月刊総合雑誌2010年8月号拾い読み (2010年7月20日・記)

 民主党が大敗した参議院議員選挙(7月11日)前後に、総合雑誌8月号は店頭にならびました。塩野七生・作家「民主党の圧勝を望む」『文藝春秋』は、政権安定のため、民主党が参院選で絶対多数を制することを望んでいました。そうでないと、「諸外国からは軽蔑の眼でしか見られていない」現状を打破できないからなのです。塩川正十郎・元財務大臣「日本は『宰相不幸社会』だ」『文藝春秋』も、「一国の総理をころころ変えるような政治がこの先も続けば、日本は滅びる。短命政権の連鎖は確実に国民の政治不信を強めている」と憂えています。

 半藤一利・作家×保阪正康・ノンフィクション作家×松本健一・麗澤大学教授「日本に二大政党制は無理」『中央公論』で、半藤は、昭和初期から戦争に至る時期と昨今の状況は近似しているとし、「二大政党制、小選挙区選挙は、日本の政治風土に合わない」とし、「戦前と似た政治状況が悲劇的な結果に結びつく」ことを心配しています。
 総理が代わっても日常生活に差し支えがない日本社会は、安定感のある「抜群の社会である」と評価しつつも、「もう少し、らしい政権をつくり、らしい政権運営」を望むのが、佐々木毅・学習院大学教授「『苦さ加減』の選択を受け入れよ」『中央公論』です。政治は本来、「何を切り捨て、何を実行するか」という苦い選択の連続であり、国民にも「苦さ」がそれなりに残らざるをえない、と佐々木は説いています。

 野中広務・元内閣官房長官×立花隆・評論家×(司会)後藤謙次・政治コラムニスト「小沢一郎の逆襲はあるか 墓場まで持ってゆく秘密」『文藝春秋』で、野中は、小沢一郎を縦横に論じ、いくつかの秘密を明らかにしています。例えば、小沢は、心臓にペースメーカーを入れていないし、実際は相当健康体とのことです。野中によれば、「英国へ治療と称して、頻繁にゆき、付き添いは側近だけ。そして、カジノ。それにわけのわからない不動産と政党助成金を狡猾に盗んだ蓄財。これだけでも国税は十分に調べる価値はある」のです。「少数でも自分の政党を作ればその分の政党助成金は手に入れることができる。小沢さんはそういう計算をする男ですから」とし、「悪魔は不死身ですよ」とまで言い切っています。

 一般消費税の導入の必要性を真っ先に説いたのが大平正芳首相です。生誕百年、没後三十年にあたり、大平再評価の気運が高まっています。辻井喬・作家×国正武重・政治評論家×森田芳子・大平正芳長女「消費税増税なら大平正芳に学べ」『文藝春秋』が、クリスチャン政治家・大平の高潔さ、大平ブレーンたちの先見性、大平を介しての田中角栄像等々を語り合っています。森田によれば、「吉田茂ブームも、死後三十年してからだった」のであり、「三十年前には、こうやって父が見直されるなんて、夢にも思いませんでした」とのことです。

 大相撲は野球賭博のスキャンダルで大変なことになりました。橋本治・作家「角界を揺るがす力士の『余暇』問題」『中央公論』は、太る必要のある力士たちは余暇時間が必要であり、そのおり闘争本能を刺激する娯楽を必要とし、そのため賭博は「当たり前の日常風景になってしまうのかなァ」と推測しています。
 暴力団と大相撲の関係を歴史的、かつ構造的に描いているのが、大相撲を考える記者の会「深層 角界の『黒い霧』」『文藝春秋』です。相撲が興行である以上、暴力団関係者に世話になってきたのは事実であり、賭博という違法行為による貸借が八百長相撲につながる惧れがありそうです。また、怪我などで角界から去らざるを得なくなる若者たちの再就職問題を解決しなくてはなりません。

 ワールド・カップ・サッカーはスペインの優勝で終わりましたが、日本のサッカー報道には批判精神が欠如している、と上杉隆・ジャーナリスト「日本のスポーツ報道は異常?」『ボイス』は慨嘆します。「応援一辺倒になり、敗退したときの検証を怠ってきたことが、日本のスポーツが世界で通用しなくなっている一つの理由であることに、そろそろ気づいたらどうだろうか」と提言しています。
 とにもかくにも、ワールド・カップでの日本チームの活躍ぶりをひるがえり楽しむには、『中央公論』には宇都宮徹壱・写真家・ノンフィクションライター「岡田JAPANを救った“ギリギリでの新旧交代”」があり、『文藝春秋』には「中田英寿 攻める日本に明日を見た!」と本田弘幸「弟・本田圭佑 南アからの第一声」があります。本田弘幸によれば、弟・圭佑の目標は「レアル・マドリードで背番号十番をつける」ことだそうです。

