月刊総合雑誌09年11月号拾い読み (09年10月20日・記)
『世界』は第45回衆議院選挙の激戦区のルポに取り組んでいました。藤田庄市・宗教ジャーナリスト「東京12区―太田昭弘はいかに敗れたか」、横田一・ジャーナリスト「長崎2区―諫早干拓はどうなるのか」などです。太田・公明党代表を破ったのは民主党の青木愛候補、長崎で元防衛大臣・久間彰生自民党候補を破ったのは福田衣里子民主党候補です。青木は現職参議院議員だったとはいえ、地元では無名の若い女性、福田はまったくの新人でした。彼女たちは、小沢一郎により、大物議員への刺客として送りこまれ、競り勝ち、「政権交代を象徴」することとなったのです。当選後、「小沢ガールズ」と呼ばれています。
福田は、「小沢ガールズ」の仲間たる三宅雪子・小原舞との座談会(「小沢さんは鬼でした」『文藝春秋』)に登場し、薬害肝炎訴訟の原告から転身した苦労を披瀝しています。「小沢ガールズ」たちは、辻立ち一日50回など、小沢流選挙に徹したのでした。
麻生内閣で閣僚だった三人が『文藝春秋』で自民党の敗因を語っています(与謝野馨・前財務・金融担当相×鳩山邦夫・元総務相×石破茂・前農水相「自民党はぶっ壊れない」)。三人によれば、民主党が勝ったのではなく、自民党が嫌われたのです(鳩山の表現によれば「自民党のオウンゴールがあまりに多すぎた」)。ただ、新しい優秀な人材を発掘するチャンスが自民党に回ってきたのだ、と望みを失ってはいません。
石破は、『中央公論』に「偏狭なナショナリズムでは自民党は立ち直れない」を寄せ、自民党凋落の背景と政策課題を説いています。冷戦構造・高度成長の終焉や少子高齢化社会に対応していなかったとし、「中福祉、中負担の国」を実現すべく、「党内論理ではなく国民の論理で動かなくてはならない」し、「保守政党」であってもナショナリズムの政党であってはならないとのことです。
立花隆・評論家「小沢一郎『新闇将軍』の研究」『文藝春秋』は、タイトルで想定できるように、新政権発足とともに民主党幹事長に任ぜられた小沢一郎を実質的な最高権力保持者として捉え、それを「異常」と描いています。小沢グループは、かつて自民党の史上最大派閥だった田中派を凌ぐ巨大な政治集団となっています。小沢の政治上の師匠たる田中角栄や金丸信がかつてそうだったように、小沢が政権を二重構造的に支配しているかのように映じます。
中西輝政・京都大学教授「英国『政権交代』失敗の教訓」『文藝春秋』は、民主党が与党としての学習を一度もせずに政権に就いたことを危惧しています。中西によれば、イギリスでは、1924年に万年野党の労働党が政権に就き、大混乱し、真の二大政党制が根付くまでに、二十年以上の時間と五年間の大連立という学習期間を要したのです。
松本健一・作家・麗澤大学教授「日本はアジアに復帰する」『中央公論』は政権交代を積極的に評価します。明治維新、敗戦に続く「第三の開国」なのです。福沢諭吉はかつて「わが国は隣国の開明を待って共にアジアを興す」時間的余裕がないため、「脱亜論」を唱えました。現在、「共にアジアを興すべき時点」に立ったと松本は分析します。今回の選挙結果は、「アジア重視の未来像を描こうとする変革を意味する」のです。「アジア共同の家(アジア・コモン・ハウス)」構想を提起しています。
『ボイス』の「特集 景気回復できるか鳩山政権」のうち、「日本経済を壊す7つの危険」の各論考は、民主党のマニフェストに盛られた政策を真っ向から否定、あるいは危惧します。
財部誠一・経済ジャーナリスト「企業の日本離れが加速する」は、製造業への派遣禁止、最低賃金引き上げ、温暖化ガス削減目標25%等々、個々の政策目的にいかに正義があろうとも、経営コストを引き上げるので、深刻な産業の空洞化は避けられないと指摘します。
