月刊総合雑誌08年02月号拾い読み (08年01月20日・記)

 安倍晋三・前内閣総理大臣が、『文藝春秋』に「わが告白 総理辞任の真相」を寄せています。実は持病を抱えていたのです。「潰瘍性大腸炎」という厚生労働省が特定疾患に指定している難病で、いまだ原因は解明されていません。官房副長官時に発症したのを最後に再発がなかったので、総裁・総理に立候補したのです。しかし、昨年の参院選後の外遊を契機に病状が一気に悪化してしまいました。ただし、病気を理由に職を辞すのは「潔いことではない」との価値観から、辞任にあたっては体調には言及しなかったとのことです。

 昨夏の参院選により、衆院の多数は自公などの与党、参院は民主などの野党という“衆参ねじれ現象”が生じています。それに伴い、政治に混乱が見られます。
『論座』の特集のタイトルどおり、「機能マヒ国会」の様相を呈しています。『論座』編集部による「霞が関の憂鬱」によれば、法案作成にかかわっている衆参両院の法制局や霞が関の官僚たちの労力や国会運営の時間がムダになっています。「国会議員たちのパフォーマンスともとられかねないつばぜり合いが、途方もないムダ」を生じさせているのです。年金記録問題も、議員の資料請求に労力を取られては、業務に支障を来しかねません。政治・行政は手詰まりになる一方で、「かくして、霞が関の官僚たちの顔は、ますます憂鬱になる」のです。
 上の特集内の阿部泰久・日本経団連経済第二本部長「税制が『政局』の具になるとき」は、「議会制度は税制の決定権をめぐる国民の戦いの所産である」としながらも、道路特定財源問題に限らず、税制全体が政治に翻弄されている状況に警鐘を鳴らしています。まずは「もし日本だけ、海外法人や外国人が日本の金融機関から受け取る配当等に課税することになれば、そのとき瞬時に、日本の国際金融市場は崩壊する」からです。税制を真摯に包括的に論議すべきときなのです。
 国平修身・政治ジャーナリスト「福田『漂流政権』冬景色」『現代』は、解散はもとより内閣改造もできず、福田政権は漂流する可能性大としています。この政治の非能率を解消すべく、一度は断念された大連立が再燃するのでしょうか。しかも、その大連立は、政界再編シミュレーションとして、水木楊・作家「小泉純一郎“大連立”総理の誕生」『文藝春秋』が描くような、自民・民主の枠を超えた新党結成にまで向かうのでしょうか。

 アメリカに端を発するサブプライム住宅ローン問題の日本への波及を危惧し、さらに同種の問題を日本も抱えていると指摘し、ゆうちょ銀行が乗り出そうとしている住宅ローンを疑問視しているのが、荻原博子・経済ジャーナリスト「日本版サブプライム破綻の日」『文藝春秋』です。水野和夫・三菱UFJ証券チーフエコノミスト「グローバル資本主義の暴走と民主主義の終焉」『中央公論』は、「八〇年以降の日本と九七年以降の米国は債務の増加の度合いにおいて全く同じ」であり、「米国もまた『失われた10年』となる可能性が高い」とし、サブプライム問題の世界経済史への位置付けを試みています。資本主義のグローバル化の進展とともに、中産階級が没落し、均質な国民社会を基盤とした近代民主主義が危機に陥ると予見しています。
 つい最近まで財務次官などとして米政権内で経済・金融政策に携わってきたジョン・テイラー・スタンフォード大学教授「リセッションの可能性は50%以下だ」『中央公論』は、題名にもあるように、リセッション(景気後退)の確率は小さいとし、米経済は今後も堅調だと説いています。
 同じく『中央公論』で、「ここは日本にとっての踏ん張りどころだ」と力説するのが、田中直毅・国際公共政策研究センター理事長「危機後の世界で覇権を握るのは誰か」です。田中によれば、日本は、環境保全・省エネに努め、つまりは低炭素社会構築を目指すべきなのです。「日本の生産技術の持つ意味を低炭素社会の構築という目標に合わせて再構築することがひとつの手掛かり」なのです。

