月刊総合雑誌06年1月号拾い読み (05年12月21日・記)
月刊総合雑誌の世界には、1ヵ月早く新年がきます。つまり、12月初旬に新年号が出揃います。その新年号の特集に各誌の特徴が色濃く出ると、業界ではいわれています。そこで、今月は各誌の特集紹介から始めることとします。
『正論』のそれは、「置き去りになった日本人妻」で、北朝鮮へ向けた帰国事業46年を扱っています。『諸君!』は、総力特集の「忍び寄る中国覇権に屈するのか」と、あと特集として二つあり、「これぞ、タブーなき内部告発!」と「女系天皇と国家の品格を問う」です。『現代』には、「子供たちを守れ!」があります。しかし、表紙に謳っているのは他の論考です。『潮』は特集と銘打っていませんが、「特別企画」の「『師弟』−人間教育の原点。」が特集に相当するでしょう。『論座』は、40歳未満に投げかけるとの意図で、「いま何を問うべきか」です。『ボイス』の総力特集は「日本経済は買いだ!」。「教育再建」、「ネットトレーダー・バブルの実態」、「介護―高齢化社会の現実」と多彩なのが『中央公論』です。『世界』は、東アジア首脳会議を念頭においての「『東アジア共同体』―未来への構想」です。『文藝春秋』の特集は「世界に輝く日本人20」で、新年特別企画として「三つの言葉」があります。
上記で、各誌の傾向・紙面の雰囲気が想定できたかと思います。
『文藝春秋』の「三つの言葉」は、各界リーダー32人に、混迷の時代を読み解くべく、キーワードを解説付きで3つずつ選んでもらったものです。ホリエモンこと、堀江貴文・ライブドア社長の3つの言葉は、「世界平和」「肉体と精神の分離」「宇宙」です。彼によれば、インターネットにより情報が自由に行きかうようになれば、戦争はなくなるのです。また、肉体が直接ネットワークに接続できるようになれば、眼球などの感覚器官の損傷を克服できるし、他人の意識とも接続可能になるのです。さらに、民間ベースでも宇宙飛行を楽しめるようになるとのことです。一方、中曽根康弘・元首相は、「改革万能膏」「同情大臣劇場」「ナショナリズム感冒」を上げています。他の方々の言葉にも興深いものがあります。しかし、紙幅の関係もありますので、ご自身で選択を試みられるとさらに興深いものとなるでしょうとお勧めして、話柄を転じましょう。
西所正道・ライター「十年連続自殺率一位 秋田県の謎」『文藝春秋』によりますと、日本の自殺者総数(2003年)は34,427人で、秋田県は519人でダントツ。厳しい天候や過疎化・高齢化などに、秋田県民の「ええふりこき」、つまり「ええかっこしい」という県民性が自殺率を押し上げている可能性がありそうです。ただし、うつ病の正しい知識を広めるなどすると自殺の予防も可能のようです。また、優しい人間関係がうまく機能するようコミュニティを作り直すことも有効とのこと。地域社会のあり方、ひいては高齢化社会のあり方が問われます。
『中央公論』の「介護―高齢化社会の現実」は、実施から五年が経った介護保険制度が06年4月に大改正されるので、それに対応しての特集です。
大改正の内容は、予防防止型システムへの転換(筋力トレーニングを取り入れ衰弱を抑制するなど)、施設給付の見直し(在宅と施設入居の不平等改善など)、地域包括支援センターの創設(地域密着型サービスの充実など) 、サービスの質の確保と向上、負担のあり方・制度運営の見直し、などです(中村聰樹・介護・医療ジャーナリスト「制度改革の成否は人材育成しだいだ」)。まさしく、優しい人間関係がうまく機能するようにしなくてはならないのです。
堀田力「老いの尊厳を支える仕組みとは何か」は、就労の場や社会貢献活動の機会を高齢者に与えよと力説したうえで、次のように結んでいます。「尊厳の保持と費用の節減をあわせて実現するキーワードとして、地域愛という言葉を提示する」。
高齢化社会は、団塊世代(1947、48、49年の3年間に生れた約800万人)がそろそろ定年退職のときを迎えることにより大きく論じられるようになったのです。しかし、彼らは経済知識や海外体験も豊富で退職金と遺産に恵まれ、今後の日本経済にとって中心的存在になると、伊藤洋一・住信基礎研究所主席研究員「牽引役は団塊の世代」『ボイス』(特集の一環の企画「どこまで続く、景気回復」内)は力説しています。
