月刊総合雑誌09年6月号拾い読み (09年5月20日・記)

 1969年(7月号)に創刊した『諸君!』が、今月号(2009年6月号)をもって休刊となりました。
「最終号特別企画 日本への遺書」の惹句には、「これは四十年にわたる思索と討論の到達点、そして未来の日本に宛てたメッセージである」とあります。筆者とタイトルのみを記しても編集部の意図が伝わることでしょう。ご一瞥下さい。
 石原慎太郎・東京都知事・作家「実力相応の主張なくば、国は立ち行くまい」、古森義久・産経新聞ワシントン駐在編集特別委員「オバマ政権の中国接近は『日本自立』への好機だ」、佐伯啓思・京都大学大学院教授「アメリカ型改革から〈桂離宮の精神〉を守れ」、中嶋嶺雄・国際教養大学学長「崩壊しない『社会主義中国』は全人類的課題」、西部邁・評論家「戦後的迷妄を打破する『維新』を幻想せよ」、野田宣雄・京都大学名誉教授「『国民国家』から『帝国』への世界史的転換」、秦郁彦・現代史家「歴史の観察と解釈にむけた三つの知恵」、平川祐弘・東京大学名誉教授「皇室と富士山こそ神道文化の要である」、渡部昇一・上智大学名誉教授「保守派をも蝕む〈東京裁判遵守〉という妖怪」。
 また、同誌にかつて寄稿し、保守派の論客として活躍した11人の評伝を「輝ける論壇の巨星たち」として掲載しています。新保祐司・都留文科大学教授「小林秀雄 批評精神の秘密を明かす魂の対話録」に始まり、中西寛・京都大学大学院教授「高坂正堯 論壇誌多様化を反映した多彩な活躍」までです。
「『諸君!』と私」では、常連筆者・愛読者の32人がそれぞれ同誌との関わり、その思いを語っています。巻頭の中曽根康弘・元総理大臣「わが内なる憂国の情は晴れない」は、改憲論を寄稿できた感懐を披歴しつつ、いまだ改憲ならぬことを憂えています。佐藤優・作家・起訴休職外務事務官「冷戦構造崩壊による保守勝利の帰結」は、タイトル通り、東西冷戦終結後、左翼陣営が退潮したので、『諸君!』は歴史的使命を果たしたのだと、結論づけています。
 47ページにも及ぶ大座談会が掲載されています。宮崎哲弥・評論家を司会とする、田久保忠衛・杏林大学客員教授、櫻井よしこ・ジャーナリスト、西尾幹二・評論家たち8名による「諸君! これだけは言っておく」です。「第一部 保守は何を守るべきか」、「第二部 憲法改正を妨げるもの」、「第三部 世界経済戦争の帰趨」、「第四部 『世界史の哲学』を再興せよ」の四部構成です。櫻井の「戦後の日本には、『国益』という考えが存在しない。国益がない国は国家ではない」、田久保の「グローバル化が進めば進むほど、国家という防壁の重要性も増す」や西尾の「歴史をどう解釈するかが現代の戦争です」との言が印象的でした。
 1980年1月号以来、本文劈頭にあった名物コラムの傑作(「ベリー・ベスト・オブ 紳士と淑女」)も精選・集成され、最後に、30年にわたって匿名だった筆者(「紳士と淑女」子)が明かされています。徳岡孝夫でした。
   ロシアのプーチン首相が来日、麻生太郎首相と5月12日首相官邸で会談し、北方四島の帰属問題の最終解決が必要との認識で一致したとの報道がありました。7月のイタリア・サミットのさい、麻生首相とメドベージェフ・ロシア大統領との会談で、あらゆる選択肢を話し合うとのことです。その四島問題については、『世界』に東郷和彦・京都産業大学客員教授「『四島返還』の原則は崩されたのか」がありました。東郷は、谷内正太郎政府代表の「三・五島でも」との発言を取り上げ、日本の立場が揺れていることを危惧しています。
『中央公論』は、天安門事件から20年の中国を「次期覇権国家の素顔」との題で特集しています。
 中国の胡錦濤政権は「準超大国外交」を推進しているとし、その成否を問おうとしているのが、ウィリー・ラム・中国政治・外交研究家「『準超大国外交』を世界は許すのか」です。「中国が国際社会のルールを守る一員として動く意思を持ち、実際にそうできる場合のみ」、これが、胡指導部の外交は成功するかのとの問いへの答えの一つだそうです。
 清水美和・東京新聞論説委員「中国共産党の本質は何も変わらない」は、党幹部の特権をめぐる論争は決着していないし、肥大化した党内利益集団を指導部が統制できるかに今後の成否がかかっていると説いています。中国では収入格差が拡大しています。それも学歴による格差が拡大しています。だからといって、即座に社会的不安定を引き起こす可能性は小さいと、園田茂人・東京大学大学院教授「格差問題の影が忍び寄る都市中間層の憂鬱」は分析しています。業績主義に基づく格差である限り、是認しようとするのです。また、社会的安定を守りたいとの思いも働いています。ただし、格差は、「共産党の理念に関わるため、敏感な問題であり続けている」とも園田は指摘しています。
 この園田の指摘は、上述の『諸君!』での中嶋嶺雄の問題意識に通じるものがあります。中嶋は、「(農民工などの悲惨さは)革命前の中国の姿の今日版ではないか」と言い切っています。

