月刊総合雑誌2010年3月号拾い読み (2010年2月20日・記)
小沢一郎・民主党幹事長関連の検察の動きを国策捜査とするのは誤りであり、むしろ検察官たちの青年将校化だと、佐藤優・作家・元外務省主任分析官は歳川隆雄・「インサイドライン」編集長との『世界』での対談(「小沢vs検察 “権力闘争”を超え、民主主義へ」)で分析してみせています。「検察は、国家の主人は官僚」と考えているのであり、一方、小沢側は、「政治家が全部運営するべき」と考える、その両者の対決なのです。佐藤は、同主旨を『中央公論』(「石川議員が僕に語ったこと」)でも展開しています。
上杉隆・ジャーナリスト「歪んだ検察・新聞こそ悪質」『ボイス』は、記者クラブメディアにより、「小沢史観」ともいうべき思考停止の権力報道がまかり通っていると問題提起しています。記者クラブ制度を否定する小沢に、既存のメディアは、批判的になり、検察のリーク情報に乗ってしまっているのです。いわば「官報複合体」が形成され、永田町で起こる事柄をすべて小沢に起因するという見方が横行することになっている、とのことです。
小沢には政治家としての「器量」が欠落していると、福田和也・文芸評論家・慶應義塾大学教授「小沢一郎のちいさな『器量』」『文藝春秋』は論難しています。福田は、さらに『ボイス』に「小沢スキャンダル―『政治ごっこ』は悲劇を迎える」を寄せ、「スキャンダルが、国民にいよいよ大きなアパシーを、無力感、絶望感を生むのではないか」との恐れを表明しています。
立花隆・評論家には、「小沢はとっくに死に体と映っている」とのことです(「『政治家』小沢一郎は死んだ」『文藝春秋』)。ただし、「小沢に対して、誰一人党内から正面切った批判ができないという現状は、自民党の歴史で最悪時代だった田中角栄闇将軍時代よりはるかに悪い」し、このまま推移すれば、「民主党全体が小沢とともに沈没しかねない」と警鐘を鳴らしています。
たしかに、『文藝春秋』の「『言わぬが花』民主党議員67人アンケート」は、民主党内で小沢支配が固められている様相を呈しています。
小沢に二十年も仕えた秘書や小沢の地元・岩手を取材し、「小沢の知らないカネの流れなどありえない」と難じ、「特捜部の捜査がどう決着しようと、小沢が政界から去るべき時が来ている」と松田賢哉・ジャーナリスト「小沢先生は政界から去るべきだ」『文藝春秋』は断じています。
御厨貴・東京大学教授によれば、「小沢氏が後景に退くことは、土木国家というあり方を終わらせ、政党政治とカネが訣別する証しとしての象徴的意味を持つ」のです(「歴史的に見ても賞味期限が切れた小沢一郎」『中央公論』)。
『正論』は、高山正之・評論家などによる「小沢幹事長への退場勧告」を始めとする「総力特集 炎上! 小沢民主党」を編んでいます。花岡信昭・政治ジャーナリスト「これでも『小鳩』政権に日本を託せるか」は総理も政権党の幹事長も国家を統治する者としての「恥と矜持」を忘れていると斬って捨てています。
民主党内にあって小沢と距離を置くとみなされている玄場光一郎・衆院財務金融委員長が、『文藝春秋』で、後藤謙次・TBS「THE NEWS」アンカーの質問に答えています(「鳩山総理が決断すべきとき」)。玄葉によれば、「小沢さん一人に頼らなくてもやっていける体制を作り上げなければならない」のであり、鳩山総理は、「リーダーシップを国民の目に見える形で示すこと」が求められているのです。
野党・自民党の総裁の谷垣禎一が『中央公論』で外交政策を中心に鳩山民主党政権の政権運営を批判しています(「アジアの“公共財”日米同盟を基軸に保守政治を再生する」)。鳩山政権は、日米同盟に亀裂を生じさせ、「最も効率的・効果的」な安全保障政策の根底を覆すような危険な方向に歩んでいると危惧しています。
ケント・カルダー・ライシャワー東アジア研究所長「親日派の警告 日米同盟が崩壊する日」『ボイス』も、谷垣と問題意識を共有しています。「もし沖縄でアメリカが譲歩するのなら、日本が沖縄以外の場所で同盟への貢献を強める」というかたちで互いにとって満足のいく結果を求めるべきとのことです。
