月刊総合雑誌05年12月号拾い読み (05年11月21日・記)

 ポスト小泉は、「麻垣康三」といわれていました。つまり、麻生太郎、谷垣禎一、福田康夫、安倍晋三の四人のうちの一人というわけです。

 『ボイス』の「『ポスト小泉』指名座談会」での屋山太郎・政治評論家によりますと、「歳の順で、麻生・安倍で決まり」とか…。しかし、屋山も指摘しているように、人気投票では安倍が抜群の一位です。だからでしょう、安倍は、『諸君!』(「逃げる気か、朝日!」)、『正論』(「次期首相にとっても靖国参拝は重大な責務だ」)の2誌に登場しているうえ、『ボイス』でも麻生、谷垣とともに日比谷二郎・ジャーナリストのインタビューに応じるなど、総合雑誌でも人気度抜群です。

 さて、『ボイス』での麻生の言のタイトルは「『小さくても強い政府』を」であり、安倍のそれは「『負け組』も救える構造改革」、谷垣は「政治の最大テーマは財政再建」です。タイトルだけで、三氏の力点が伺えるでしょう。なお、総理の靖国参拝については、安倍は『正論』でのタイトルからも想定できるように、当然のことと主張します。麻生も同様です。しかし、谷垣だけは私的参拝であり、私的である以上、大きく取り上げる問題ではないと、二人とはニュアンスが違います(誌面での3氏の肩書きは取材時のままなので、ここでは省きます)。

 民主党の新たな顔になった前原誠司・民主党代表は『論座』で、「ヘビのようにしつこく、対案路線で戦います」と、つねに対案を用意し、自民党政府と改革競争を行うとのことです。
 その対案作成のさいには、山口二郎・北海道大学教授「民主党はいま、何をすべきか」『世界』が役立つでしょう。
 
 自民党は経済界の利益を代表すると同時に中央政府の予算を地方に再分配してきました。つまり、成長と分配、強者の自由と弱者への平等という矛盾しかねない価値を同時に追及し、一人二役(右派と左派) を演じてきたのです。今回の選挙では、地方や弱者を犠牲にしてはならないと主張して(従来の左派的立場で)郵政民営化に反対した議員たちは追放されました。地方の農家などはもはや弱者とはみなされていなかったのです。かえって地方の農家や特定郵便局は政治的コネを使ってうまい汁を吸ってきたとの不信が広がっていたのです。

 そこで、小泉総理により左派の切捨てが断行されたのです。小泉政治は新自由主義に基づいているのです。それに対抗するには、平等や再分配を重視する政策を打ち出せばよいことになります。集権体制・裁量行政を打破し、地方分権を推進し、共同主義・連帯主義の理念を掲げるべきということになります。

 また、辛淑玉・人材育成コンサルタント「野党に欠けているもの それは『怒り』です」『論座』によれば、「弱者の視点に立った」施策・課題に取り組むべきなのです。辛の弱者とは、「非正規雇用の都市労働者」です。弱者の様相が変改しているのです。山口や辛が主張するように、新たな再分配システムが求められています。

 再分配システムの再構築は、別な側面からも求められています。人口が減少するうえ、超高齢社会になりそうだからです。出生率は1.29ですし、今世紀の中ごろには国民の3人に1人が65歳以上となります。この問題を、『文藝春秋』が、宮崎哲弥・評論家の司会のもと取り上げています(「少子高齢化大論争」)。少子化の原因としては若者の非婚化があり、非婚化の原因は若者が結婚によって生活の質が低下することを嫌うからです。少子化対策に高齢者給付を振り替えようとしても困難です。高齢者の比率が増加しているうえ、選挙時の投票率が高いなど、高齢者の政治的な声が大きくなっているのです。エイジフリー(定年制のない)社会になりそうですが、そのさい若年層の就業機会を損ねないようにしなくてはなりません。

 原田泰・大和総研チーフエコノミスト「急いで社会を作り直そう」『論座』は、日本の年金は世界一高いと指摘しています。アメリカは日本の6割でスウェーデンは5割とのことです。だから、給付水準を下げるか、または高所得の高齢者は低所得の高齢者を援助するという、高齢世代間の所得移転も取り入れるべきと、原田は展開しています。