12月14日、「東アジア共同体」創設など地域協力のあり方を話し合うため、第1回東アジア首脳会議(サミット)がマレーシアのクアラルンプールで開かれました。16ヵ国が参加、日本からは小泉首相が出席し、サミットが「地域の共同体形成に重要な役割を果たしうる」とのクアラルンプール宣言を採択しました。
では、東アジア首脳会議や日本のあり方を、『世界』の特集「『東アジア共同体』―未来への構想」はどのように論じていたのでしょうか。
陳舜臣・作家「歴史から学ぶこと」は、アメリカが参加しないことに危惧を表明しながらも、盟主が目立たないような集会とすべきであり、ヘゲモニーを否定する方向の向うべきと説いています。
姜尚中・東京大学大学院教授「日本の『アジア化』が問われている」は、日米安保の強化に反対です。経済・文化などでの「アジア化」は進展していますが、政治・外交・歴史認識の面では「アジア化」へと向いつつあるとは言いがたい面が多々あります。日本には「アジア化」が求められているとのことです。そのための東アジア首脳会議ということになります。
東アジアに新たな危機の構造があると指摘するのが、藤原帰一・東京大学大学院教授「アジア経済外交の再建を」です。日米両国、中国と韓国・ASEANのつながりが強まり、米中が対立に向う可能性を問題にしています。そのような危険を解消すべく、中国、アメリカ、そしてアジア諸国にも利となるような経済外交を日本は展開すべきだと藤原は提言するのです。
小倉和夫・国際交流基金理事長と品川正治・経済同友会終身幹事の対談「対中、対韓関係改善のために」は、日本は大国であり、大国としての責任は重大であるにもかかわらず、言葉遣いの荒っぽい歪んだナショナリズムが台頭していると心配しています。
日中両国に戦略的決断を求めるのが、朱建栄・東洋学園大学教授「中国はどのような『東アジア共同体』を目指すか」です。日本は日米同盟と東アジア共同体の中心メンバーたることの並立をはかるべき、と朱は主張します。そのうえで、中国には、アジアでの平等に一員となるのか主導権を求めるのか、また日米との関係で新型の協力共存関係を目指すのか、その姿勢の明示を求めています。
『中央公論』では、白石隆・政策研究大学院大学副学長が、東アジア共同体の構築と日米同盟の両立の途を探っています(「東アジア共同体の構築は可能か」)。アセアン諸国がより中心的役割を担うようにしむけ、かつ安全保障以外の分野でもアメリカにより参与を求めることが必要なようです。
日本の対中国政策については、『中央公論』に宮家邦彦・AOI外交政策研究所代表「海洋国家がとるべき大陸戦略」がありました。宮家によれば、東南アジアやインドなどを中心に「対中抑止」を考える時代は終焉しました。中国と中央アジア・中東とは、エネルギー・民族問題などで摩擦を生ずることになるでしょう。中国周辺地域に中央アジア・中東を加えた“拡大アジア大陸”での「力の均衡」を念頭に置いて対中外交を再構成することが求められているとのことです。
現在のところ、対中国、対韓国の外交関係は良好とは言えません。それは小泉首相が外交を軽視しているからだと、細谷雄一・慶應義塾大学講師「小泉首相は外交哲学を語れ」『論座』が論難しています。「郵政民営化問題が国会を席巻したこの数ヵ月間、外交は休息していた」のであり、不運にもその間に数々の外交問題が噴出しました。靖国参拝が絶対的信念ならば、それが外交問題化するのを未然に防ぐ努力をする必要があった、と細谷は言います。中・韓との関係改善のためには、新たな首相の登場を待たなくてはならないのかもしれません。
国民的作家の没後十年をむかえ、養老孟司・解剖学者が「司馬遼太郎さんの予言」を『文藝春秋』に寄せています。日本外交の方途を考え、新年の計をはかるためにも、有用です。味読するよう薦めます。
(文中・敬称略) |