北村慶・大手グローバル金融機関勤務「家計を36万円痛める『CO2削減』」によれば、温室効果ガス削減のためにはほぼすべての機器を強制的に最先端のものに入れ替える必要があるため、家庭や企業の負担は大きなものになります。池田信夫・上武大学大学院教授「『派遣禁止』による失業率10%」は、派遣労働禁止は、パートや請負、残業が増えるだけで、かつ雇用の海外流出をもたらし、民主党の政策は「労働者にやさしい」ものではなく、「労働組合にやさしい」ものだと手厳しいものがあります。藤沢久美・シンクタンク・ソフィアバンク副代表「消費を冷やす『最低賃金千円』」も、最低賃金を引き上げると利益率が低い零細企業の負担増につながり、かえって若者と主婦のパートやアルバイトの機会を奪い、結果として消費を減退させると心配します。
浅川芳裕・月刊『農業経営者』副編集長「戸別補償、黒字農家は廃業に」は、農地だけもっている擬似農家が土地を貸さなくなり、本物の農家が困難になる様相を描いています。増田悦佐・株式会社ジパング経営企画室シニアアナリスト「『高速無料化』効果の大間違い」は、高速道路無料化よりも渋滞のひどい区間での「渋滞税」の徴収を提言しています。宮尾攻・金融ジャーナリスト「『郵政見直し』で銀行は連鎖倒産」は、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の完全民営化を凍結し、その業務を多様化させると、既存の民間業は不利に陥らざるを得ないと、民主党の政策を否としています。
上の特集には、財源がないと非難される民主党のマニフェストに処方箋をと企図する論考もあります。飯田泰之・駒澤大学准教授「『財源不足20兆円』解決法」がそれです。主要政策の実現には中期的には20兆円の財源確保が必要とし、その工程を提示します。名目3.5%成長を実現し税収増をはかるべきであり、そのためには日銀が、一定期間(たとえば消費者物価指数の上昇率が2%を超えるまで)、金融緩和を継続すべき、とのことです。
民主党の対米政策の基本は、「対等な日米関係」とのこと。そこで、『世界』は「『対等な日米関係』とは何か」を特集しています。巻頭は、豊下楢彦・関西学院大学教授「日米安保における『対等性』とは何か」です。豊下は、「まず何よりも自らの頭で主体的な視点をもって国際情勢を分析し、独自の戦略方針を構築し、その上で米国と率直な会話を展開することであろう。米国が設定する『敵・味方』論の舞台の上で踊ることでは、断じてないはずである」と展開しています。
一方、渡邉昭夫・東京大学名誉教授「東アジアを覆う核緊張と日本の選択肢」『中央公論』は、中国・北朝鮮の核を重視し、日本の安全保障戦略の柱として、以下の3点を上げます。第一に、非核保有国の安全を保障することと核兵器削減への努力は義務だとアメリカと中国に主張すること。第二、日米の核政策に関する協議体(アメリカの核の傘を確実にするため)の構築。第三、アメリカの核抑止に頼らざる得ない事態に陥ることを全力で回避すること、そのためにも通常兵器の分野で著しい力の不均衡がアジアで生じないようにすること。
結局のところ、渡邉が説くように、「国際関係とは、相手があって成り立つものであるからには、主要な相手国であるアメリカおよび中国と、(中略)戦略対話ができるような環境整備が先行しなくてはならない」ということでしょう。
「台中メトロポリタンオペラハウス」や「バルセロナ見本市会場」など海外でも活躍し、世界的評価を得ている建築家の一人・伊東豊雄が『ボイス』に登場しています(取材・構成/川島蓉子「時代を拓く力 自然の光を取り込む建築」) 。「日本の建築は、かつて自然と建築との境界は非常に曖昧で連続的な美学があった」、「日本語は発することで言葉が空間を浮遊する、僕はその空間を大事にしたい」、「柔らかい幾何学を用いること、そして境界を曖昧にすること。それを組み合わせるところから、これからの時代の建築が生まれてくる」など、含蓄ある言葉で満ちています。
山本兼一・作家「安土城 戦国時代のプロジェクトX」『文藝春秋』は、信長の築城を題材に、大工・石工など、モノづくりに取り組む日本の伝統的な職人たちの仕事ぶり、その優秀さを紹介しています。
(文中・敬称略) |