月刊総合雑誌2010年2月号拾い読み (2010年1月20日・記)
今月も各誌は小沢一郎・民主党幹事長に厳しいものがあります。
山村明義・ジャーナリスト「『軍団』教育から読み解く小沢一郎の野望」『正論』は、「『監視』と『恫喝』の装置を築き、自らが当選させた新人議員を、文化大革命時に毛沢東や林彪らが動員した紅衛兵のように“教育”し、『国民の目に映らない恐怖政治』の手駒として使おうとしているかのように見える」とまで酷評しています。
中西輝政・京都大学教授は、『文藝春秋』(「小沢一郎『天皇観』の異様」)と『ボイス』(「小沢一郎の大罪―異例の天皇会見と中国への屈服」)で、小沢が率いた600人以上の訪中団や、かつ天皇陛下と中国の習近平・国家副主席との会見に関連しての小沢発言に、日本の危機が潜んでいると警告しています(以下、主に『文藝春秋』の論考による)。アメリカは同盟国であり、中国はそうではありません。ですから、小沢たちの説く「日米中正三角形論」は、「同盟のパートナーをアメリカから中国に乗り替える」とのメッセージとなり、致命的な「国策転換」になるのです。小沢の「民主主義」観によれば、「一旦選挙で選んだら、その政権党に全権を委任しなければならない」のであり、今回の政権交代は「無血革命」だったことになります。民主党は、「国民から全権を付与された革命政府」となって、「国の根幹をなす外交・安全保障政策や象徴天皇制を大きく変えつつある」と論難しています。
田村重信・自民党政務調査会調査役「民主党の許されざる八つの嘘」『正論』は、“日米危機、鳩山不況、沖縄愚弄、年金問題、説明拒否、財政破綻、虚偽献金、官僚依存”などを取り上げ、民主党の施策を嘘とごまかしとして糾弾しています。田原総一朗・ジャーナリストを聞き手とする『ボイス』の連続インタビュー「自民党ならこの危機をどう救う?」も鋭く民主党批判を展開しています。なかでも、大きく問題とされるのは、外交や経済政策です。
鳩山の外交・安全保障政策のブレーンと巷間囁かれている寺島実郎が、連載「脳力のレッスン」の特別篇として、「常識に還る意思と構想」を『世界』に寄稿しています。「独立国に外国の軍隊が長期間にわたり駐留し続けることは不自然なことだ」という認識を取り戻さなくてはならないし、「これまでの惰性ではなく」、「我々は静かに『現代における条約改正』に向き合うべき局面に近づきつつある」のだそうです。まさしく「国策転換」なようです。
知日派と目されている二人のアメリカ人学者が『潮』に登場しています。
ジェラルド・カーティス・コロンビア大学教授は、鳩山政権は日米安保を維持したいのか変えたいのか不明確だし、アメリカに不信感を植え付けてしまった、と指摘しています(手嶋龍一・外交ジャーナリストとの対談「東アジアの『グランドデザイン』を描け」)。ケント・カルダー・ライシャワー東アジア研究所所長は、「同盟関係におけるもっと大きな枠組みをつくる」必要を力説します(久保文明・東京大学教授との対談「普天間問題を超えて新たな『日米関係』を築けるか」)。ただ、小さな齟齬が重なると「両国においてジャパンパッシング、あるいはアメリカパッシングが進むのではないか」と心配しています。上の寺島の論調では日米間に齟齬を来すかもしれません。
小沢の政治主導に、「官僚に先手を打たれるのがいやだといった反射的な対応」を感じるとし、「ひ弱な民主党政権」で小沢の「一人天下になってしまっている」し、「歴史認識が欠落している」と、御厨貴・東京大学教授「反射神経で官僚を蹴飛ばす未熟な政治主導」『中央公論』は慨嘆しています。
民主党、小沢の対中国政策への懸念はまだまだあります。関岡英之・ノンフィクション作家「『内なる脅威』と化した中国の日本侵蝕」『正論』によれば、「民主党政権は、対米追従から対中追従へ舵を切り、亡国への道を暴走し始めた」とのことです。中国人移民の流入を放置し、外国人地方参政権・地方分権を推し進めると、「日本国は解体され、日本文明は滅びる」とまで危惧しています。
