月刊総合雑誌09年8月号拾い読み (09年7月20日・記)
いよいよ総選挙です。
民主党が、三親等以内の血族と配偶者に国会議員がいる場合、同一選挙区から連続して立候補することの禁止を公約に掲げているとのことです(上久保誠人・早稲田大学特別研究員「『世襲』総理を育んだ自民党長期政権」『中央公論』)。上久保によれば、長期政権下、当選回数によって閣僚・党役員などの役職が割り振られる当選回数至上主義が世襲化を促進したのです。世襲問題は、政権交代が頻繁に起これば、自然消滅する可能性がありそうです。
世襲制限とともに“総理大臣経験者の国会議員居座り制限”をも、検討すべきと、伊藤惇夫・政治アナリスト「臨床政治学」『中央公論』は言います。“総理退陣後は政治家としての余力が残っていないはず”だからです。
民主党、それも若手の動き、さらには彼らと小沢一郎・民主党代表代行との関係が気になります。横田由美子・ルポライター「『政権取り』民主党、若手議員の迷走」『中央公論』が詳述しています。民主党には世襲議員は少ないのですが、かなりの数の官僚出身者がいます。民主党の掲げる“官僚内閣制からの脱却”に疑問符が付せられそうです。さらにカネや公認権、党内ポストで縛られ、若手の小沢批判は鳴りを潜めています。小沢は、旧来型の政治家の代表とも言えます。民主党に旧来型政治から脱却をはかる新しい政治を期待できるのでしょうか。
新総理と目されている鳩山由紀夫の弟である鳩山邦夫が『文藝春秋』で佐野眞一・ノンフィクション作家のインタビューに答えています(「鳩山邦夫 大いに吼える」)。麻生太郎総理との出会い、田中角栄の秘書時代、四代にわたる政治家一家の日常生活などを細かく知ることができます。邦夫は、兄を「宇宙人」、「ズルい人」であり、「政界遊泳術という点では日本一のスイマー」だと評しています。兄弟連携の確立は、0.5%とのことです。
『文藝春秋』には佐野による「鳩山家四代『エリート血族の昭和史』」もあります。鳩山兄弟の曾祖父・和夫(元衆議院議長)、祖父・一郎(元総理)、父・威一郎(元外務大臣)は、東大を優秀な成績で卒業しています。そして兄弟二人も、兄は工学部、弟は法学部ですが、東大卒です。ただし、弟・邦夫のほうが優秀だったようで、佐野によれば、「優秀な弟に劣等感をもったからこそ、由紀夫は邦夫と同じ土俵で争わないですむ理科系に逃げ、政治の世界も邦夫に先行させてじっと弟の様子をうかがっていたのではないか」とのことです。佐野は、また、「日本の近現代史を見回しても、こんな化け物屋敷じみた奇妙な家は、鳩山家以外にない」と記しています。
なお、『文藝春秋』は、鳩山兄弟を念頭においてのことでしょう、「最大のライバル、最良の理解者」と銘打って、「日本の兄弟67人」を特別企画として編んでいます。
自民党内には、麻生退陣すべきの声は都議選の結果判明の前からありました。その一例が、塩崎恭久・衆議院議員・元官房長官「麻生総理よ 直ちに総裁選を!」『文藝春秋』です。
自民党の評判が悪いのは、小泉・竹中改革が悪評なのもあずかっています。その悪評に抗すべく、竹中平蔵・慶應義塾大学教授が『ボイス』で、渡部昇一・上智大学名誉教授と対談しています(「霞が関『ナチス』化への暴走」)。竹中は、問題が起こると、救うための政策(policy to help)ばかり手がける傾向を非とします。解決のための政策(policy to solve)で経済を強くし成長をはかるべきなのです。helpを中心にして霞が関(官僚)任せにすれば、「国家社会主義」つまりは「ナチス」になってしまうと、渡部とともに警鐘を鳴らしています。
『ボイス』には、ビル・エモット・英『エコノミスト』元編集長「ブレトン・ウッズ体制の終焉」があり、IMFが機能不全に陥っている現況を分析し、今後の国際金融体制・通貨体制、ひいては世界経済の方向性を探っています。「最も重大で大幅な変革をもたらす引き金となるのは、中国の通貨政策」です。SDR(超国家的な基軸通貨)に外貨準備金を交換する見返りとして、「中国が為替交換と為替相場制の自由化を、漸次進めるプロセスに合意することが考えられる」と、エモットは予見しています。
