月刊総合雑誌07年06月号拾い読み  (07年5月18日・記)

 統一地方選挙と参院福島、沖縄両選挙区統一補欠選挙が終わりました。東京都知事選では、浅野史郎・前宮城県知事の出馬などもあり、混選と目されていましたが、結果は石原慎太郎の圧勝(三選)でした。
 石原選対の本部長を務めた佐々淳行・初代内閣安全保障室長が2誌で誇らしげに総括しています(「選対本部長は見た! 石原慎太郎『土壇場の大力量』」『諸君!』、「『反石原』勢力の実態は『全共闘』だった」『正論』)。「反省しろよ慎太郎、だけどやっぱり慎太郎」のキャッチコピーのもと、「コンプライアンス」解決の手法をとり、「傲岸不遜」のイメージを払拭したのが主たる勝因だったとのこと。「コンプライアンス」を「組織防衛」と佐々は意訳しています。現在五十代となっている全共闘世代の多くは反石原でした。ただし佐々によれば全共闘世代からは指導者は出ないとのことです。
 夫人の石原典子は「慎太郎さんと私の五十年」『文藝春秋』で、選挙中の家族の苦労を語り、石原が傲岸などと“誤解される”のは説明不足のゆえと推定しています。『世界』の座談会「何が石原三選を招いたのか」(石田英敬・東京大学大学院教授×楠典子・「東京。をプロデュース2007」代表×塚田博康・元東京新聞論説委員)は、反石原の立場から石原圧勝の背景を探っています。反石原側が明確な政策を打ち出せず、メディア戦略も不十分で、候補を統一できなかったからだ、と言えそうです。

 小沢一郎・民主党代表は参院選をにらんで地方議員増を目指しました。ある程度は実現したのですが、北野和希・ジャーナリスト「統一地方選挙―『賢い有権者』の誕生」『世界』は小沢戦略が受け入れられたとは言い難いと分析しています。有権者が求めたものは「魅力的な選択肢」と「一票を投じたことによる効果」であり、従来とは違う「賢い有権者」たる無党派層が増加しているのだそうです。参院選にはその層をターゲットにした対策が肝要となります。
 無党派層は、伊藤惇夫・政治アナリスト「小沢一郎は『化学反応』を起こせるか」『諸君!』によれば、@面白い、A格好いい、B目新しい、の三要素があれば反応するのです。小沢の連合などの組織票を追い求める戦術や国会での対決路線は、民主党のイメージアップにつながっていない、と伊藤は指摘しています。塩田潮・ノンフィクション作家「民主党白書」『論座』も、小沢の「参院選で与党の過半数割れを実現し、政権交代につなげるという政権戦略に黄信号が点った」と見ています。民主党の議員たちにも問題がありそうです。緊張感が欠如している、地道な日常活動も、自民党の議員に比べ、不足している、と武田羊子・ジャーナリスト「民主党はなぜ勝てない?」『世界』は警告しています。

 一方の安倍政権もそれほど支持率に伸びが見られません。
 鈴木賢一・元英国労働党研修生「官邸主導時代の政府広報のあり方」『論座』は、まず、広報担当の首相補佐官のあり方を問題視します。現在、補佐官の部下は1名だけで官僚への指揮・命令権もないので官邸の中においてさえ、政治主導の広報を実践できそうもありません。“問題の広報担当”首相補佐官の世耕弘成が『中央公論』で逢坂巌・東京大学助手のインタビューに応じています。題して、「安倍広報、その危機の内幕」。世耕によれば、官邸内のスタッフの横の連携が悪く、「官邸内の軋轢」となってしまったのです。
「軋轢」は解消の方向にむかっているとのことですが、安倍政権には根源的な問題があると、野中尚人・学習院大学教授「安倍政権の執政中枢は、なぜ機能しないのか」『論座』は断じています。日本の政権は、@遠心性が強く、A行政的ラインを基軸とし、B首相の直接的手足が極めて限定されている、との特徴を有していると野中は分析します。ですから、もともと首相の政治的リーダーシップへの制約は強いのです。その制約の克服のため、小泉純一郎(前首相)は、「変人」としての人気を活用し、行政的ラインとは別の経済財政諮問会議を戦略的に用いたのです。安倍政権には、小泉政権のような戦略性は備わっていない、求心力が弱い、と野中は見ているのです。
 不人気内閣を改造しなければ、安倍首相の命運も危ないと、『文藝春秋』は「安倍総理、これが最強内閣だ」との座談会(御厨貴・東京大学教授×麻木久仁子・タレント×宮崎哲弥・評論家×与良正男・毎日新聞論説委員)を企画しています。党三役は麻生太郎幹事長、中川昭一総務会長(留任)、菅義偉政務会長としているのは納得できます。官房長官に福田康夫、外相に舛添要一なども首肯できます。しかし防衛相に前原誠司・前民主党代表となると、現実性に疑問が生じます。ただ、参院選で、自民も民主も“負け”というような状況に陥りますと、前原防衛相が実現するような政界大再編となる可能性も否定しきれません。なお、小泉の行動パターンは基本的には首相就任前の「一匹狼」スタイルに戻っていますが、興味の先は「政界大再編となった時の身の振り方」だとのことです(上杉隆・ジャーナリスト「小泉純一郎『住所不定・元総理』追跡記」『文藝春秋』)。

