月刊総合雑誌07年05月号拾い読み (07年4月18日・記)
中国の温家宝総理が日本を公式訪問(4月11〜13日)しました。その直前の10日に、月刊総合雑誌5月号は店頭に出揃っていました。そこで、各誌が、対外関係、とくに中国に関連していかに論じていたかを主にみてみましょう。
まず、『諸君!』の特集「米中に奪われる『国富』」が目立ちました。
田代秀敏・日興コーディアル証券国際市場分析部部長×北村豊・住友商事総合研究所中国専任シニアアナリスト「『北京五輪』と『カジノ経済』に誑かされるな」が、"中国を蝕みつつある真の危機を冷静にウオッチ"せよ"との警鐘を鳴らしていました。中国経済は一見好調のようですが、汚職、経済的格差、環境汚染の悪化で、暴動の勃発を含め、内外で不測の事態が生じる可能性があるとのことです。中谷泰治・元大手電気メーカー中国現地法人生産管理部長「中国ビジネスの闇を突く」は、体験に基づき、中国でのビジネスの困難さを詳述しています。中谷によれば、もはや、安い労働力目当てでは大失敗します。
田代秀敏は、『文藝春秋』でも、浅川夏樹・海外投資ジャーナリスト、北村豊(前出)、阿倍純一・霞山会主席研究員たちとともに「中国経済 七つの恐怖」を著しています。その七つとは、@中国発世界同時株安のカラクリ、A日本企業が米中に買収される、B中国株、人民元投資の罠、C労働力はもはや安くない、D「ものづくり大国」中国の嘘、E13億巨大市場のまぼろし、F反日カードは永遠に手放さない、です。田代は、@で浅川とともに、『諸君!』のさいと同様、「中国の、中華人民共和国による、中国共産党のための株式市場」であると、中国経済・株式市場の異質性を鋭くついています。阿倍・北村は、Fで、中国は大戦略をもって軍事力・金融力の強化を図っているとし、さらに国内の社会的不満を抑えるためにも「反日カード」は手放さないと分析しています。
『ボイス』の特集は、「『笑う中国』を信じられるか」です。巻頭は対談(さかもと未明・漫画家×日下公人・評論家)で、タイトルは「温家宝を靖国に連れていこう」と刺激的です。さかもとは、中国のロビイストのアメリカでの活動に漫画で対抗したいと語っています。日下は、安倍総理の「曖昧戦略」を高等戦術として高く評価しています。
『ボイス』でも、山崎養世・シンクタンク山崎養世事務所代表「上海株暴落後のさらなるクラッシュ」が中国の株式市場の異質性、ひいては中国経済の危うさを指摘しています。アメリカのマネジメントと中国の安い労働力・不動産が結び付いた「米中経済同盟」により、米中両国は共存共栄し、アメリカ企業は爆発的に収益を伸ばし、中国は高い経済成長を手にしたのです。それらに暗雲が立ち込めているのです。人民元をあまりに安く設定しすぎていますし、資源と環境問題、中国国内の経済的格差の拡大などが深刻化する一方です。
中嶋嶺雄・国際教養大学学長「『物権法』は社会主義放棄の始まり」は、「私有財産の保護」をうたう「物権法」が3月、中国・全国人民代表大会で可決されたことを問題視します。つまりは党官僚の既得権益を認めることを意味し、中国社会の亀裂は深まります。05年の当局の報告だけで農民暴動は7万数千件の多きを数えたのです。いずれソ連崩壊に似たかたちを辿ると予測しています。
温総理の日本訪問の前に、安倍総理の中国訪問が「熱烈歓迎」されました。その理由は、青木直人・ジャーナリスト「日本の対中援助は減っていない」によれば、決して安倍政権誕生により日中関係が改善されたわけでなく、日本企業の投資の激減で第11次5ヵ年計画(06〜10年)が危うくなり、単に日本からの投資増を期待してのことなのです。
『ボイス』の特集の棹尾は、伊藤貫・国際政治アナリスト×中西輝政・京都大学教授「米国もたぶらかされている」です。中国の軍拡は日米両国にとって危険極まりありません。にもかかわらず、アメリカ国務省には親中国派が多いため、中国の日米分断作戦が進展・成功しています。「中東ボケ」しているアメリカを、日本が覚醒させる必要するがあると危機感を顕わにしています。
