月刊総合雑誌10年1月号拾い読み (09年12月20日・記)

 メディアが新政権の批判を控えるという100日間のハネムーンは終りました。まずは、鳩山由紀夫総理、小沢一郎・民主党幹事長の“カネ”が取り上げられています。
 佐野眞一・ノンフィクション作家「『母から九億円』鳩山総理の正体見たり」『文藝春秋』は、鳩山総理の正体を「超高級ニート」とし、現在のような危機の時代に、「政治資金から何から一切合切を親任せにしているような、何もしないトップが対応していけるはずがない」と斬って捨てています。
 同じ『文藝春秋』で、松田賢弥・ジャーナリスト「小沢から藤井に渡った15億円の怪」は、ダム建設などに関連しての小沢のカネの動きを追っています。さらには、2002年、自由党(当時党首・小沢一郎)は「組織活動費」の名目で、当時自由党幹事長だった藤井裕久(現財務省)に約15億円を支出していることになっていますが、藤井は、そのカネに心当たりがない、とのことです。「小沢はゼネコンや政党助成金などのカネと、自らが熟知している制度を利用し、一見合法的に自らの資産を形成してきた」と糾弾しています。
 岡本純一・ジャーナリスト「裏金太り『小沢一郎』が逮捕される日」『新潮45』によれば、鳩山の問題は資産家の杜撰な経理問題ですが、小沢のほうは脱税や収賄の可能性ありと、東京地検特捜部は「重大な決意で“小沢金脈”に斬り込もうとしている」とのことです。

 日本外交への警鐘もしきりです。田久保忠衛・杏林大学名誉教授「米首脳を反日に追い込む鳩山・岡田流“害交”」『正論』や中西輝政・京都大学教授「一人芝居の鳩山『反米』政権」『ボイス』など、タイトルからだけでも、論者たちの憂慮振り・危機意識を感じ取れるでしょう。
 北岡伸一・東京大学教授「決断か、さもなくば日本の危機」『中央公論』は、鳩山の唱える「緊密で対等な日米関係」を問題視し、日本の将来を危惧しています。日米の責任分担のうち、日本の役割を増加させるのなら、対等に近づくことになりますが、アメリカの役割を減らすことによっては、「緊密で対等」にはならないと説いています。「これまで約束したことだけは守る国だという信用」が揺らいでいます。さらには、これ以上、歳出削減はできないと見極める必要がありそうです。「普天間の決着で対米関係を安定させ、さらには増税に進むべき」と北岡は、政権に「大きな決断」を求めています。
 沖縄県の普天間飛行場返還問題を、過去10年以上、一貫して手掛けてきた守屋武昌・元防衛次官が『中央公論』で、如月遼・作家の質問に答え、鳩山政権がこれまでの経緯への理解が浅いのではと憂慮しています(「地元利権に振り回される普天間、日米同盟」)。

 新政権誕生とともに外国人参政権の議論が再燃しています。鄭大均・首都大学東京教授「外国人参政権に反対のこれだけの理由」『中央公論』は、タイトルどおり、反対論を展開しています。まず、在日コリアンなど特別永住者への配慮は特例帰化制度の導入でなされるべきとのことです。また、「外国人参政権は国内政治に対する外国政府からの干渉を高めるおそれがある」から反対すべきとのことです。
 与謝野馨・衆議院議員・前財務大臣「こんな予算はありえません」『文藝春秋』は、政府の行政刷新会議のよる「事業仕分け」を「まるで公開処刑のようだ」と筆を起こし、それはパフォーマンスにしか過ぎないとし、民主党の財政運営には長期的展望が欠如していると論難しています。「バラマキによって歳出を膨張させ、国の借金を野放図に増やしていくものであり、『赤字亡国』の行為」とまで言い切っています。
 一方、「『事業仕分け』などで財政を縮小すれば、さしあたりはデフレに拍車をかける」ことになるので、「国民に国債大量増発を納得しもらう」必要があると、浜矩子・エコノミストは、『文藝春秋』での荻原博子・経済ジャーナリストとの対談(「『ユニクロ型デフレ』で日本は沈む」)で、説いています。両者は、現状を体感的にはハイパーデフレだと分析しています。荻原によれば、「年金や雇用、医療や介護など、国民から安心が失われてしまったから、消費が冷え込んでいる」のであり、デフレ脱却のためには、そのような不安を民主党政権は払拭しなくてはならないのです。
 原田泰・大和総研常務理事チーフエコノミスト「格差是正で成長を目指せ」『中央公論』は、昨今、所得格差の拡大が問題と言われていますが、本当の問題は所得が伸びていないこと、すなわち成長率の低下だと主張します。格差是正を目指すならば、低所得者に基礎的所得を直接補助し、生存権を保障すべきだと提言しています。その直接的コストは4兆円、一般会計予算の5%以下におさまるようです。  若田部昌澄・早稲田大学教授「デフレは2011年まで続く?」『ボイス』は、「これからの一年は、日本と日本国民の将来にとってきわめて重要な年になるかもしれない」と指摘し、政府の日本経済がデフレ状態に入ったとの宣言(11月20日)は、デフレに対する「宣戦布告なのか、それとも降伏宣言なのか。この一年はそれが問われるだろう」と結んでいます。