「みんなの党」の所属議員は衆参6人です。その党の代表の渡辺喜美による「わが第三極宣言」が『文藝春秋』にあります。渡辺は、民主党は小沢幹事長問題で大きく軋み、自民党には再生の機運が高まっていないとし、近い将来の両党内の分裂を見越し、新たな集団作りを目指すとのことです。
昨今の世情を踏まえ、『中央公論』は、「一億総不信社会」を特集しています。
内田樹・神戸女学院大学教授「日本は、『ふつうの国』にはなれません」は、「ふつうに核兵器をもって、戦争を外交の手段としてふつうに駆使できる、ふつうの国」になれない日本の矛盾を剔抉しています。日本は、明治維新以来、内的自己(内向きの自己)と外的自己(外向きの自己)に分裂してきたのです。そのどちらにも「針が振り切れないように、分裂しつつ均衡」を保ち、国民統合を果たしてきたのです。そのバランスが崩れています。参院選後、政界再編が起こる可能性があるとのことです。
結婚活動の略たる「婚活」という言葉が流行しています。この流行に、斎藤環・精神科医「『婚活』の限界はその見返り主義にあり」が取り組んでいます。「婚活」との言葉の登場・流行は功罪相半ばするようです。結婚への活動を促進しました。しかし、婚活のさいには、知り合う前に、相互にデータを知ることになります。このような間柄には疑問符がつきます。「付き合っていくうちにお互いのデータが分かってくる」関係は長持ちし、「データを先に知って、そのデータに興味を持って出会った関係」は壊れやすい、と斎藤は言います。
今の日本は、1970年代後半の西ヨーロッパに酷似していると姜尚中・東京大学教授「“ナンバー3”としての幸福論」は言います。西ヨーロッパは、スタグフレーションや政党の機能不全に悩んでいました。それらからEU共同体に帰属することにより脱却し、安定を取り戻しました。日本には、回帰すべき共同体は周辺にはありません。日本は、世界に君臨するトップでもなく、また、ナンバー2の地位は中国にとって代わられてしまいます。しかし、10倍を超える人口を持つ国にGDPで追い抜かれるのは当然でしょう。また、日本は中国にない「マチュア(成熟)」を有していますが、中国は日本のものづくりの複製はできても、マチュアまで到達できません。日本にとって大事なのは、「『ナンバー3の立ち位置』を確認し、あるべき方向性を探していくこと」と姜は説いています。
『ボイス』には、「景気回復を阻む5つの愚策を止めよ」があります。
まず、ロバート・フェルドマン・モルガン・スタンレー証券経済調査部長「『悪い円安』に直面する危険」が、国債の暴落による「悪い円安」を招いてはならないと提言しています。そのためには、財政再建に取り組みながら景気回復を図らなくてはなりません。その唯一の解決策として「需要喚起政策を規制緩和によって行なう」ことを提唱しています。たとえば、農業の分野では、農業委員会を廃止し、土地の取引の活性化をはかることです。
鳩山外交が日本の国力の基盤となっているアメリカとの貿易に大きな損害をもたらしかねないと、日高義樹・ハドソン研究所首席研究員「反米が引き起こす日本製品の不買」は心配しています。他の3篇は、池田信夫・上武大学教授「雇用規制で日本を見限る製造業」、飯田泰之・駒澤大学准教授「画餅の成長戦略より法人減税を」、鈴木亘・学習院大学教授「若者へさらに苛烈な年金負担」です。
さらに、『ボイス』は「特集U『経済成長』の風を掴む日本!」を編んでいます。巻頭で、竹森俊平・慶應義塾大学教授「外需主導こそ日本の強み」は、そのタイトルどおり、「内需型経済への転換」などは必要ないとし、ドイツ同様、輸出増を図るべきと提唱しています。大前研一・ビジネス・ブレークスルー代表取締役「新興国ビジネス・5つの攻略法」は、中国を始めとする新興国での日本企業の足場を探り、鉄道などに可能性ありとしています。
『文藝春秋』に第142回芥川賞発表があり、今回は「該当作なし」でした。候補作の舞城王太郎「ビッチマグネット」が掲載されています。
(文中・敬称略) |