月刊総合雑誌07年11月号拾い読み (07年10月20日・記)
民主党は、今夏の参議院選で「国民生活が第一。」というスローガンが訴求力を持ち、大勝しました。しかし、東京大学・朝日新聞共同調査分析に基づく『論座』の「安倍政権の死角、新政権の課題」(上ノ原秀晃・東京大学特任研究員/大川千寿・東京大学助教/谷口将紀・東京大学准教授)は、民主党は深刻な問題を抱えていると分析しています。「基本的な政策をめぐる有権者との立場の乖離」があるというのです。防衛・教育などでは、民主党への投票者は自民党に近い立場にあります。民主党は、早期解散に追い込むなどと息巻いていますが、順風満帆とは言えません。有権者との距離を縮める、あるいは有権者を説得する努力が欠如すると、今回の参議院の勝利を無にすることになる可能性大なのです。
一方、岩見隆夫・政治評論家「自民漂流か、大連立の始まりか」『中央公論』によれば、「派閥連合体と言われたころの『強い自民党』の面影はもはやない」のです。岩見は、現状を自民・民主両党ともに党内に「水と油」の対立を抱えている「擬似二大政党制」と捉え、このままでは大テーマの処理能力はなく、いずれ本格的な再編(政党の組替え)は避けて通れない、と説いています。
小沢一郎・民主党代表は「今こそ国際安全保障政策の原則確立を」『世界』で、テロ対策特措法延長反対の論拠を提示しています。小沢によれば、アメリカは国際社会の調和を乱しているのですし、また、アメリカであれどの国であれ、その国の行動に日本は軍を派遣して協力してはならないのです。ただし、国連の枠組みでの平和活動になら参加してよいのだと展開しています。
以上のような小沢の言に対しては、内外から猛反発が寄せられています(ケント・E・カルダー・米ジョンズ・ホプキンス大学ライシャワー東アジア研究所所長「テロ特措法の挫折が日本にもたらすダメージ」『中央公論』や岡崎久彦・NPO法人岡崎研究所所長「小沢外交は失格だ」『ボイス』など)。
小泉政権時に北朝鮮との交渉にあたった田中均・日本国際交流センター・シニア・フェローは、田原総一朗・ジャーナリストと『中央公論』で対談(「日本は国際的な信用失墜の瀬戸際にある」)し、外交の立直しの必要性を力説しています。田中によれば、もとより小沢の立論は現実的ではありません。硬直した安倍外交から柔軟かつ能動的なアジア外交を展開するようになると、福田への期待は大です。
中曽根康弘・元首相が、二誌(「福田総理よ、かく闘え」『ボイス』、「小沢一郎の真贋はこれからの半年で見極める」『中央公論』)に登場し、テロ特措法の重要性と長期的な国家戦略の必要性を繰り返し説き、参議院での自民党少数の現状は最低六年間は続くのだから、早めに大連立に移行し、国家の難局に対処すべきと提言しています。彼は、解散・総選挙は、予算成立後の来年四月ごろと予見しています。
なお、先の参議院選挙時には「政治とカネ」にも焦点があてられました。鈴木宗男・新党大地代表・衆議院議員「政治とカネのすべてを話します」『中央公論』は、「(自らの)政治資金については、ホームページですべて公開している」とし、すべての政治団体、資金管理団体にも同様の透明性を求めています。なおかつ、選挙違反の際の連座制を政治資金規正法へも導入すべきと主張しています。民主党政策担当秘書の経歴を有する木村英哉・次世代総合研究所代表の「“政治とカネ”はこちらも大問題」『ボイス』は、民主党の議員にもカネの問題あり、としています。木村は政治資金収支報告のグレーゾーンを無くすよう法改正を行うとともに、鈴木と同じくホームページでの公開をと提案しています。
先の田中均は、強い姿勢一辺倒の安倍外交で膠着状態に陥っていた対北朝鮮政策は、アメリカとともに「対決」から「交渉」へと転換すべき時期だとも指摘しています。なお、アメリカを対北朝鮮との交渉のテーブルに着かせたのは小泉外交だったのであり、ようやくアメリカが交渉に入るや、安倍のもと、日本が強硬策に終始してしまったので、日本とアメリカとの間で齟齬が生じてしまったとのことです。
