月刊総合雑誌05年11月号拾い読み (05年10月21日・記)

 月刊総合雑誌11月号の多くは、9月総選挙の結果を踏まえた特集を編んでいました。「小泉首相の歴史的圧勝を総括する」(『正論』)、「自民圧勝で日本は改革できるのか?」(『諸君!』)、「小泉“新体制”の研究」(『中央公論』)、「総理専制政治とどう対決するか」(『世界』)、「総選挙」(『論座』)などです。

 『世界』の主調音は、特集タイトルからも想定できるように、小泉政権は、結局は失敗し、ゆり戻しにより、いずれ自民党は敗退するとの予見です(金子勝・慶應義塾大学教授×杉田敦・法政大学教授「幻想の『改革』への対抗軸を」)。

 選挙分析の第一人者たる蒲島郁夫・東京大学教授は、『世界』(早野透・朝日新聞コラムニストとの対談「『郵政選挙』の結果を読み解く」)、『中央公論』(菅原琢・日本学術振興会特別研究員との共同執筆「地方の刺客が呼んだ『都市の蜂起』」)、『論座』の3誌に登場していました。『論座』は、菅原琢に谷口将紀・東京大学助教授を加え、3名による「自民にスウィングした柔らかい構造改革派」)です。蒲島が参画している論考によりますと、何となく構造改革をポジティブに見ている人々がカギを握ったのです。つまり、「柔らかい構造改革派」の支持が自民党大勝利をもたらしたとのことです。

 『論座』の特集の巻頭は、堺屋太一・経済評論家、辻井喬・詩人、山崎正和・評論家による座談会「この国の民主主義の針路」です。山崎は、自民党がわかりやすい選択肢を提供したが故の勝利だったとします。辻井は、大衆が賛成するか反対するかは中身ではなく演出次第となっていると不安感を表明します。堺屋によれば、戦後の職場・労働組合ごとに票を出す「職縁社会」が終焉し、同じ好みを持った者同士が集まる「好縁社会」に移行しているのです。この社会のあり方が不明なので、次の政治のあり方も見えない状況にある、とのことです。

 辻井が指摘するように、たしかに演出、つまりは広報が大きな役割を担いました。『論座』の自民党と民主党のそれぞれの広報責任者の論考を一瞥しただけで勝敗の結果が納得できます(世耕弘成・自民党幹事長補佐「すべてセオリー通り、です。」と福山哲郎・民主党調査局長「そこが最大の誤算だった。」)。

 『文藝春秋』の櫻井よしこ・ジャーナリストが二人の自民党新人女性議員(佐藤ゆかり、片山さつき)に迫る「刺客議員に女の覚悟を問う」が読ませます。この記事を読む限り、二人は、いわゆるタレント議員でもありませんし、政策にも通じています。このような新人の登場は、自民党、ひいては日本の政治の変革に繋がるに違いないでしょう。なお、片山さつきは『中央公論』に寄稿(「小泉直接民主主義の熱気」)し、『正論』ではインタビュー(「刺客と呼ばれた女性官僚の『小泉劇場』奮戦録」)に応じています。

 『文藝春秋』の連載随筆「日本人へ」で、塩野七生が今月は「拝啓 小泉純一郎様」との題のもと、軸足がぶれることなく行財政改革に取り組んできていると、小泉首相を高く評価していることを紹介しておきましょう。

 しかし一方で、「小泉首相自身がどんな長期的ヴィジョンのもとに個々の国家や国連にたいする政策を展開しようとしているのかが、いっこうに見えてこない」との懸念(野田宣雄・京都大学名誉教授「後継者なき指導者民主主義の空しさ」『中央公論』)が表明されています。また、先の塩野は、退陣の時期を明確にしては外交力を損なうので、「国益に適うとは思われません」「満身創痍になるまで責務を果たしつづけ」るように、と注文付けをしています。また、国連安保理常任理事国入りに失敗した日本は、国連との関連での新たなヴィジョンを作成しなくてはなりません(田所昌幸・慶應義塾大学教授「日本外交の挫折から学ぶべきこと」『論座』)。小泉首相には、国内の強い支持を背景にし、外交面でもさらに力を発揮してほしいものです。

