月刊総合雑誌2010年5月号拾い読み (2010年4月18日・記)
「いわゆる『密約』問題に関する有識者委員会座長」を務めた北岡伸一・東京大学教授が、「密約」に関する検証結果を「安全保障の対米依存が生み出した『密約』の実像」『中央公論』で報告しています。岸内閣による1960年の安保条約改定時の@核持ち込みに関する、A朝鮮半島有事の際の戦闘作戦行動に関する、佐藤内閣時の72年沖縄返還時のB有事の際の核持ち込みとC現状回復補償費の肩代わりに関する、4つの「密約」が日米間にあったのです。
北岡の論考は、上の@ABの密約に限っての報告です。核搭載艦船の一時寄港をめぐっては、日米間に解釈の相違がありました。また、朝鮮半島有事の際は、事前協議を経ずして米軍は日本の基地を利用できるとの合意があったのです。さらに佐藤総理による「非核三原則」のうちの「持ち込ませず」は、実際とは違っていたようです。
北岡によれば、岸・佐藤による外交は、「密約」を含んでいた点が好ましくありませんが、冷戦下、日本は安全保障を米軍に依存せざるを得なかったのであり、「一概に否定しさることはできないように思われる」とのことです。
東郷和彦・元外務省条約局長は、3月19日の衆議院外務委員会で、日米密約に関して、参考人として証言しています。証言の背景には、日本の安全保障を第一に考えれば、核の「持ち込ませず」を外し、「持たず、作らず」にすべきだとの政策的思惑があったと、佐藤優・作家・元外務省主任分析官「密約を証言した東郷氏の真意」『中央公論』は解説しています。
沖縄返還交渉時、「密約」の存在を記事にし、国家公務員法違反に問われた西山太吉・元毎日新聞記者と、当時外務省アメリカ局長で、法廷では「密約はない」と証言していた吉野文六・元ドイツ大使が、事件後38年ぶりに会い、「沖縄『密約』とは何だったのか」との題で『世界』で対談しています。
吉野によれば、沖縄は「無償返還」とされていますが、実態は、日本側は「金だけで済むならば、むしろそれは喜んで払いたい」と考えていたのです。吉野たちの証言により有罪となり、記者生命を失った西山は「文書廃棄の実相を天下に示すことによって、民主的な情報公開、文書管理を前進させる糧にすべき」とし、かつ外交官が外交上の判断から機密をガードし、それをジャーナリズムが暴こうとする「そういう相対主義がビビットに生きている時に、初めて日本の民主主義が本当に機能するという視点をいまの吉野さんも持っておられると思います」と応じています。
日米関係がギクシャクしています。ダグラス・フェイス・元アメリカ国防次官(聞き手・日高義樹・ハドソン研究所首席研究員)「海兵隊グアム移転の真意」『ボイス』は、世界的な防衛体制の見直しのなかでアメリカは海兵隊をグアムに移転させますが、日本との協力体制を弱めようという意図はない、強化したいのだと強調しています。むしろ鳩山政権が米軍を沖縄から追い出そう、日米関係そのものを変えようとしているのではないかと懸念しています。
橋本内閣の沖縄担当総理補佐官として「普天間返還」に関わった岡本行夫・外交評論家・岡本アソシエイツ代表が「ねじれた方程式『普天間返還』をすべて解く」を『文藝春秋』に寄せています。96年、日米両政府が合意したのは、返還ではなく、普天間の海兵隊のヘリ基地を住宅密集地域から離すという「移設」だったのです。その移設先が決まっていなかったのです。あらためて沖縄県民の意向に沿うよう努めなくてはならないようです。
山口昇・防衛大学校教授「沖縄に米海兵隊が必要な五つの理由」『中央公論』は、基地の存在から生じる騒音や事故の危険、米兵による不祥事など平時の負担が目につきやすいが、有事において本来米軍によってもたらされる死活的な利益が等閑視されることを憂えています。今後、日米同盟の非対称性(日本は基地を提供するが、アメリカは青年の血を流す覚悟を持つ)をいささかでも是正し、同盟の「拡大均衡」をはかるべきと展開しています。
そのためにも、キャンプハンセンに移設すべきと小川和久・軍事アナリスト「普天間問題はこうやって決着するしかない」『中央公論』は提言しています。
