月刊総合雑誌08年12月号拾い読み (08年11月20日・記)

 アメリカでのサブプライム・ローン破綻を端に金融危機が地球的規模で広まりました。そこで、『世界』は、「崖っぷちに立つ世界 処方箋はあるか?」を特集し、巻頭で伊東光晴・京都大学名誉教授「世界金融危機から同時不況へ」により、まずサブプライム・ローンそのものの軌跡を追っています。続いて、宮崎勇・元経済企画庁長官「必要なのは内需拡大とセーフティネット」が、日本のとるべき行動は「国際協調と内需拡大とセーフティネットの整備」だと説いています。宮崎は、経済行動に「責任と節度」を求め、途上国や社会保障を支援しているジョージ・ソロス(ソロス・ファンド・マネジメント会長)を評価します。 そのソロスは、カリスマ投資家として多くの伝説を有しますが、『現代』でインタビューに応じています(「G・ソロス「アメリカの時代は終わった」)。
 市場原理主義をアメリカ政府や金融機関関係者が信じていたことが今回の危機の一因だそうです。アメリカ経済が加速度的に衰退する可能性があります。今後、魅力的な国はインドと予見しています。  大不況の悪夢を振り払うのは円の国際化だとし、好機を逃すべきでないと熱いのが、田村秀男・産経新聞特別記者・編集委員「不死鳥・日本経済が翼を広げるとき」『諸君!』です。円建て米国債を東京市場に引き入れるなど、金融機関の国際展開の強化が急がれます。

   「金融危機を突破する法」と題する『ボイス』の特集も日本は好機を生かすべきだと説いています。松本大・マネックス証券社長×伊藤元重・NIRA理事長・東京大学教授「海外進出・絶好のチャンス」、三國陽夫・三國事務所代表取締役「アメリカ国債を処分せよ」、ピーター・タスカ・ドレスナー・クラインオート証券コンサルタント ストラジスト「円高繁栄論」、澤上篤人・さわかみ投信代表取締役「日本企業の将来性は買いだ」、リシャール・コラス・欧州ビジネス協会会長・シャネル株式会社代表取締役社長「日欧経済統合に勝機あり」と、筆者名とその論稿のタイトルを並べるだけで、元気になってきそうです。
 もっとも、『ボイス』は、別途、「〈楽観VS悲観〉どうなる世界経済」を緊急企画として編み、アメリカ経済、金融資本主義、中国の成長力の三つのテーマを立て、それぞれ楽観・悲観の両論を併載しています。たとえば、中国の成長力については、胡鞍鋼・清華大学教授「9%成長は10年続く」と山本一郎・イレギュラーズアンドパートナーズ代表「大都市発の不良債権地獄」です。胡は、中国が国内消費需要の拡大において巨大な空間を有している強みを強調しています。一方、山本は、金融危機が生じる前から、中国では不動産・株式の急落が生じていると指摘し、中国経済の前途を危ぶんでいます。

   『文藝春秋』は、「未曾有の経済危機の核心を七人のエキスパートがえぐる」として「世界同時不況 日本は甦えるか」との座談会を掲載しています。七人とは、高橋洋一・東洋大学教授・元内閣参事官、榊原英資・早稲田大学教授・元財務官、竹森俊平・慶應大学教授、渡辺喜美・衆議院議員・元金融相、水野和夫・三菱UFJ証券チーフエコノミスト、田村秀男・産経新聞編集委員に、司会役の宮崎哲弥・評論家です。現在の円高・株安に対し、日銀・政府は円の供給量を増やすべきだとする高橋や竹森らに対し、榊原、水野が反対します。榊原によれば産業政策の充実により内需拡大を急ぐべきなのです。七人で合意するのは、“日本のような製造業による輸出依存でも、アメリカのように金融業だけでも”ダメだという点です。両方のバランスが必要なのですが、それをどうとるかが問題です。
 従来からアメリカ文明終焉の可能性を説いてきていた佐伯啓思・京都大学大学院教授は『中央公論』に「もはや成長という幻想を捨てよう」を寄せ、今回の危機は「アメリカの経済戦略の失敗を意味する」とし、「グローバリズムの名のもとに推し進められてきたアメリカの『金融主導の成長モデル』あるいは、『新自由主義』の破綻を示している」と展開しています。
 アメリカは巨額な財政赤字を抱えることになります。その外交戦略、国際的関与に影響がないわけがありません。この問題に取り組んでいるのが、田中直毅・国際公共政策研究センター理事長「選択的になる米国外交に日本の備えはあるか」『中央公論』です。アメリカの対外政策の中で、軍事の比重は相対的に低下する一方で、日本の具体的な国際関与政策が問われることになります。日米関係も、田中が指摘するように、「結果として再定義されるという道筋を歩む」ことになりそうですが、日本外交にその準備があるのでしょうか。  櫻井よしこ・ジャーナリストは、遠藤浩一・評論家・拓殖大学教授との対談(「日本の『底力』はこの危機を乗り越えられるか」『正論』)で、「日本の価値観が宿る新たな資本主義を世界に向けて発信していく好機」だとし、麻生(太郎)総理への期待と不安を表明します。北朝鮮へはあくまでも強硬であるべきであり、日本独自の防衛体制の構築にも力を注がなくてはならない、とのことです。その観点からも、核を持つべきか、非核三原則をどうするか広く論ずるべきとのことです。櫻井も、田中と同様、日米関係の見直しが必要だとするのですが、方向や力点に違いがあるようです。

