月刊総合雑誌09年4月号拾い読み (09年3月20日・記)
小沢一郎・民主党代表関連の政治資金規正法違反事件が報じられている渦中に、4月号が店頭に並びました。もとより、小沢民主党が問題を抱えることなどは意想外で、多くの論考は麻生内閣を見限ったものでした。
たとえば、屋山太郎・政治評論家「官僚内閣制の終焉」『ボイス』は、麻生首相はじめ自民党領袖の大半は官僚内閣制の幕がおろされようとしている歴史的大事件に気づいていない、だから民主党への政権交代が必至だとしています。御厨貴・東京大学教授も、『潮』(「政治リーダーに求められる『構想力』と『発信力』」)や『中央公論』(「麻生・中川問題が示す自民党の自然死」)で、自民党が下野せざるを得ない状況に陥っていると描いています。
屋山は、『正論』の「特集 漂流日本、究極の選択」の巻頭座談会にも登場し、政権交代により官僚内閣制に終止符を打つ必要を強調します。しかし、櫻井よしこ・ジャーナリストは、小沢民主党の外交政策に疑問を呈します。山田宏・東京都杉並区長は現在の政党を見限り、首長たちを巻き込んでの「平成世直し運動」を提唱します。まさしく、3人の主張を総括すると、タイトル(「麻生自民への落胆、小沢民主への不安」)通りとなります。
この座談会を含め、時間的に小沢民主党代表関連の政治資金規正法違反事件を想定しての編集ではないはずですが、総合雑誌上の底流には、麻生内閣を見限ってはいても、小沢民主党への信頼はあついとは言い難いものがありました。それは、『文藝春秋』の「これが日本最強内閣だ」でもうかがい知ることができます。この企画は、識者33名と政治記者84名のアンケートと堺屋太一・作家・元経済企画庁長官、御厨貴・東京大学教授、後藤謙次・キャスターによる座談会によって成り立っています。望ましい首相は、政治記者の投票では小沢、岡田克也が各19票と割れていましたし、識者33名の誰もが小沢をあげていません。また、堺屋たち3人が選んだのは、現実性はおくとして、奥田碩・前経団連会長です。
養老孟司・東京大学名誉教授・解剖学者「農水官僚を即刻、農村に“下放”せよ」『諸君!』は、独特の自然観に基づいて食料自給率改善の秘策を提示しています。いわゆる官僚的発想からの脱却を求めるのです。農地が余っているにもかかわらず活用させない農政、さらには補助金獲得が優先される農政の現状を糾弾しています。「人間の“首の上”で考えた方法論で向き合ってもうまくいかない。現場にいって働きなさい、お役人を一度、下放しなさい」。まずは自然と接するべきだそうです。
阿川弘之・作家「日本国民性の幼児性」『文藝春秋』は、伊藤貫・国際政治アナリストの論文(「『米国核』頼みの日本は、十五年で中国の属国だ」『諸君!』3月号)から多くをひき、日本の独立維持を危惧しています。阿川がひいた伊藤は、4月号では、『正論』に「試験秀才と謎解き秀才」を寄せています。日本では、他人の作った模範解答を復唱するだけの「試験秀才」が跋扈し、自らの思考パターン・理論的枠組みを構築し、発言する「謎解き秀才」は稀有とのことです。ですから、日本は、「自国の運命を自分達で決める」ことができなくなっていると、言うのです。伊藤によれば、「謎解き秀才」は官僚だけではありません。官界・学界・言論界で活躍している「エリート」のほとんどがそうなのです。伊藤の指摘どおりならば、確かに政治は官僚内閣制から脱却できず、『中央公論』の特集タイトル(「日本の没落」)のようになる可能性がありそうです。
日本外交の今後については、T・J・ペンペル・米カリフォルニア大学バークレー校教授「『ジャパンパッシング』は幻想である」『中央公論』が示唆に富んでいます。先の伊藤たちの立論とは異なりなります。日本の魅力は、軍事的役割に力を入れすぎると日本外交の強みがかえって薄れるとのことです。「汚染や地球温暖化などの非伝統的な安全保障問題がからむ非軍事的分野」で諸外国から歓迎される役割を演じてきたのであり、演じ続けることができ、これこそが日本の強みだとペンペルは指摘します。ペンペルに教えてもらうまでもなく、日本は、自らの力量・魅力を冷静に把握する必要があります。
