されるとのことです(中島厚志・みずほ総研専務執行役員「人民元切り上げ『忌避』を世界は許さない」)。在台北ジャーナリストの酒井亨は、中国の「反国家分裂法」が台湾で反中国感情を激化させた状況を詳述しています(「08年新憲法 大陸の『圧力』に台湾は猛反発」)。

  趙宏偉・法政大学教授「不気味な胡錦濤とのつき合い方」は、発展途上国とはいえ、大国としての地位を獲得、不動のものにしたと中国を評価します。彼は、不気味な隣人という印象を広め、中国脅威論を展開していると日本のメディアに批判的です。また、中国の外交戦略は「長兄外交」とのことです。「長兄」としての「和」という柔軟な顔を有するとともに、大国として周辺に敵対国を認めないのです。「今日、中国にとって敵対勢力はただ2つ、台湾と日本だということになる」としたうえで、「反中嫌中の愚から脱却し、日本自らが明治以来の彷徨の歴史に終止符を打つ。その選択を中国は待っているのだ」と結んでいます。

  中国の駐日大使人事は日本重視のためだったと『文藝春秋』の上村幸治・ジャーナリスト「胡錦濤『靖国政策』をついに転換」が説いています。「(中国の指導部は)靖国問題を戦略的象徴として強調し、これを突破口に日中関係の全面的な改善をはかろうとしてきたという考えを諦め、新たな道を模索しようとしている」と予見しています。いかに中国側が声を大にしても、小泉総理が靖国参拝をやめそうにもないからです。しかし、上村の予見する「新たな道」が反日デモだとしたら、恐ろしいことです。

  足立誠之・アジア経済評論家「中国に厳しくなった米国議会」『ボイス』などにもあるように、中国に対してアメリカは必ずしも好意的ではなさそうです。  『中央公論』に登場したリチャード・アーミテージ米前国務副長官(「中台緊張は日米同盟で対応できる」)も同様です。「本当に信じられないような巨額の支援を中国に対して実施してきたが、それに対する中国からの『感謝』は何だったのか。(略)統制された中国メディアでの信じがたい対日批判だった」ときわめて日本に同情的です。しかし、同じ『中央公論』のリチャード・ソロモン米平和研究所所長「日本は東アジアで役割を失う」は、日本外交がアメリカの期待を裏切ってなんら政治的指導力を発揮してこなかった、そのため受動的な国家から脱し切れないと指摘しています。ソロモンによれば、中国はアジアでの政治的影響力をますます強めるとのことです。

  茅原郁生・拓殖大学教授「中国の国防近代化とアジアの緊張」は、中国の軍事力を犀利に描いています。中国では軍は「党の柱石」です。ですから、政権の存立を確保するためにも軍備強化を続けざるをえないのです。少数民族問題などで国家統合が困難になってきています。そのためナショナリズムが求められます。ナショナリズムの中核体は軍です。ナショナリズムは暴走しがちなものであり、コントロールできるか否かの難問を抱えていると、茅原は憂慮しています。

  以上、みてきた範囲内だけでも、日中間の懸隔・溝は大きそうだとしか形容しようがないようです。(文中・敬称略)

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