月刊総合雑誌09年7月号拾い読み (09年6月20日・記)
民主党の代表選が行われ、鳩山由紀夫が選出されました(5月16日)。各誌7月号が取り上げています。花岡信昭・政治ジャーナリスト「『捨て身』演じて小沢一郎は死なず」『正論』は、「民主党が『小沢支配党』である実態に基本的変化はない」とみなしています。柿崎明二・共同通信政治部次長兼編集委員「民主党代表選 激突した二つの政治文化」『世界』は、従来型「タテ」集団による「小沢型政治モデル」と個々の判断・選択を尊重する「非小沢型文化」が激突し、とりあえず小沢型が勝利を収めたとし、花岡と同様、辞任後も影響力保持を企図した小沢による「インサイダー的な行為による禅譲」としています。
松田喬和・毎日新聞論説室・専門編集委員「人事で見える民主党の『内輪の論理』」『潮』は、党内力学での代表選であり、「鳩山への反発は、今後も尾を引くことになるだろう」と予見しています。伊藤惇夫・政治アナリスト「鳩山新体制でいったい何が変わったのか」『中央公論』は、「民主党は自民党以上に閉じた選挙を行ったことは間違いない。民主党は今、自民党よりも非民主化している」と論難しています。ただし、対自民では相対的には優位に立っているので、鳩山代表はミスを起こさないようにして選挙になだれ込めばよい、とのことです。上杉隆・ジャーナリスト「小沢辞任・絶好のタイミング」『ボイス』は、小沢の政治手法を評価し、民主党政権誕生後の人事までに言及しています。
現在、政治に求められているのは、アカウンタビリティー(説明責任)ないし応答性だ、と田中愛治・早稲田大学教授「国民への『応答性』が問われる日本政治」『潮』は説いています。政党はイメージ戦略に頼るべきでないし、「(有権者は)次の総選挙では、政党や個々の政策よりも本当に信念を持って日本の将来を考えていると思える人を選ぶべき」とのことです。
渡辺喜美・衆議院議員・「国民運動体・日本の夜明け」パートナー×屋山太郎・政治評論家「霞が関を『ぶっ潰す』覚悟」『ボイス』は、鳩山民主党へ寄せる期待大です。公務員制度改革を突破口に官僚主導政治を変えるべきであり、それには鳩山民主党政権しかない、とのことです。『ボイス』では、高橋利行・政治評論家「民主“圧勝”で日本は救われる」も民主党への期待大です。昨今の激動する国際・アジア情勢下での日本政治でのリーダーシップ不在を嘆き、強い政治のためには来る総選挙で民主党が圧勝するしかない、と説いています。
民主党新代表の鳩山由紀夫は『文藝春秋』に「わが政権構想 猛獣小沢をこう使う」を寄せています。最強の布陣で総選挙に臨むべく小沢を選挙担当の代表代行にしたのであり、決して小沢傀儡にはならないと、声高らかに宣言しています。しかし、“小さな中央政府・国会と大きな権限をもった効率的な地方政府”程度しか、具体的な政策は見えません。具体性を求めるのならば、菅直人・民主党代表代行「民主党政権のめざす国のかたち」『中央公論』のほうがよいでしょう。内閣と政権党の一体化を図るため政調会長や幹事長の入閣、予算の積み上げ方式の廃止、事務次官会議の改革等々、民主党がめざす政権の全体像を示そうと努めています。彼の案をもとに、総選挙までには、党内で議論を尽くし、マニュフェストとして国民に提示すると意気込んでいます。
民主党代表交代の発端となった小沢代表秘書の逮捕・起訴について、堀田力・弁護士・さわやか福祉財団理事長と郷原信郎・弁護士・名城大学教授は『中央公論』(「東京地検特捜部は正しかったのか」)で真っ向から対立しています。郷原は、政治資金規正法は資金の拠出関係の内容を全て表に出すことを要求していない、立件の必要はなかったとする立場です。それに対し、堀田は、同法は真実の記載を求めているのであり、「証拠に基づいて多角的に判断した検察のほうが正しいのだろう」と応じています。