中国政府関係者は、「鳩山内閣を支配する小沢一郎について、最高実力者として時の総書記の上に立った『ケ小平』になぞらえ」、また、「かつての田中角栄と重ね合わせて見て」、「頼りになる『窓口』と位置付け、したたかな『小沢工作』を展開しつづけてくるだろう」と、城山英巳・時事通信外信部記者「中国共産党『小沢抱き込み工作』」『文藝春秋』は予見しています。だからこそ、小沢訪中団は大歓迎された、とのことです。小沢の訪中団は、自民党時代から青年草の根交流として続けている「長城計画」の流れを汲んでいます。支援者とともに訪中することにより、選挙対策ともなってきたのです。
いや、選挙対策に止まらず、利権につながるのだと、青木直人・ジャーナリスト「『六〇〇人訪中団』中国利権再び?」『ボイス』は指摘します。「長城計画」などを通じ、小沢は「田中角栄が全盛期にやったように、中国最高首脳に通じるパイプとカネを握ろうとしている」とのことです。さらに、小沢は韓国・北朝鮮とのパイプも視座においているとのことです。
上の中西や青木の『ボイス』上での論考は、「総力特集 期待を裏切った鳩山政権」の一環です。同特集には、鳩山政権の目玉商品の「事業仕分け」の「仕分け人」を務めた永久寿夫・PHP総合研究所代表取締役常務が「支持率急落に陥るシナリオ」を寄せています。事業仕分けには、官僚依存で政治ショーだったとの根強い批判があります(小田博士・産経新聞政治部記者「仕分け人を操縦した財務官僚の嘲笑い」『正論』など)。一方、永久は、仕分けのプロセス・苦労を紹介しつつ、仕分けがまさしく政治ショーに終われば、鳩山政権の支持率は急降下するうえに、国が混乱すると憂慮しています。
特集外ですが、『ボイス』には、前原誠司・国土交通大臣が花岡信昭・拓殖大学教授のインタビューに答えています(「[政権交代百日]政治主導を貫く戦い」)。観光、オープンスカイ、港湾のハブ化、民間活力によるインフラ整備、住宅の5分野で、財政出動に頼らない成長戦略を打ち出したいとのことです。官僚の「面従腹背」を克服し、大臣・副大臣・政務官で方針・方向性を決める、つまり政治主導を貫徹すると高らかに決意表明しています。
民主党の政治主導、つまり「脱官僚」について、仙谷由人・行政刷新担当大臣が「もう事務次官など要らない」『文藝春秋』(インタビュアー・歳川隆雄・ジャーナリスト)で縦横に語っています。「各省庁を一つの会社として考えた場合、社長はやはり大臣」であり、「事務の最高責任者というポストは普通の民間会社にはない」と明快です。
カネや土地取引の疑惑で、石川知裕・衆議院議員が逮捕されましたが、同議員の元私設秘書が事件に関わる書類隠しに加担したと語ったと、田村建雄・ジャーナリスト「消えた五箱の段ボール」『文藝春秋』が詳しく紹介しています。
年頭にあたって、『文藝春秋』は特別企画として「『10年後の日本』復活のシナリオ」を編んでいます。その巻頭で、舛添要一・参議院議員・前厚労相らによる座談会「人口減に勝つ『国のかたち』」が、網羅的に日本・日本人の課題を論じています。同座談会で、水木楊・作家が説くように、「筋肉質で最適規模の経済を実現」すべきでしょう。
石破茂・衆議院議員・元防衛相「米軍基地が消えてなくなる日」は、「米軍が日本からいなくなったとき、むしろ困るのは日本の方」であり、「日本の安全保障政策はこれからも日米同盟の堅持以外にない」と断じています。
この特別企画には、他に、“技術大国「世界一」への道を拓け”と説く立花隆・評論家「スパコンでがん解明」や、“外国人パワーの活用を謳う”堺屋太一・作家・元経済企画庁長官「史上四度目 大量移民を活かせ」などがあります。榊原英資・早稲田大学教授は“中国だけに接近するのは危ない”とし、「日本よ インドと手を組め」と説いています。
なお、『中央公論』の特集は、養老孟司・解剖学者の「東大よ、『世間』に背を向けよ」を巻頭とする「大学の敗北」です。小林哲夫・教育ジャーナリスト「学生を路頭に迷わせた『失敗』の履歴」が文科省の「失敗」と各大学の拡大路線を糾弾しています。
(文中・敬称略) |