月刊総合雑誌08年03月号拾い読み (08年02月20日・記)

 中国製餃子による中毒事件もありましたし、この8月には北京オリンピックが控えておりますので、まずは、3月号の中国関連の記事をみてみましょう。

 おりよく『ボイス』が「北京オリンピック後混迷する中国」を特集していました。その巻頭は、ビル・エモット・英『エコノミスト』前編集長「バブル崩壊の大きな危険性」です。日本の1960年代後半と現在の中国は、高度成長と多額の投資、公害といった多くの類似点を有している、と指摘しています。中国は、いまや70年代の日本が成し遂げた変革(通貨切上げ、省エネなどによる公害克服)を真似しなくてはならない、とも説いています。しかし、日本には社会を安定させる民主政治がありましたが、中国にはそれがありません。今後、中国では、インフレが昂進しますと、環境問題も絡み、不穏状態に陥る可能性もあるとエモットは危惧しています。
 門倉貴史・BRICs経済研究所代表「貧しき超高齢社会」は、2010年には上海万博があるので、それまでは高度成長を謳歌する可能性が高いとしています。しかし、1979年以来の「一人っ子政策」の結果として、2025年から2035年ごろには、高齢化が深刻な社会問題として浮上すると予測しています。
「中国人観戦マナーの改善は、中国当局、五輪関係者の最大テーマの一つとなっている」と三河さつき・ジャーナリスト「五輪精神は根付かない」は紹介しています。韓国では1988年のソウル五輪が民主化の契機となりました。しかし、中国では、民主や自由の状況は悪化している、とのことです。このままでは、「最低の五輪との非難の声が国際世論を席捲するだろう」とまで三河は言います。
 昨年末の福田総理の訪中を必要だったのかと疑問視するのが、中川昭一・衆議院議員・自民党「東シナ海ガス田が奪われる日」です。友好第一ではなく、「ドンと机を叩く姿勢こそが大事」なのだそうです。ただ、中川によれば、ガス田に関しては、これまでの日本政府の不作為にも責任がありそうです。

 株価と不動産価格はすでに調整局面に入り、インフレが進行し、引き締め政策もかなり厳しくなっていると、関志雄・野村資本市場研究所シニアフェロー「中国バブルの崩壊は始まったのか」『中央公論』は分析しています。実際に中国でバブル崩壊が起きても、日本の「失われた10年」ほどではなく、「いったん景気が後退しても、二、三年たてば再び上昇軌道に乗る」とみるべきで回復能力はまだ高いそうです。
 中国では、「地方が分権化に伴って掌握した権力を濫用し、中央の言うことを聞かない」ようになり、地方の役人はその地方の民の生殺与奪の権限を握るに等しい、と腐敗の酷さを詳述しているのが、北村豊・住友商事総合研究所中国専任シニアアナリスト「北京オリンピック後、中国社会の焦点は何か」『中央公論』です。「胡錦濤政権にとって、中央集権を確立し、地方分権による弊害や矛盾を抑制することだけが、安定化をもたらす方策」だそうです。
 かつての「日本株式会社論」にヒントを得て、共産党指導下の中国を政治と経済が一体化した「中国株式会社」として、その方向性を予測しようとするのが、宮家邦彦・AOI外交政策研究所代表「『中国株式会社』の研究」『中央公論』です。この「中国株式会社」モデルが成功すれば、「民主主義を導入することなく、経済成長の果実を享受するだけの『香港方式』が定着する」でしょうが、逆に失敗すれば、「『混乱か、分裂か』という究極の決断を迫られることになるかもしれない」のです。

『文藝春秋』には、加藤隆則・読売新聞上海支局長「中国『南京虐殺記念館』真の狙い」がありました。昨年12月、南京事件70周年を機に、中国・南京市の「南京大虐殺記念館」が大幅拡張され、再開館されました。犠牲者「三十万人」の数にこだわり、同館を世界遺産として申請しようとする動きすらあります。
 南京攻略戦のさい、「百人斬り競争」をしたとの新聞記事のため公開銃殺刑に処せられた向井少尉の遺児・向井千恵子は「わが父の『百人斬り』の汚名はいつ雪げるのでしょうか」を『正論』に寄せています。
 加藤によると、「参観した中国人に日本人への反感、恨みを抱かせる懸念がある」と隅丸優次・上海総領事は展示内容の見直しを申し入れましたが、まだまだ反日感情が再生産される可能性は大です。