小川によれば、「危険性の除去など負担軽減を実現し、米軍基地を増やすことなく問題を着地させ、それによって嘉手納以南の基地返還と海兵隊八〇〇〇人のグアム移転を実現し、心から謝罪している姿勢を示せば、少なくとも半数以上の沖縄県民は鳩山首相の県内移設案に耳を傾けるだろう」ということです。
なお、沖縄県選出の参議院議員である糸数慶子が、『世界』でインタビューにこたえていますが、その内容はまさしくタイトルどおり、「沖縄は“県内移設”を拒絶する」です。また、同じく『世界』には、防衛事務次官として沖縄に関わってきた守屋武昌へのインタビューもあります(「『政府案』に実現可能性はあるか」)。「シュワブ陸上案」に可能性ありとのことです。いずれにしましても、「周辺の住民の視点にたった施策、負担の公平を分かち合える施策」が必要です。
鳩山政権は日本を衰退させる、しかし、自民党は民主党批判票の受け皿たりえない、と新党が立ち上げられました。その決意のほどを、与謝野馨・衆議院議員・元財務大臣が園田博之・衆議院議員と連名で、『文藝春秋』で謳い上げています(「『たちあがれ日本』結党宣言」)。民主党政治を「悪しきアマチュアリズムによる権力の濫用」と斬って捨てます。政策目標は、日本の国際競争力を強化・増強し、国民が安心して生活できる社会を作ること、とのことです。
与謝野は、『中央公論』には「迫る財政破綻の危機 党利党略を捨ててあらゆる選択肢をとる」を寄せ、少しく詳しく政策を論じています。「財政再建の鍵を握るのは、税制の抜本改革、はっきり言えば消費税率の引き上げである」と明快です。
別方向からも新党が立ち上がります。「このままでは、日本は三年後には財政破綻する」、「コスト意識、経営感覚のまったくない民主党の政治を傍観するわけにはいかない」の義憤から、地方自治体の現役首長22人、首長経験者2人が集まって「『救国』新党」を立ち上げるのです。その結党宣言も『文藝春秋』にあります(山田宏・杉並区長、中田宏・前横浜市長、齋藤弘・前山形県知事「『首長決起』地方からの叛乱」)。具体的な政策は今後の課題としつつ、基本理念として日本再生のための三つの自立を説いています。つまりは、経済の自立、地方の自立、国家の自立です(党名、「日本創新党」と4月18日発表)。
みんなの党代表の渡辺喜美・衆議院議員は、『ボイス』に菅義偉・衆議院議員・自民党とともに登場しています(「われらが『天下獲り』戦略」)。菅は世代交代による自民党改革により態勢立て直しをはかり、渡辺は次期参議院選で民主党に過半数を取らせず、各政治勢力を結集し政権を取るべく努め、その過程で「政界ビッグバン」をめざすとのことです。
塩野七生・作家「悪をもって悪を制す」『ボイス』は、歴史上の人物を引き合いに出し、現代のリーダーの「面構え」を取り上げ、迫力があり、胆っ玉が据わっているのは小沢一郎であり、「彼にこそ日本を引っ張るリーダーになってもらい、存分に剛腕を振るわせたらいい」と大胆です。国民は映画「七人の侍」にみる百姓として、小沢を始めとする政治家を使いこなせばよいのです。
『文藝春秋』には、小沢を批判した廉で一時は民主党副幹事長職を解かれた生方幸夫による「手負いの独裁者『小沢幹事長室180日』」があります。生方は、「今や、国民の四人に三人が小沢幹事長辞任すべしの意見を持っている」と、小沢にあくまでも批判的です。
村上春樹の『1Q84』BOOK3(新潮社)が4月16日、発売され、即座に80万部まで増刷が決定しました。あらためて村上作品の人気のすごさを知らしめました。村上作品は国内だけでなく、40ヵ国で翻訳され、世界中に読者を有しています。この稀有な作家の魅力に迫るのがジェイ・ルービン・元ハーバード大学教授・翻訳家「『1Q84』翻訳者が語る村上春樹」『文藝春秋』です。「読みやすいし、文章がシンプルである。人生とは何かという真に基本的な疑問について書いていながら、人生について何かミステリー的な感覚を覚えさせる」と分析し、村上は早晩ノーベル賞を受賞するだろうと予想しています。
(文中・敬称略) |