 なお、『諸君!』の富坂聰・ジャーナリスト「機密情報入手! 中国初の空母建造計画、その全貌を公開する」は、「中国海軍の悲願」としての空母建造の動きを詳述しています。空母保有は中国が「大国であることの証明だ」とのことです。周辺国の不安をあおり、かえって無駄な軍拡競争のきっかけとなるのでは、と富坂は懼れています。
 民主党代表の交代劇が進行している渦中に店頭にあった6月号でも民主党論が数多くみられました。たとえば、『中央公論』は、「民主党政権!?」を特集していました。仙谷由人・民主党・衆議院議員は、橋本五郎・読売新聞特別編集委員の問いに応えるかたちで、小沢一郎が代表を続ける困難さを縷々述べていました(「小沢民主党、未熟さの根源」)。飯尾潤・政策研究大学院大学教授「政官の役割分担が成功の鍵」は、民主党は、小沢問題を処理すると同時に、政権担当能力を磨く姿勢を見せ続ける必要があると強調していました。
 また、『ボイス』は特集Uとして「大予測!ポスト総選挙」を編んでいます。その特集内で、民主党の外交政策を危険視するのが、櫻井よしこ・ジャーナリスト「民主党が害する日本の国益」『ボイス』です。とくに小沢一郎の国連中心主義ともいうべき安全保障論を切って捨てます。もっとも、伊奈久喜・ジャーナリスト「小沢一郎が密室でヒラリーに語ったこと」『中央公論』は、民主党とて、政権担当の暁には、現在と大差ない外交政策を採用せざるをえないだろうと予見しています。
 さらに、『ボイス』の特集内の安達誠司・エコノミスト「景気回復を潰す政権交代」は、「生活・環境・未来のための緊急経済対策」と称する民主党の経済対策案を全面的に否定しています。“財源”、“金融政策”、“政府主導の産業合理化の発想”などの3点に問題があるというのです。
 政治家の世襲も問題になっています。鹿島茂・フランス文学者「正しい『二世の育て方』」『文藝春秋』は、世襲を制限するのではなく、かつての中小企業の後継者養成方法にヒントを得ての提言です。まずは、身近な地方自治体の政治家としてスタートさせるべきとのことです。地方自治体の長→政令都市市長や都道府県知事→国政と、ピラミッドを登っていくようにすべきとのことです。
 ところで、9月で衆議院の任期は切れます。それまでには必ず総選挙があります。御厨貴・東京大学教授×片山義博・慶應大学教授・前鳥取県知事×田崎史郎・時事通信社解説委員長「『4年で4人』総理の通信簿」『文藝春秋』は、「郵政解散」後の4年間を総括し、現状を憂えています。この座談会によれば、麻生首相は32点にしか過ぎず、かつ民主党には国民の信が寄せられていないということです。果たして、今後、民主党はいかなるイメージを形成しうるのか、鳩山新代表の手腕にかかっています。

 WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)では、イチローの決勝打により、韓国を破り、日本は劇的な優勝を遂げました。選手たちはもとより、日本中が興奮したかのようでした。その心情の深層を、関川夏央・作家「イチローと日本人」『文藝春秋』が解き明かしています。

(文中・敬称略)

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