 村田晃嗣・同志社大学教授「福田外交、嵐のなかの二〇〇八年を見通す」『諸君!』は、内政上の混乱から外交が停滞することを危惧しています。
 小泉総理訪朝に貢献した元外務審議官の田中均・日本国際交流センター・シニア・フェローが、対北朝鮮強硬派の論客たる中川昭一・衆議院議員・自民党と田原総一朗・ジャーナリストの司会のもと討論しています(「もはや北朝鮮と交渉すべき時だ」『中央公論』)。結局は、北朝鮮に対しては、「圧力と交渉」のセットで立ち向かわなくてはならないようです。
 対北朝鮮外交に止まらず、小泉・安倍政権以降の近隣外交不在を慨嘆し、ミドルパワーとしての地域秩序形成を提唱するのが、添谷芳秀・慶應義塾大学教授「日本外交を構想する」『論座』です。日本は、ハードパワー以外の手段を駆使し、米中露の三大国の挟間に位置する東南アジア諸国連合(ASEAN)、オーストラリア、韓国などと連携し、強固な秩序のインフラを構築すべきなのです。現在の「個別に存在している二国間関係を多国間のネットワークに織り上げる」必要があり、そうすることによって初めて日本外交は自立戦略の基盤を確立できるのです。
 隣国・中国との関係については、馮昭奎・愛知大学客員教授×岡部達味・東京都立大学名誉教授「日中は『戦略的互恵』関係を目指せ」『中央公論』に示唆深いものがありました。相互に不信感を有したままでは、関係修復は困難です。馮が強調するように、「和すればともに利益があり」の道に互いに常に戻るように努めるべきでしょう。
 直接的な外交ではありませんが、日本はその自然観をも発信すべきだとするのが、安藤忠雄・建築家×竹村真一・京都造形大学教授「なぜ東京でオリンピックか」『ボイス』です。二十一世紀の日本の文化力として「からだの知性を育てる文化」を提示すべき、と竹村は言います。世界に誇るべきは「自然環境のなかで育まれた好奇心と文化力」を源とする長寿であり、その裏側にある哲学(自然観)を広げれば、日本の世界での存在感はこれまでと違ったかたちで強くなっていく、と安藤が応じています。

 一方、国技たる大相撲に朝青龍問題などで波乱がありました。
『現代』の武田頼政・ノンフィクションライター「怪物・朝青龍と北の湖の大罪」は、週刊誌報道による八百長事件やリンチ殺人事件を詳述し、それらの原因を相撲界の古い体質・土壌にあると糾弾しています。
『論座』は、「大相撲のあきれた品格」として真正面から特集を編んでいます。特集の巻頭は、やくみつる・日本相撲協会「再発防止検討委員会」外部委員・漫画家×中沢潔・相撲ジャーナリスト「角界“浄化”対談」です。やくは、角界の自浄作用に期待しています。中澤は、そのためにもと、北の湖理事長にその座を降りることを勧めます。
「元横綱 大鵬インタビュー」は、優勝32回を数える第48代横綱・大鵬(納谷幸喜・相撲博物館館長)の体験に基づく後輩へのアドバイスです。「朝青龍が相撲という日本の国技を履き違えてしまった感じがしている。つまり勝てばいい、強ければいいと考えているのが最大の問題」であり、「もともと品格は、相撲道で多く使われた言葉。力士である前に、人としての『格』が求められる」のです。
 特集は、野村昌二・ノンフィクションライター「新弟子が集まらない!」、岡田晃房・ジャーナリスト「辛いのは日本人も外国人もいっしょ」、山崎元・経済評論家「相撲協会は『八百長問題』から逃げるな」、江川紹子・ジャーナリスト「ジャーナリストは“業界人”になるな」など盛り沢山で、問題の全体像把握に簡便です。

 年頭の景気づけのためなのでしょうか、『ボイス』の特集は「驚異的に成長する日本経済」でした。その巻頭の大前研一・ビジネス・ブレークスルー代表取締役「個人資産倍増プラン」は、個人金融資産1500兆円の活用、積極的な資産運用を提唱しています。藤巻健史・フジマキ・ジャパン社長「『値上げ』繁栄論」は、資産インフレ・物価高を導き経済を好転させるべきと説いています。竹中平蔵・慶應義塾大学教授は、ロバート・フェルドマン・モルガン・スタンレー証券マネージングディレクターとの対談(「増税路線は『自爆テロ』だ!」)で、増税よりも経済成長を、と持論を繰り返していました。
 

(文中・敬称略)

<< 2008年1月号へ