町田徹・経済ジャーナリスト「西川×鳩山『日本郵政』最終決戦」『文藝春秋』は、「(郵政民営化の)当初の制度設計の誤りに加えて、西川(善文社長)体制のガバナンスの欠如が日本郵政の混迷をひき起こしたことは明らかである」と結んでいます。しかるに、鳩山邦夫総務大臣更迭となりました。今後の政局にいかに影響するか不分明です。菅義偉・自民党選挙対策副委員長「『世襲』を許せば自民党は死ぬ」『文藝春秋』は自民党のマニュフェストに世襲制限を盛り込もうとした真意を明かしています。なにせ現在の自民党衆議院議員の三分の一以上が世襲議員で、麻生内閣の閣僚十七人中十一が父ないし祖父が国会議員なのです。また、民主党の労組の組織内候補を問題視しています。菅によれば、総選挙後に本格的な政界再編の幕が開くとのことです。
オバマ米大統領は「核兵器のない世界」に向けた構想を発表し、北朝鮮はミサイル発射・地下核実験を実施しました。核とテロリズムの結合が脅威となってきたのです。日本でも“核には核”と論じられてきています。それに対し、櫻田淳・東洋学園大学准教授「日本核武装論、退場のとき」『中央公論』は、唯一の被爆国たる日本は、「『核の拡散』を制止するために『核の拡散』に自ら手を貸す」という倒錯した論理に拠ってはならないとし、「『秩序への蓄積的努力』を新たな装いの下で続けていく」べきだと展開しています。
鳩山と代表の座を争った岡田克也・民主党幹事長が、『世界』(「『アジアの中の日本』として安全保障政策を構築しなければならない」)で、オバマ構想を歓迎しつつ、核保有国による先制不使用宣言、核非保有国への核使用が違法であるとの合意形成、東北アジア非核地帯構想、この三点を日本として主張すべきとしています。かつ日本のアジアでの位置を明示しようとしています。日米同盟と同時にアジアを重要視し、「アジア地域の経済を中心とする一つの共同体―東アジア共同体」のなかで日本の豊かさ・平和を構築する方向に歩むべきだそうです。
そのアジアの中で、先の高橋と同様、日本の存在感が希薄になっていることを問題視する論考がありました。シンガポールの外務次官、国連大使などを歴任し、リー・クアンユー行政大学院院長を務めるキショール・マブバニによる「日本よ、APECに『カイゼン』の風を」(『中央公論』)がそれです。日本はアジアでの指導者となるチャンスを政治的不確実性で失っています。少なくとも、製品製造過程で日々改善を奨励してきた伝統を活かし、「カイゼン」の精神を吹き込み、APEC(アジア太平洋経済協力)に貢献してほしいとのことです。
畠山襄・国際経済交流財団会長「大型FTAで海外市場の拡大をめざせ」『中央公論』は、経済危機対策のため、FTA(自由貿易協定)の推進を説いています。アジアにおいては、安全保障をも含まれる「東アジア共同体」の構築は即座には無理だとしても、自由貿易協定であれば障害はないはずであり、大局的見地からの日中両国の協力を望んでいます。
各国、とりわけアジア諸国は、アメリカ依存から脱したかたちでの新経済成長モデルを模索しなくてならなくなっていると、飯島寛之・高千穂大学准教授「新局面へ動き始めたアジア金融協力体制」『世界』は指摘します。飯島によれば、「アジア圏が世界の一極を成すこと、これがアジア自身を守ることになる」のです。そのためにも、金融面でもより一層の協力が求められています。
政治面にとどまらず、日本人の意識は揺れているようです。とくに若者に顕著だと、見田宗介・東京大学名誉教授×三浦展・消費社会研究家「『進歩』が終わった世界を若者はどう生きるか」『中央公論』は分析しています。近代合理主義的な世界観が揺らいでいるのです。「あの世」や「奇跡」を信じ、「再呪術化」傾向がみられるのです。若者は、見田によれば、あまり束縛されない共同性、「自由な共同性」を求めています。「高階層の女性」ほど新しいネットワークを形成でき、「低階層の男性」は閉じられた地元に留まり、旧来の共同体の崩壊が進み、階層格差が拡大すると、三浦は想定しています。
清水美和・東京新聞論説委員他による「中国を信じられない『100の理由』」『文藝春秋』は、中国の現状を把握するに簡便です。
『中央公論』に第10回「読売・吉野作造賞」発表があり、受賞作は小池和男・法政大学名誉教授の『日本産業社会の「神話」』(日本経済新聞社)です。「日本は集団主義の国」、「日本人は会社人間」との神話は誤りであり、神話を打破しないと衰退するとの警鐘を鳴らしているとのことです。
(文中・敬称略) |