月刊総合雑誌09年1月号拾い読み (08年12月20日・記)
『現代』(創刊1967年1月)が、今月号をもってその42年間の歴史を閉じ、最終号となりました。その42年間を、バックナンバーを読み返し、重松清・作家「『現代』は何を伝えてきたか」が詳述しています。重松も指摘しているように、また「数多のノンフィクション作品を送り出してきた(巻末の発行人の言)」と自負しているように、今号にもノンフィクション作品が盛り沢山です。
まず、大型企画「ジャーナリストたちの証言」が目をひきます。「ノンフィクションの現在と未来」との副題があるとおり、25名によるノンフィクションの将来像を探る試みです。
立花隆・評論家は、活字メディアが商売として成立し難くなってきてはいますが、ノンフィクションそのものは永遠であるとし、「新しいメディアのビジネスモデル」の発見に期待しています。柳田邦男・ノンフィクション作家は、「総合雑誌的なメディアが経済的に成り立ちにくい時代であるなら、時代と切り結ぶノンフィクション・ジャンルや時代批評に特化した新しい」雑誌メディアを開拓すべきだと提言しています。
歴史にまつわる企画もノンフィクション作品と言えます。童門冬二・作家ほかによる35ページにわたる「『幕末ヒーロー』列伝」や徳本栄一郎・ジャーナリスト「真珠湾攻撃『改竄された米公文書』」などがあります。 その他、これでもか、これでもかとノンフィクション作品が、『現代』最終号を飾っています。
それらの多くは、佐野眞一・ノンフィクション作家「石原慎太郎『落陽の季節』」、加藤仁・ノンフィクション作家「城山三郎 倦まず、たゆまず、ひたむきに」、北康利・作家「吉田茂 ポピュリズムに背を向けて」、有森隆・ジャーナリスト「C・ゴーン『植民地・日産』の次の獲物」などのように、人物論のスタイルをとっています。
現今の政局を論ずるさいには、逢坂巌・立教大学助教「徹底解剖『混迷総理』麻生太郎」となります。麻生政権は、逢坂によれば、「目的設定、政策変換、メディア政治の3点に困難を抱え」、危機に陥っているのです。
アメリカ大統領選の結果に関しても人物論のスタイルで、藤原帰一・東京大学大学院教授「オバマのアメリカ その幻想と現実」とのタイトルになります。「地に堕ちたアメリカを再生するという預言者のようなイメージがオバマ氏」に投影された、と藤原は言います。不安定化する国際関係にあって、「親米と反米の選択」などとの論議は無用であり、日本は、「軍隊を出す前にまず知恵を出し、その構想によって各国を惹きつける」ように努めるべきとのことです。
少しく、各誌から、アメリカ大統領選に関する論考を紹介しましょう。 津山恵子・ジャーナリスト「オバマ 黒人初の大統領の金と力」『文藝春秋』は、選挙戦の凄まじさ、それもオバマ陣営の巧みさ、規模の大きさを縷述しています。選挙資金は、マケイン側約2億3800万ドルに対し、オバマ側約6億6000万ドルと圧倒し、それも大統領選史上最大でした。支えたのは200ドル以下の小口寄付であり、使途はテレビCMだけでなく、2年間にわたって全米各地で開催された野外集会の設営・運営費用でした。いわば金権選挙だったのです。
オバマは演説でリンカーン大統領にかなり頻度高く言及していました。そこに、オバマのテーマを読み取り、阿川尚之・慶應義塾大学教授は、「『アメリカはあくまで一つ』というこの国の根本教義を守り、『希望』という名のアメリカ伝統の楽観主義を共有する黒人候補に全権を委ねることができたアメリカはすばらしい国だ」と多くのアメリカ人が誇りに思っていると説いています(「リンカーンを彷彿させる、静かな“楽観主義者”」『中央公論』)。
久保文明・東京大学大学院教授との対談(「オバマを誕生させた『アメリカという国』」『潮』)で、山崎正和・評論家は、「(アメリカ国民は)オバマに賭けると同時に、『アメリカの夢』が実現することに賭けた」のであり、「黒人人種差別に反対するという理想主義と、旧来のエリート主義という保守主義が結びついている」と述べています。同じ『潮』でのビル・エモット・国際ジャーナリスト「世界潮流」の表現によれば、「オバマが当選したことは、アメリカの真の本質が多様性にあり、それを具現したことを意味」するのです。