 ところで、つい最近まで外務省にあって小泉外交を支えてきたとされる田中均・前外務審議官による手記(「小泉訪朝“仕掛人”と呼ばれて」『文藝春秋』、「日朝首脳会談を実現した男の初手記」『論座』、「私が見た小泉外交4年間の真実」『現代』)が目立ちました。しかし、田中は、「(日本外交は)タブーを破らなくてはならない」(『論座』)と力説するのですが、そのタブーとは何かが不明なままです。歯切れがよいとはいえません。いまだ公にできない事柄が多いからかもしれません。

 浜田和幸・国際未来科学研究所代表「胡錦濤 その知られざる素顔」『文藝春秋』は、隣国の指導者の実像に迫ります。チベット弾圧で出世したのですが、「インターネットビジネス長者」と結婚した娘がアキレス腱だとのことです。

 浜田は、「共産主義の建前が形骸化し、金儲けのためなら何でもありの社会になっている。その象徴ともいえるのが国家主席の娘である胡海清の生きかたである」と皮肉っています。

 朝日新聞には、NHK問題につづいて、記事捏造問題が生じ、不祥事が相次いでいます。長山治一郎・ジャーナリスト他「驕れる巨象 朝日新聞の失墜」『文藝春秋』によりますと、箱島前社長のコスト重視と側近政治により、ジャーナリズム精神が削がれ、それが一連の事件の誘因となっているとのことです。元朝日新聞常務の青山昌史は、『正論』で、同誌編集長の大島信三のインタビューに応じています(「どうして朝日新聞で不祥事が多発するのか」)。青山は、朝日新聞には、従来から政治部と社会部の確執があり、それがクビキとなっていると指摘しています。さらには、その「左翼的体質」を払拭すべきと強く説いています。

 小泉・自民党の大勝利は株価高をもたらしました。しかし、『ボイス』によれば、株価高は日本経済が真に回復したからのようです。同誌の特集は「日本経済は黄金時代」。「気がつけば景気回復」の統一タイトルのもと、木村剛・フィナンシャル社長初め6人のエコノミストが寄稿しています。その中で森田謙一・ケン・ミレニアム代表取締役は「日経平均10万への道」とまで強気です。巻頭対談は、日下公人・東京財団会長と伊藤洋一・住信基礎研究所主席研究員による「人口減少恐るるに足らず」です。少子化でかえって日本の文明力は高まり、世界中が憧れる「豊かな生活」を享受できる可能性があり、それこそが、日本の今後の世界への影響力の源泉になる、と二人は楽観論に終始しています。

 『中央公論』は、先の選挙関連以外に、団塊世代を視座に特集を編んでいます(「団塊世代の老年格差社会」)。堺屋太一はここでも松原隆一郎・東京大学大学院教授と対談(「会社人間の呪縛を解かねば日本ごと沈む」)しています。堺屋は力説します。現在の多くの日本人は、終身雇用制度の中で「職縁社会」の住人でしたが、今後は地域コミュニティなどが楽しみの場になるのです(先の「好縁社会」)、と。そして「七〇歳まで働くことを選べる社会」「歩いて暮らせる街づくり」などによって、新たな消費文化を創出しなくてはならないのです。

 養老孟司・解剖学者「定年後の団塊」は、定年後は帰農するようにと推奨します。しかし、嶋津隆文・東京都理事「大都市団塊八五万人の“漂流”が始まる」は、地方の受け入れ能力に疑問があると指摘しています。多くの大都市住民がふるさとに回帰すると、福祉、医療面で問題が生じるのです。その他、団塊の世代の前途には楽観できない点があります。「年金の給付切り下げが回避されたとしても、消費税率の引き上げを通じて、実質的な負担増を強いられることは十分にありうる」のです(熊野英生・第一生命経済研究所主席エコノミスト「年金生活者にしのびよる消費税増税の影」)。

 『文藝春秋』には、詩人としてペンネームの辻井喬の名をもって登場していた堤清二は、『中央公論』では、作家・セゾン文化財団理事長の肩書きにより、本名でインタビューに応じています(「父の踏襲が弟の命取りになった」)。父・堤康次郎(西武鉄道の創業者)や異母弟・堤義明(西武鉄道・コクド前会長)との関係を詳細に述べています。さらに、西武鉄道グループの中核会社コクドの株の所有権をめぐり、義明を提訴している清二は、その真意を語っています。コクドによる不正への怒りや現経営陣の再建案への不信からのようです。

 本年も、ニューヨーク・ヤンキースの松井選手は頑張りました。松下茂典・ノンフィクションライター「『鉄人』松井秀喜の真実」『論座』は、あの強靭な肉体と精神の秘密に迫る力作です。  

(文中・敬称略)

<< 10月号へ