看過しがちな地域・問題としては、中東やパレスチナがあります。4月号では、山内昌之・東京大学教授「イラン・イスラーム革命三〇年」『潮』と村上春樹・作家「僕はなぜエルサレムに行ったのか」『文藝春秋』が目につきました。
山内の文は、連載エッセイ「時代の風を読む」の第22回目で、イラン革命が多彩なエネルギーを有していたと説いています。また、イスラエル、インド、ロシア、アメリカに包囲されていることによって、イランが感じている脅威をも説明しています。さらには産油国であるにもかかわらず、原子力発電を必要とし、それにともない核開発を進めるイランの主張の根拠をも明らかにします。
村上は、2月下旬、イスラエルでエルサレム賞を受賞し、スピーチを行いました。受賞を辞退せよとの声に抗し、イスラエルに赴いた経緯とスピーチとその英訳が付されています。スピーチのタイトルは「壁と卵(Of Walls and Eggs)」、「もしここに硬い大きな壁があり、そこにぶつかって割れる卵があったとしたら、私は常に卵の側に立ちます」というものです。爆撃機・戦車・ロケット弾・機関銃などは壁であり、攻撃され傷つく非武装市民は卵です。イスラエルのガザ侵攻への批判が込められています。批判したい対象から賞を貰い、その受賞式で、授賞側を批判するスピーチを行ったのです。村上の言をここで縷述しても、彼の真意を正確に伝えることは困難です。一読をお勧めします。
「六十五歳以上、一人暮らしの、いわゆる『おひとり様』が急増中。2030年には七一七万人と倍増も予測されている。最期まで自分らしく生き抜くために、いまなにをするべきか」と、『中央公論』は「『おひとり様』の死に方」をも特集しています。
福島安紀・医療ジャーナリスト「家族に頼らず、自分らしく暮らす『終の住み家』の新しいかたち」は、「高齢者が、コーディネーターやボランティアの力を借りつつ、互いに助け合って暮らす新しいタイプ」をルポルタージュしています。最期まで自分らしく生きるためには、老後はどこで誰と暮らすのか、五十代くらいから考える必要がありそうです。
その五十代後半の男性に悲惨な孤独死が増えているとのことです。孤独死したら早期に発見してもらわなくてはなりません。葬儀や財産管理は誰に依頼すべきでしょうか。梶山寿子・ジャーナリスト「『おひとり様』力を高める方法」は、最期を迎えるにあたっての準備や心構えを具体的に述べています。
今年98歳となる日野原重明・聖路加国際病院理事長「『ありがとう』と言って逝ければそれは“孤独な死”ではない」は、「老いを創(はじ)める」ことを提唱しています。「自己を誕生させる最後の山登りに挑戦することができれば、我々は『老いを創める』ことができるのだ」と声高らかです。
日本経済は老境に入った、百年に一度の経済危機だなど、と打ちひしがれていてはいけなそうです。『潮』は「『ニッポン不況』脱出のシナリオ」を特別企画として編んでいます。『ボイス』も「リストラ不要論」を特集しています。
『潮』の巻頭は、堺屋太一・作家「『世界で最も飛躍する国』になるチャンス」です。日本は輸出よりも内需が多い国だから、円高好況となると予測しています。まさしく「世界で最も大きく飛躍する国」になれるチャンスの到来なのです。ただし、持論として、官僚の規制の打破、そのための公務員法改正の重要性を強調しています。伊藤元重・NIRA理事長・東京大学教授「アジアに広げる円高メリット」『ボイス』も、円高の悪影響により大変な状況にあるが、円高の恩恵は徐々に出てきて、メリットとなるはずと分析しています。
伊丹敬之・東京理科大学教授は、丹羽宇一郎・伊藤忠商事会長との『ボイス』の特集の巻頭対談「人を大事にする経営」で、「『日本の経営のよさ』が世界から注目される絶好のチャンス」と明言しています。派遣切りの報道があれば皆で「かわいそう」と思い、失業率が3.9%程度でも雇用不安と騒ぐ、このようなことは決して悪いことでなく、日本のよい面だとのこと。伊丹は、人間を、社員を大事にする経営の基本的スタンスは誇りをもって保持しなくてはならない、と説いています。そうあってほしいものです。
(文中・敬称略) |