 若者の非婚化に話柄を戻します。
 山田昌弘・東京学芸大学教授「結婚難に陥る男の事情、女の本音」『中央公論』が明快です。彼によれば、非婚化・未婚化が生じる根本的理由は、次の3点です。―@女性は結婚後の家計の責任を男性に求める傾向がある。A若い男性の収入は低下傾向にあり、さらに近年は不安定化している。B結婚生活に期待する生活水準は、戦後一貫して上昇している。―

Bは、先の『文藝春秋』の座談会も指摘していましたが、山田は@を特に問題視します。AやBの改善・変更は困難です。だとすると、男性に家計を支える責任を求める、という女性の意識を変えるしかないことになります。そのためには、女性が働きやすい環境、女性が職場復帰しやすい制度を作ることが必要です。それが、山田によれば、「女性のためであると同時に、収入が不安定化している若い男性を結婚しやくする切り札」なのです。

 しかし、若い女性たちの意識は山田の望むようなものではありません。彼女たちの専業主婦願望には根強いものがあります。それを原田曜平・博報堂生活総合研究所研究員「専業主婦志向が高まっても結婚できない二十代女性」『中央公論』が詳述しています。

 ところで…、あいかわらず、中国への不信を露わにするタイトルが総合雑誌に踊っています。『正論』の特集は「中国のアジア覇権に呑み込まれる日本」ですし、『諸君!』には「胡錦濤を怒らせてこそ外交だ!」などという座談会(新井弘一・元東独大使他)があります。

 今月は、『中央公論』の特集「中国を蝕む解放軍の実像」を取り上げることにします。
 巻頭の中嶋嶺雄・国際教養大学学長「二〇〇八年危機を乗り越えられるか」は、中国が軍事力をもって台湾に介入する可能性が高いと警鐘を鳴らしています。北京オリンピックと台湾総統選挙が行われる2008年前後が最も危険だそうです。

 確かに中国は軍事力を強化していて、核ミサイルや兵器のハイテク化が急ピッチに行われています。茅原郁生・拓殖大学教授「中国の軍事的台頭と連動する二つの問題」によれば、アメリカへの警戒感があるからなのです。日米安保体制の強化も中国にとっては脅威なのです。だから、中国政治の国際協調を求める側面を評価し、その方向に向うよう慫慂する必要があると、茅原は強調しています。  しかし、江沢民の院政は続いていて、胡錦濤はいまだ政権基盤を固めきれていないとのことです(濱本良一・読売新聞調査研究本部主任研究員「“超法規的集団”化する人民解放軍」)。濱本によれば、江と胡の二重権力構造が、軍事分野に複雑な影を落としていて、人民解放軍の中国内での政治的影響力は増加する一方なのです。驚くべきことに軍部によるクーデターの可能性まで憂慮せざるを得ない状況とのことです。  実は、台湾侵攻能力はないとのことです(小川和久・軍事アナリスト「軍に拡がる空洞化と『権銭交易』」)。だからといって脅威ではないと小川は言ってはいません。「権銭交易」とは、権力と金銭(権益)は切っても切れない関係にあるという意味です。人民解放軍は、バブルに沸く中国経済にあって優秀な人材の募集難や流出のために空洞化が著しいようです。このような状況下、中国解放軍が既得権益を守ろうとし、独断専行の行動によって共産党中央を「ゆする」動きに出るのは考えられないことではない、と小川も、上の濱本同様に、危惧しています。小川の結論は先の茅原とニュアンスを共にしています。「(日本は)結果として中国が軍事的脅威とならないような、政治・軍事・経済・文化などあらゆる面からの総合的な外交の構築」と結んでいます。小川や茅原の提言がいかに正しくても、それらの実現はきわめて困難です。第一、総理の靖国参拝で日中対話はスムーズではありません。いかに打開すべきなのでしょうか。   

(文中・敬称略)

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