月刊総合雑誌08年1月号拾い読み (07年12月20日・記)

『ボイス』が「創刊30周年記念特大号」として編んだ特集が「民主党衰退論」です。その巻頭は、テレビで大活躍の田原総一朗・ジャーナリストによる「民主党は政権を取れない」です。今回の大連立騒動で、代表に「閉じ込められた」小沢は今後、大胆な手を打てなくなり、民主党の政権獲得は遠のいたとのことです。
 田原は、『潮』にも「小沢一郎の誤算」を寄稿していて、それには「小沢氏は山田洋行事件と何らかの関わりがあり、米国はその情報を握っているのだ。こうした理由により、小沢氏は連立に踏み切ったと思われる」とあります。  歳川隆雄・「インサイドライン」編集長「大連立工作の舞台裏」『世界』は、「アメリカ・ファクターと山田洋行ファクターとがコインの表裏状態になっている」と推測し、そうでなければ、「小沢が事前に側近の誰にも相談せず党首会談に応じたか、合理的説明がつかない」とのことです。

『諸君!』の巻頭論文は、中西輝政・京都大学教授による「“最後の将軍”福田康夫の哀しき『公武合体』工作」です。題名からも想定できるように、自民党、福田首相に厳しい筆致です。自民党を「大政奉還まぎわの徳川幕府のような『死に体』政党であるにすぎない」とし、「保守新党」の出現を期待しています。

 しかし、やはり民主党はかなり混乱しているようです。その様相を前党代表であり、現党副代表の前原誠司・衆議院議員が『中央公論』で語っています(「民主党は生き残れるか」)。前原は、小沢の「国連中心主義」にも異議を表明しています。
『中央公論』には、岩見隆夫・政治評論家「小沢一郎、挫折の軌跡」と御厨貴・東京大学教授「解散総選挙こそ、打開への道だ」もあります。(小沢が)副総理で入閣し、政権乗っ取りに近い状況を演出してみせ、解散の直前になるや、自民・公明と対決し、政策実現をもとに多数派を形成し、政権を奪取する、これが小沢の意図だった、と岩見は想定しています。御厨は、衆議院で自公与党が、参議院で民主党など野党が過半数を持っている「ねじれ」で、法案の成立が困難となっている状況を分析し、それを打開するには、結局は、早期の解散総選挙だと説いています。
「自民党を『飛び出した』男と『ぶっ壊した』男の大きな違い」との惹句を付した論考がありました(小池百合子・衆議院議員・自民党「小沢一郎と小泉純一郎を斬る」『文藝春秋』)。小沢の政治行動の基準は、わずか二枚のカードに集約できるそうです。「政局カード」と「理念カード」です。「理念カード」とは、「安全保障を中心とした政権構想」とのことです。二枚を駆使し、片方のカードが手詰まりとなると、もう片方のカードを切る、この繰り返しなのです。大連立に踏み切ろうとしたのは、「理念カード」で一致をみたので、「政局カード」を引っ込めたということなのです。ただ、小沢の間違いは、「機能体」である政党を「運命共同体」である派閥と勘違いしたことにある、と論難しています。小池は、政界再編を予測し、小沢は小泉とともにキーマン的役割を果たすと予見していますが、「小泉カムバック・コール」が巻き起こるのを期待しています。

 櫻井よしこ・ジャーナリスト「渡辺恒雄氏と自民党の最後」『文藝春秋』は、大連立構想に関与したとされる読売新聞グループ本社代表取締役会長・主筆の責任を問うています。いや、「読売一千万部を自らの価値観の普及、実現のために事実上“私物化”しているのではないかと思わせる」と糾弾しています。さらに、読売新聞に、主筆の関与についての報道と検証を求めています。
 なお、先の歳川も「報道機関の経営者が、国の行く末を決める重要な政策について、自らが目指す方向を実現するために、時の政権や野党に対して影響力を行使することは許されないことである」と記しています。 『現代』の柴山哲也・現代メディア・フォーラム代表「主筆が政界工作をする読売新聞の病理」は、「渡辺氏の行為は日本のジャーナリズムの信頼性を傷つけたのだ」とし、「渡辺氏は自らの口で大連立に関わった行動の軌跡を明らかにし、読売社内や周辺の人にだけ通用するジャーナリズム論ではなく、より普遍的なジャーナリズム論を1000万読者と国民に語る義務があるのではないか」と結んでいます。