 上杉隆・ジャーナリスト「酷似する鳩山と安倍“官邸崩壊”が止まらない」『中央公論』は、官邸が先の安倍官邸と同様、機能していないと難詰しています。調整役の官房長官が機能不全で混乱の要因となっているのです。さらに鳩山が就任直後から公約違反を繰り返しているとし、彼の存在そのものが混乱の原因となっていると厳しいものがあります。上杉は、鳩山は自らの政治資金についての説明責任も果たしていないとし、さらに鳩山の公約違反として、記者会見開放、党首討論の実施、強行採決の禁止、機密費の公開などを挙げています。
 野中広務・元自民党幹事長「漂流、鳩山内閣」『新潮45』は、小沢民主党幹事長の検察への恫喝的姿勢を「逆に意味での『国策捜査』」と表現しています。「鳩山政権は、何ごとにつけても小沢さんの気分に左右されているようにしか見えません」とのことです。小沢のもとに陳情を一元化したことなどを取り上げ、「小沢さんが民主主義に危険をもたらそうとしている今こそ立ち上がるべき」と、鳩山に小沢主導からの脱却を求めています。野中によれば、「このままの状態に甘んじ続けるようであれば、自ら総理の座を降りるべき」なのです。
 『新潮45』では、佐伯啓思・京都大学大学院教授「日本の行く末『国民のための政治』という幻想」が、民主党の「政治主導」は「国民」の欲するものを提供する程度の意味で、今日の危機的状況への認識が欠落している、将来像と国民の指針を提示すべきと大局的見地から警鐘を鳴らしています。

茂木健一郎・脳科学者×アレクサンダー・ゲルマン・アーティスト「日本の職人芸を世界ブランドに」『ボイス』には元気づけられます。ゲルマンは山中漆器を用いたチェスセットのデザインでも有名です。そのゲルマンが日本の伝統工芸・日本料理などを例に「日本は世界で最も洗練された、ビジュアルな文化を擁している」とし、「日本人は自然と対話し、自然の営みを洞察し、自然を創造の源として表現してきました」と日本人の創造性を高く評価しています。茂木は、「過剰に悲観的にならず、自らの創造性を素直に評価し、自信を持つことが、いまいちばん必要なことではないでしょうか」と応じています。
 なぜマンガが日本で独自の発展を遂げたのかの謎に、内田樹・神戸女学院大学教授が、『新潮45』での養老孟司・解剖学者との対談(「『マンガと日本の力』“辺境”の民が誇る最強文化」)で迫ろうとしています。漢字とカナの二重構造こそが日本文化の深層構造であり、表意文字の漢字は脳内では図像情報として処理され、表音文字のカナは音声情報に、つまりは図像情報・音声情報とを並列処理を行う「日本人の言語脳の特殊性」が、「日本のマンガの卓越性を支えている」と言うのです。
 
 『世界』の「特集 韓国併合100年―現代への問い」に坂本義和・東京大学名誉教授が「東アジアを超えた『東アジア共同体』の構想を」を寄せ、「普遍的な『ヒューマニティ』を基盤とする多様性の保持と創出」を目指し、「『東アジア』は世界に開かれた『地域共同体』」にと提唱しています。
 

(文中・敬称略)

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