朝鮮問題を専門とする伊豆見元・静岡県立大学教授(「米朝和平体制に日本は取り残される」『中央公論』)も、田中と問題意識は同一のようで、「拉致」にこだわり続ける間に、日本が取り残されるのではと危惧しています。拉致問題に進展がない限り、なんら「取引」しないというのではなく、「核問題と拉致問題の『包括的解決』を目指す観点から、むしろ積極的に『六ヵ国協議』の合意に基づくコスト分担に応じる」との姿勢に転ずべきと伊豆見は論じ、その延長線であれば、「日本が北朝鮮問題の解決のためにリーダーシップを発揮することは、まだ十分可能だと思われる」と結んでいます。
麻生太郎・前自民党幹事長は、自民党総裁選で福田に敗れましたが、元気一杯に、今後も挑戦し続けると宣言しています(「俺が新しい自民党を作る」『文藝春秋』)。安倍の内閣改造時に麻生が裏切ったなどの「麻生クーデター」説は根拠のないデマと一蹴するとともに、歴史観・外交政策で福田とは党内で対極の位置にあると自己分析しています。「良質な中道・保守層の政治への再生という時代の要請」があり、それに応えるのが自らの責務だと意気軒昂です。
参議院選での自民党敗因の一つとされている格差問題については、神野直彦・東京大学大学院教授「経済を民主主義の制御のもとへ」『世界』が目につきました。グローバリゼーションに伴い、「地域間の所得間格差の拡大とともに、地域内の所得間格差が同時進行」しているとのことです。
また、格差どころか、職場における「歪み」を問題にする論考(阿部真大・学習院大学講師「日本の職場を蝕む二つの『分割統治』」『中央公論』)がありました。同じ仕事をしながら、「現在の日本の職場は、『一般職/総合職』と『派遣社員/正社員』というふたつの分割統治が同時になされてしまっているところに最大の問題がある」というのです。このままでは、働く者の意気は阻喪し、ひいては企業の活性化がはかれなくなり、経営者にとっても望ましくない事態に陥ると、阿倍は警鐘を鳴らしています。
アメリカ経済にサブプライムローンの焦げ付き、貸し倒れなどで陰りがみられる今こそ、日本経済の改善点を明らかにした上で、日本は世界に誇れる新たな産業を興すべきだと、原丈人・デフタ・パートナーズ・グループ会長は提案しています(「日本興国論―米国型経営を超えて」『文藝春秋』)。まず、アメリカ的な「企業は株主のもの」の考え方から脱し、経営陣へのストックオプション付与を廃止すべきだそうです。また、市場や企業活動を攪乱するようなヘッジファンドは規制すべきとなります。そのうえで、「使っていることを感じさせず(パーベイシブ)、どこにでも偏在し(ユビキタス)利用できるコミュニケーション機能」、つまりPUCの充実・社会への普及を日本は取り組むべきなのです。そのためにも、世界各地から技術者・科学者を誘致すべきです。さらに、先進国中、もっとも税率の低い国にするべき、となります。
青沼陽一郎・ジャーナリストが先月の『文藝春秋』(「中国『毒食大陸』を往く」)に引き続き、今月は『諸君!』で、日本が食糧を中国に依存しきっている実情をリポートしています(「中国産“毒菜”がいやなら、もう日本人は飢えて死ぬしかない」)。日本を、「国民の安全どころか胃袋すら諸外国に頼りきりの、とんでもない国家」と青沼は表現しています。タイトルにあるように、中国の食材の危険性を叫んでばかりはいられないのです。
読書の秋――。『中央公論』が読者参加特集として「私の人生を変えた『世界の名著』」を編んでいます。塩川正十郎・元財務相はドストエフスキー『罪と罰』、藤原作弥・元日銀副総裁は吉田満『戦艦大和ノ最期』、江川紹子・ジャーナリストは千葉敦子『「死への準備」日記』をあげています。また、『論座』も「秋の夜長のいっき読み」と題して、中野翠・コラムニストほか9名に“読みふけった”書籍を推薦させています。中野のそれは、山崎豊子『女系家族』、三遊亭円朝『円朝 怪談集』に鈴木大拙『禅と日本文化』です。即座に少なくとも3冊はあげられるよう読書に努めたいものです。
(文中・敬称略) |