 日本は、日米関係をつねに良好に保つよう留意すべきです。現今の大きな課題、あるいは懸案事項としては、米下院に提出されている、いわゆる“慰安婦問題”に関連する決議案があります(安倍訪米があったため、採決は延期)。この決議案の提出者のマイケル・ホンダ・米下院議員が、その趣旨を『論座』(聞き手・徳留絹枝・ジャーナリスト「米下院議員マイケル・ホンダ氏に聞く」)と『世界』(聞き手・西野瑠美子・ルポライター「アメリカ『慰安婦』決議案が目指すもの」)で述べています。「米国では、正式な謝罪というのは議会で採択され大統領が署名したものを指します」(『論座』)と説く彼にしてみれば、「日本の謝罪は正式なものとは言えない」(『論座』)のです。ホンダへの同調者は少なくありません。安倍政権の慎重な対応が望まれます。

 5月1日、外国企業が株式交換で日本企業のM& A(合併・買収)を行うことが解禁となりました。「三角合併」、つまり被買収企業を自らの子会社と合併させて傘下に収める合併方法が可能となったのです。外国企業が自社株を使っての日本企業の買収、外資による日本企業乗っ取りが頻発するかもしれません。株の時価総額が企業の強弱を決定する生存競争時代にはいるのです。世界ではすでに急速かつ大規模なM& Aがなされていますし、なされようとしています。
 田代秀敏・日興コーディアル証券国際市場分析部エコノミスト「日本企業を襲う世界M& Aバブル」『中央公論』は、アジア諸国、とりわけ中国の企業が日本企業にM& Aを仕掛ける可能性が大だと警鐘を鳴らしています。中国国有大企業は日本企業を時価総額で圧倒していますし、中国共産党の世界戦略に適ってさえいれば経済性を無視してでも仕掛けてきそうです。中国式の思考と流儀に対抗できる専門家は日本には稀だ、と田代は危惧しています。

『ボイス』は、「新・買収時代の衝撃」を特集しています。
 巻頭の北尾吉孝・SBIホールディングスCEO「三角合併解禁は日本のチャンス」は、三角合併解禁で「日本企業が買い漁られるという認識は完全に誤り」だと説き、「お互いに十分価値を高め合えることを納得し合ったうえでの買収・合併だけが、結果として起こりうるだろう」と展開しています。「買収をすべて悪と考え、経営者の保全安泰だけを図るやり方」は、経済自体にとっては大きなマイナスになるとのことです。ですから、三角合併には特殊決議が必要とする日本経団連の主張には疑問が残るとのことです。
 ロバート・フェルドマン・モルガン・スタンレー証券マネージングディレクター「企業再編で会社員は幸福になる」も北尾と同スタンスで、かえって「日本経済をさらに力強いものとするチャンスと捉える」べきだと説いています。

『文藝春秋』が、「昭和の陸軍 日本型組織の失敗」を、半藤一利・昭和史研究家・作家、保阪正康・ノンフィクション作家、福田和也・文芸評論家たちの討論で編んでいます。半藤によれば、中枢に“秀才エリート”ばかりを集め、都合のよいような情報を囲い込んで失敗してしまったのです。バブル崩壊時の不良債権問題のさいの銀行・大蔵省も同様だったのです。ですから、保阪の言うように、昭和の陸軍の失敗は他人事ではなく、多くの教訓をくみとることができそうです。「陸軍は日本社会の縮図」(福田の言)なのですから。

(文中・敬称略)

<< 5月号へ