山崎と対談した久保は、『中央公論』には「黒人大統領誕生の意義と待ち受ける課題」を寄稿し、オバマの選挙時の発言に従来の黒人運動指導者との違いを汲み取っています。「オバマの発言には、ブッシュ批判は含まれていても、アメリカ批判は存在しない。オバマの演説は、アメリカの『偉大な成功物語』に根ざした全面的なアメリカの抱擁である」とのことです。
「オバマ氏はアメリカン・ドリームを米国にもたらしたのだが、その種子はキング牧師やケネディ元大統領が活躍した六〇年代に蒔かれたものだ」と、柴山哲也・現代メディア・フォーラム代表「オバマと強欲資本主義の戦争がはじまった」『諸君!』は分析しています。そのうえで、金融危機など、新大統領に立ちはだかる難問を列挙しています。多国間外交にシフトせざるを得ない新大統領に対応すべく、「日本は対等な日米関係構築を促すしっかりとしたビジョンと理念を用意」する必要がありそうです。
伊藤貫・政治アナリスト「オバマ米新大統領の『チェンジ』が日本にもたらすもの」『正論』も、「アメリカだけにひたすら頼ろうとする日本の親米保守派の外交思考」は、「賞味期限が切れている」とし、今後の日米関係は、「日本にとって厳しい試練」となると憂慮しています。
伊藤が憂慮する今後の日米関係について、ケント・E・カルダー・ライシャワー東アジア研究センター所長「『日米同盟新時代』の幕が開く」『潮』は、「(オバマの登場は)日米同盟を上下関係あるいは一方通行ではなく、対等で、もっと幅広い、多元的なものにしていく絶好のチャンスだ」と、楽観的でないまでも、プラス面を強調しています。
『世界』には、入江昭・ハーバード大学教授「オバマ大統領誕生の歴史的意味」があります。入江は、オバマを黒人というよりも、国境を越えたトランスナショナルな存在として注目しています。その政策もトランスナショナルになりそうです。今後は、より一層、世界全体の枠組みのなかで、経済秩序・安全保障などの問題を考えていかなくてはなりません。にもかかわらず、現今の日本には鎖国主義的発想が散見できると、入江は警鐘を鳴らしています。入江によれば、田母神前空幕長の論文なども鎖国主義的発想による一例です。
石破茂・農水相・元防衛相は、田母神前空幕長と長い付き合いがあると述べつつも、田母神論文を文民統制の観点から否定しています(「田母神前空幕長を殉教者にするな」『文藝春秋』)。自衛官に求められるのは軍事の専門的立場からの意見なのであり、国民に向けて歴史観・憲法観を語ることは求められていない、と石破は言うのです。「日本上空をアメリカへ向けて飛んでいくミサイルも落とせない。果たしてそれでいいのか」との発言は国民の理解を得るかもしれませんが、「憲法改正すべきだ」と踏み込むのは認められない、とのことです。 問題とされた論文そのものが『正論』に載録されています(田母神俊雄・防衛省前航空幕僚長「日本は侵略国家であったのか」)。
政局が混迷しています。自民党がおかしい状況です、わけても総理大臣がおかしい状況にあります。そこで、『文藝春秋』は、御厨貴・東京大学教授を聞き手に、3人の“大御所”による「麻生総理の器を問う」を企画しています。3人とは、中曽根康弘・元総理大臣、塩川正十郎・元財務大臣、渡邉恒雄・読売新聞グループ本社代表取締役会長・主筆です。中曽根は、麻生の指導力の欠如を問題にしています。塩川は、官僚の発想にひきづられていると難じています。渡邉は、とにかく解散・総選挙をやるべきだと説いています。金融危機、景気悪化、アメリカの新大統領の就任…、日本にとって政治課題は山積しています。一刻も早い政治の“復活”を期待したいものです。
なお、『文藝春秋』に、権丈善一・慶應義塾大学教授による「安心なさい、年金は破綻しない」があったことを付言し、擱筆します。
(文中・敬称略) |