 日本人の反中国感情にも根強いものがあるからでしょうか、先の中川は福田訪中に疑問を呈していましたが、『正論』や『諸君!』にも同様の筆致の論考がありました。
 石平・評論家は、『正論』での葛西敬之・JR東海会長との対談「宥和的メッセージが中国を誤解させる」では、日本が少しでも主張すると「軍艦を出すぞ」と恫喝するようになり、独裁政権の常で国民の目を外へそらすために覇権主義の傾向を強めると中国を難じています。さらに、「胡錦濤の『寵』を競い合った与野党首脳訪中劇の愚」で、昨年末の福田訪中とそれに先立つ小沢一郎民主党代表の同党国会議員44名を率いての訪中は「日中友好ムード」の盛り上げを確実にしましたが、すべて中国側に有利に展開していると懸念しています。石によれば、今春と目されている胡主席来日の前に、東シナ海ガス田開発問題で、日本の国益に適った形での合意がなるかどうかが、今後、注目すべき最大の焦点です。
『諸君!』の上村幸治・獨協大学教授「福田・小沢の『叩頭合戦』が中国を利する」は、「安倍・福田両首相の訪中は、いずれ一定の評価を与えられるだろうが、小沢訪中は失敗例として名を残す可能性が高い」と小沢一郎に対してとくに厳しいものがあります。『正論』にも、編集部による「“厚遇”に舞い上がって国を忘れた小沢一郎」があります。また、佐瀬昌盛・防衛大学校名誉教授「やはり小沢一郎に国の守りは任せられない」『諸君!』は、小沢の対中国外交を難ずるに止まらず、小沢を「国連ファンダメンタリスト」と断じ、彼の国際政治観そのものを論難しています。
 阿川尚之・慶應義塾大学教授「自衛隊イラク派遣の『貯金』はすぐに底をつく」『諸君!』は、インド洋への海自艦艇派遣に反対する小沢の言説を日米防衛協力否定とみなしています。大連立が、もし福田総理が小沢の主張を受け入れることを意味するのであれば、アメリカに対しては日本からのネガティブなシグナルになりかねないと阿川は憂慮します。しかし、阿川によれば、まだまだ日米関係は良好です。「日中友好は大事だけれども、日米はともに中国の万が一に備えねばならない」状況にあるのです。

「日米関係を一層緊密なものとするとともに、日中の信頼関係を築くことこそがアジアの安定の鍵だ」と、北岡伸一・東京大学大学院教授「歴史共同研究がひらく“日中新時代”」『潮』は、自らが日本側座長を務めている日中歴史共同研究委員会の討議内容を紹介した上で、説きます。日中の歴史家間で、歴史について、相違点を議論し、相手の言い分が正しければ論文を書き直し、それでも合意できなければ、相違についての議論の要旨を付け加えるような形式で、6月には報告書を出すそうです。ドイツは反省しているが日本は反省していないとの批判がありますが、北岡は、「ドイツが謝罪しているのはホロコーストについてであって、戦争に対しては、むしろ日本のほうがきちんとしています。私はそういうことも中国側にわかってもらいたいと思っています」と結んでいます。

『中央公論』は「厚生労働省という犯罪」と銘打った特集を編んでいます。年金・医療制度が崩壊傾向にありますので、多くが特集のタイトルに賛同するでしょう。多くが、官庁、官僚には不信感を覚えていることでしょうから。堺屋太一・作家「官僚の共同体化が国を滅ぼす」は、官僚が「国民の幸せ」のためでなく、「官僚仲間の幸せのために働く」ようになっていると糾弾しています。堺屋はさらに、『文藝春秋』に「これがゾンビ官僚の退治法だ」を寄せ、「公務員制度の総合的な改革に関する懇談会」の最終答申案を詳述しています。「内閣人事庁を新設し、官僚人事を一元管理」する必要がありそうです。また、国会議員と一般公務員の接触ルールを確立することも検討すべきでしょう。

 今月の『文藝春秋』には、「第138回芥川賞発表」があり、受賞作の川上未映子「乳と卵」が掲載されています。
 

(文中・敬称略)

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