三國陽夫・三國事務所代表取締役「“黒字激減”で自立する日本」『ボイス』によれば、「基軸通貨国とは、世界に受け入れられる製品を創出し、外貨を獲得する能力のある国であり、同時に、製品取得のために、その国の通貨が世界中から保有したいと求められる国」です。日本は、優にその資格がありそうです。しかし、「外交や軍事面でも独り立ちして行動しなければならない」のです。
現今の経済危機からの脱却のため、医療、介護、農業を成長産業に位置づけ、産業構造の転換をはかるべき、つまり外需型から内需型への構造改革の必要を謳う議論があります。それらを真っ向から否定するのが、竹森俊平・慶應義塾大学教授「『医と農で稼ぐ』は幻想だ」『中央公論』です。今回の危機は欧米に端があり、そのトバッチリで日本の外需が落ち込んでいるのです。外需回復まで景気刺激策でしのがなければならないのです。日本は、やはり製造業を伸ばすしかない、と竹森は強調しています。
竹森の論考は、「日本経済の生き残る道」と題する特集の巻頭です。同特集は、熊野英生・第一生命経済研究所主席エコノミスト「暴走するエコ・ブームは本当に救世主なのか」、与謝野馨・財務・金融・経済財政大臣などによる「キー・パーソン10人に聞く」で構成されています。与謝野は、現在の政権交代論は政治を劣化させるだけで、党派を超え、社会ビジョンに関する議論をすることが必要だと説いています。
医療・福祉・教育の予算が削減される一方、道路建設だけがひたすら驀進しているとし、『世界』は、「道路が暮らしを食い尽くす」を特集しています。
巻頭の小川明雄・ジャーナリスト「『一般財源化』の嘘」は、道路特定財源は一般財源化されたはずなのに、かえって道路投資が増加していると難詰しています。五十嵐敬喜・法政大学教授ほかの座談会(「道路建設はなぜ止まらないか」)は、不況克服のための高速道路の割引や道路建設の陳情が、道路に国費を注ぎ込むことになっていると指摘しています。片山義博・慶應義塾大学教授「道路はもはや聖域ではない」は、鳥取県知事の体験を踏まえ、道路建設には一割の元金さえ用意すれば事業を実施できるという、道路に予算を振り向けやすい地方財政システムを問題視しています。さらに、横田一・ジャーナリスト「タレント知事たちの道路建設促進合戦」は、新しい政治スタイルを標榜しながら旧来型の公共事業を推進していると、石原慎太郎・東京都知事や橋下徹・大阪府知事などを論難しています。
特集の扉での問題提起は、「総選挙後の新政権は、この驀進の構造を果たして変えられるのか」と結んでいます。まさしく新政権にとって重い課題となりそうです。
道路建設も環境問題と関連しますが、地球環境は意想外に悪化しているようです。熱帯雨林が破壊され、オランウータンが絶滅の危機に瀕している状況を、宮田賢浩・フリーライター・カメラマン「『森の主』が消える日」『世界』がリポートしています。
辻井いつ子「『全盲のピアニスト』と呼ばないで」『文藝春秋』が、わが子・辻井伸行がヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝するまでの生い立ちと経緯を語っています。コンクールの位置づけ、辻井のピアニストとしての芸術性は、吉原真理・ハワイ大学教授「辻井伸行さんクライバーン・コンクール優勝のもつ意味」『中央公論』に詳しいものがあります。
現役の相撲取り時代からジェシーと親しまれている人気者が、『文藝春秋』で、親方としての定年を迎えたことを期に、入門以来の日々を振り返っています(渡辺大五郎・元東関親方「元高見山 プッシュとガマンの45年」)。常夏のハワイから日本に来て、寒さに辟易したのはもとより、突如、異文化・相撲界に入ったのですから、並大抵の苦労ではありませんでした。
(文中・敬称略) |