 「長年にわたる鳩山由紀夫という人物との個人的親交」がある寺島実郎が、『世界』の連載「脳力のレッスン」に「日米同盟は『進化』させねばならない」を寄せています。今後、進めるべきは、第一段階としては、「プラットフォームとしての『日米戦略対話』の実現」で、「外務・防衛だけではない経済閣僚を含む閣僚レベルでの日米戦略対話の仕組みを実現し、経済と防衛の二本立てでの包括的同盟関係の未来像を構築」すべきとのことです。第二段階は「在日米軍基地の『抑止力』の吟味と基地の『共同使用』化への移行」です。「目的を終えたと合意できる基地・施設の返還を実現」し、米軍基地を可能な限り「日本側が管理権を持ち、抑止力のために米軍が駐留している共同使用基地」に移行させるのです。第三段階は、「『基地無き日米同盟』と適正な自主防衛構想の確立」です。「基地を削減しつつ東アジアの安定と信頼できる日米同盟に進化させる」べきだと提唱しています。
 寺島は外務省と防衛省に批判的です。二省の実務官僚には「アメリカの意向への配慮」があり、二省では政治主導が機能していないとのことです。その実務官僚たち(谷内正太郎・前外務事務次官×山口昇・防衛大学校教授×谷口智彦・元外務省外務副報道官)が『中央公論』で「ポスト冷戦期の日米同盟の耐久性」と題して座談会を行っています。谷内によれば、鳩山政権は「野党マインドのまま国政を担わざるを得なかった」のですし、「官僚というプロフェッショナル集団を活用しようとせずに、むしろ遠ざけ」てしまったのです。山口は国際関係にあって日本が自信喪失していると同時に、責任をも放棄していることを問題視しています。谷口は日米のゴタゴタをアジア諸国が心配している、日米同盟五十年、それが「アジアの屋台骨になっている」ことを忘れないでほしいと結んでいます。

 「第1四半期のGDPは年率換算で5%増」、しかし「踊り場で足踏みすることなく、実感ある景気回復を成し遂げるためには何が必要か」と『ボイス』は、「総力特集 日本経済『完全復活』への道」を編んでいます。
 巻頭は、大前研一・経営コンサルタント/ビジネス・ブレークスルー代表取締役「四千兆円の投資マネーで東京に大建設ブームを!」です。大前は、世界には不要不急のお金が八千兆円あり、その半分を呼び込むような強固なビジョン、つまりは「百年前のニューヨーク、二百年前のロンドン、三百年前のパリのような都市作りを行なう」という開発プランを世界に向け発信せよと気宇壮大です。
 佐々木則夫・東芝社長は、片山修・ジャーナリストに応え(「原子力も半導体も正攻法で勝つ」)、「日本企業は、高い技術力を活かし、正攻法のビジネスを展開していくべき」としつつも、「為替や法人税などの問題を解決しないかぎり、海外に拠点を移す企業が増えていくのではないでしょうか」と、日本国内にあって、利益率をあげ、世界レベルの競争力を実現する困難を吐露しています。
 野中郁次郎・一橋大学名誉教授×遠藤功・早稲田大学教授/ローランド・ベルガー会長「日本企業よ、モノづくりに“身体性”を取り戻せ」は日本型イノベーションを興す方法を模索します。遠藤は(日本には)「誇るべき暗黙知」、「現場力という強み」があり、それらを活かすべきと説きます。野中の表現では、「頭だけではなく全五感を駆使し、周囲と対話し、『働きながら考え抜く』」こと、つまりは“身体性”を取り戻すべきとなります。
 他に、本間充・三洋電機副社長×伊藤元重・東京大学教授「電池は世界一でなければ儲からない」、金子哲雄・流通ジャーナリスト「新たな市場の創造で、いま高級品が売れている」、原田泰・大和総研専務理事「金融緩和すれば“レの字”から“V字”回復に向かう」、猪瀬直樹・東京都副知事「自治体の『インフラ力』を成長戦略に活かせ」があります。

 

(文中・敬称略)

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