譚ロ美・作家「『南京映画』を操るアメリカ華僑」『ボイス』や古森義久・産経新聞ワシントン駐在編集特別委員「『慰安婦決議』ホンダ議員の策謀」『文藝春秋』が、中国系団体、たとえば「世界抗日戦争史実維護連合会」の活動の凄さを詳述しています。日本軍の非道さをうったえる資料を各方面に送付したり、各紙誌に反日論文の掲載要請を頻繁にしているのです。中国系団体の活動により、アメリカ下院での、慰安婦問題に関連して日本に謝罪を求める、いわゆる「慰安婦決議案」の採択への動きが活発化しているとのことです。古森は、安倍総理は個人的見解などを述べるべきでなく、当面は、政府見解か外相か官房長官の声明で「日本政府のこれまでの対応や対策により、解決のための最大限の努力は謝罪も含めて、すでになされている」と応ずべき、と説いています。譚は、「先進国におけるジャパンロビーの育成と強化」が急務だとしています。
中西寛・京都大学教授「慰安婦決議が問う安倍首相の『保守』」『中央公論』によりますと、連合国が作り出した戦後秩序の修正・再編は許されても、否定は許されないのです。慰安婦問題も、連合国の占領の正当性を否定するところから議論を始めると、激しい国際的抵抗を覚悟しなければならなくなります。なお、『中央公論』は、軍による強制連行などの「狭義の強制性」を否定した安倍総理の発言が大問題を惹起したと特集(「日米同盟を脅かす慰安婦発言」)を編んでいます。
特集巻頭で、岡本行夫・外交評論家「首相の『言葉』しかこの窮地は救えない」は、人権問題・歴史問題をめぐる世界の潮流を見落とした発言が問題を大きくした、と慨嘆しています。「強制が一切なかった」と立証できない上、痛ましいことはあったことは事実なのだから河野談話の踏襲以外に選択肢はないとのことです。現在、アメリカでは人身取引の問題に関心が高まっており、日本での人身取引の状況は最低ランクに位置づけられそうになるほど低評価です。拉致問題とも共通する人権・倫理問題にもかかわらずと、アメリカのマスコミは批判しているとのことです。世界は日本よりも中国の主張に耳を傾けるようになってきている、とも岡本は憂慮しています。
05年12月までブッシュ政権の国家安全保障会議・国家安全保障担当大統領特別補佐官兼アジア上級部長を務めていたマイケル・グリーン・米戦略国際問題研究所日本部長・ジョージタウン大学准教授が「同盟を再漂流させないために必要な我慢と戦略性」と題し、日本への助言を寄せています。彼によれば、アメリカでは、メディアを含め、靖国問題とは違い、慰安婦問題では被害者は弱い女性たちだったとの同情が強く、細部にこだわった反論は逆効果となるそうです。安倍総理は、アメリカ議会の動きに過剰に反応すべきでなく、むしろ目指すべき日本の姿を具体的に語るべきということになります。ただし、日本政治の重心はセンターライトにありますが、アメリカのそれはやや左傾化していて、日米間に初めて観念的ギャップが生じ、同盟を微妙に「漂流」させていると危惧しています。
安倍総理ご本人が、『文藝春秋』(「激突インタビュー 安倍晋三vs櫻井よしこ」)で慰安婦問題にも触れ、発言が意図とは違う形で伝えられてしまう現状を嘆き、誤解を解くためには、「しっかりと時間をかけて、また、その方法についても、よくよく考えなければいけない」と、櫻井よしこ・ジャーナリストの質問に応じています。この他、安倍総理は、憲法改正、外交、教育再生等々、安倍政治5ヵ月余の成果を語っています。祖父・岸信介・元総理の戦争責任を国会で認めましたが、「政治家は結果に対して責任を負わなくてはならない」との意味であり、松岡農水大臣の政策論争についての答弁は高く評価しているようです。小泉政治は劇薬を含むが、安倍政治は漢方薬、気づいたころにはかなり効いている、と自己評価しています。
『文藝春秋』には、『日本の論点』編集部「10年後の『人口減少社会』」があります。10年後には65歳以上が3千5百万人に達します。社会・家族の形態が劇的に変化します。個々の準備・身構えが求められます。
(文中・敬称略) (文中の「譚ロ美」の「ロ」は、王偏に路) |