   総選挙があれば、自民党対民主党、ひいては麻生太郎対小沢一郎の構図となります。民主党が勝利するや、小沢総理・小沢内閣ということになります。そこで、『文藝春秋』は、堺竹央・政治ジャーナリスト&編集部による「小沢一郎研究―その病魔と剛腕の真実」で、元秘書や側近らの証言により、“果たして総理の器なのか”と小沢の人となりに迫ろうとしています。しかし、側近が離れてしまう理由や持病の篤さについては判然としません。
 小沢論としては、『諸君!』の特集「任せていいのか、小沢一郎に」が多々材料を提供してくれます。 岡崎久彦・外交評論家は、外交・安保問題についての小沢の考え方は「わからない」と斬って捨てています(「まさか本気だったとは……。理解不能の“国連中心主義”」)。かつて小沢に担がれた海部俊樹・元総理大臣は、根回しなしで、失敗したら辞任という手法を疑問視しています(「頼もしすぎる幹事長、されど怪しき『党首の品格』」)。佐々淳行・初代内閣安全保障室長は、小沢の竹下(登)内閣での官房副長官時や自民党幹事長時のエピソードを縷述し、「権力欲の強い“こわし屋”だ」とまで言い切っています(「威張る、叱る、まぜかえす。人格的に評価できない」)。この他、中嶋嶺雄・国際教養大学学長「決して忘れまい。胡錦濤への露骨な追従を」、中西輝政・京都大学教授「遅すぎた“最後の戦い”。彼に残された仕事はもうない」、山本卓眞・財団法人国策研究会会長「戦後教育の悪弊から脱却できていない」などの、小沢否定論があります。 小沢を評価するのは、羽田孜・元総理大臣「親父の下で意気投合。ひたむきだった初当選のころ」、平野貞夫・元参議院議員「熾烈をきわめた竹下経世会との暗闘」、屋山太郎・政治評論家「目標は、ただひとつ。官僚支配の打破である」、筆坂秀世・元日本共産党政策委員長「小沢一郎と日本共産党、その間の壁は意外に低い」です。屋山は、小沢の行動原理は一貫して官僚内閣制の清算だと期待しています。筆坂は、共産党と同様のスローガンを掲げる「(小沢の)動きに通底しているのは、時代を見る確かな眼力と決断力」だとまで謳いあげています。
 小沢に理解を示そうとしているのが、武村正義・元内閣官房長官「確執の日々から十五年。『ずいぶん丸くなったな』」ですが、彼の小沢への助言は、「政策は鋭く、大胆に! 人間関係は円く、おおらかに!」です。果たして…。

   麻生か小沢かの前に、年金・医療・福祉が問われています。この問題に取り組むべく、『中央公論』は「老後を壊す政治」を特集しています。巻頭は、舛添要一・厚生労働大臣「俺の言うとおりにしないと、自民党は終わりだ!」です。「(幕末期の)西郷(隆盛)のつもりで事に臨んでいる」との気概は伝わってくるのですが、見直すという「高齢者医療制度」の詳細は判然としません。磯村元史・函館大学客員教授・「年金業務・社会保険庁監視等委員会」委員「『完全回復』はほぼ不可能 今すぐ政治が決着をつけよ」が衝くように、「年金記録紛失・改竄」問題を、まずは解決する必要があるようです。

(文中・敬称略)

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