「金融機関のモラルはM&A(企業の買収や統合)バブルとカネ余りで崩壊した。いまそこにあるのは危機だ」との問題意識のもと、竹森俊平・慶應義塾大学教授と神谷秀樹・ロバーツ・ミタニ創業者兼マネージング・ディレクターが『諸君!』で対談しています(「グローバル無責任経済とサブプライム恐慌」)。竹森によれば、アメリカでは、サブプライム問題が大きくなって、ついにバブルが弾けそうなっています。サブプライム・ローンとは低所得層を相手にした住宅ローンで、住宅価格の低下とともに、焦げ付きが急増しているのです。ただし竹森が『文藝春秋』に寄せた「2008サブプライムの悪夢」によれば、日本における最大の「不確実性」はサブプライムではありません。それは「官庁をはじめとする組織の不透明性にあり」、「それが統治機能を弱めている」のです。
「総力特集」と銘打った『文藝春秋』の「暴走官僚」で暴かれている“エリートとして日本を牽引してきた官僚たちの腐敗と無責任”にはすさまじいものがあります。若林亜紀は「税金ムダ遣いの実態」及び「公務員の仰天手当」で、予算消化のための官僚たちの旅行三昧振りや「独身手当」、「出世困難手当」などトンデモない手当が支払われている実態を詳述しています。あらためて当然のこととして、財政再建・年金充実のためには、増税の前に官僚によるムダ遣いをやめさせるべきなのです。
 官僚によるムダ遣いをやめさせること(人件費の削減など)が十二分でないにもかかわらず、自民党財政改革研究会の報告など、消費税引き上げをとの声が聞こえてきています。
 それに対して、大幅増税ありきの立論そのものに問題があると、竹中平蔵・慶應義塾大学教授「不健全に煽られる増税論議」『ボイス』が反論しています。改革路線を継続・強化し、それによって経済を成長させ、税収増によって増税をさけるべきと説いています。竹中が大臣のおり、竹中とともに構造改革に関わった高橋洋一・内閣参事官も『文藝春秋』の「大増税キャンペーンに騙されるな」で、財務省の試算方法にトリックがありとし、財務省の増税必至論の根拠を根定から否定します。特別会計という「余り金」まであるとのことです。

『ミシュランガイド東京版』が初発刊、たちどころにベストセラーに。テレビを始めとするマスコミの報道振りは大騒動といった様相でした。しかし、同書は「店紹介本」あるいは「ヨイショ本」にすぎないとの厳しい批評がありました(友里征耶・覆面料理評論家「驕るな、ミシュラン」『文藝春秋』)。東京の星付きレストラン150店は、パリ64、ロンドン43、ニューヨーク39をはるかに超えています。この150は一冊の本として体裁を整えるため、「はじめから150店ありき」ではなかったのではと友里は疑義を呈しています。覆面調査の実態にも疑問符を付しています。さらに、メニュー無し、明細書無し、カード使用不可の店が掲載されていますが、これでは外国からの旅行者にとっては不親切極まりない、トラブルの因になると問題視しています。友里は、自らが選んだ三つ星店を最後に紹介しています(ミシュラン本との重複は一店のみ)。余裕があったら、どちらが正しいのか食べ歩きを試みたいものです。

『中央公論』には、「うつ病氾濫?!」との通しタイトルで二人の精神科医による2篇の論考があります(斎藤環「サイコ・バブルが日本を覆う」、林公一「それはうつ病ではありません」)。六割を超える企業でうつ病などの「心の病」を抱える社員が増加傾向にあり、とりわけ三十代が突出しています。林によれば、氾濫するうつ病情報に自然感染した“擬態うつ病”、つまり“ニセうつ病”までもが増加しているとのことです。
 新年です、気を取り直したいものです。世界一の自動車メーカーになろうとしているトヨタに関する特別企画(片山修・経済ジャーナリスト「『トヨタ』世界制覇へのグローバル戦略」『潮』)や、『中央公論』の「特集 歴史・時代小説の愉しみ」が有用・有益かもしれません。
 

(文中・敬称略)

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