月刊総合雑誌2012年6月号拾い読み (2012年5月20日・記)
1972年5月15日、沖縄の施政権が米国から日本に返還されました。それから40年の節目にあたるため、『世界』は「沖縄『復帰』とは何だったのか」を特集しています。
巻頭の新川明・ジャーナリスト「みずからつくり出した矛盾に向き合う」は、「復帰40年」との表現に違和感・抵抗感を表明しています。沖縄にとっては、かつては琉球処分=武力併合、そして72年は再併合だったのです。尖閣諸島は沖縄の領土であり、「尖閣問題や基地問題を含めて沖縄の将来に関わる問題を考えるときの前提は、私たち沖縄人の自己決定権の確保である」と主張しています。仲里効・映像・文化批評家「交差する迷彩色の10日間と『復帰』40年」も、「『復帰』ではない、沖縄の『再併合』である」と明確に記しています。
西山太吉・ジャーナリスト「日米軍事力の一体化を見つめる沖縄」は、米国の国防戦略に常に日本は追随していると論難しています。また、山田文比古・東京外国語大学教授「沖縄『問題』の深淵」は、在日米軍基地を沖縄ばかりに負担させるのは沖縄に対する差別であると問題視しています。さらに安全保障観・脅威認識において、本土と沖縄との間にズレがあると指摘します。沖縄には武力による均衡というパワーポリテックスの考え方になじめない人は多いし、また沖縄の人々にとっては、中国に対しても一定の親近感を有しているので、「中国が脅威であり、そのために米軍の駐留が必要であるという考え方は、必ずしも共感できるものではない」とのことです。
前泊博盛・沖縄国際大学教授「40年にわたる政府の沖縄振興は何をもたらしたか」は、政府による「沖縄復帰プログラム」や「沖縄特区」制度が沖縄振興につながっていないと数字をあげて難じ、基地依存経済との認識は誤りであり、むしろ基地が沖縄の発展の阻害要因であると分析しています。
澤地久枝・ノンフィクション作家「『フロントライン』沖縄が逆照射する日本」は、「日本政府が自分たちの都合に合わせて沖縄を利用してきた」のであり、「日米安保の矛盾が沖縄に集中している」と指摘し、「日本の一部であるかぎり安保条約を適用せざるを得ない」から「沖縄独立という考えが出てくるのも当然だと思います」と展開しています。
5月初旬、稼働している原発はゼロになっていました。そこで、『世界』は第U特集として「原発ゼロの夏へ」を編み、井野博満・東京大学名誉教授「市民の常識と原発再稼働」、河野太通・僧侶「原発は仏の道とあいいれない」、アイリーン・美緒子・スミス・グリーン・アクション代表「また同じ破局への道に戻らぬために」などで、原発再稼働反対の論陣を張っています。
一方、同じ『世界』で、寺島実郎「脳力のレッスン」は、「『脱・原発』の論陣を張る『世界』において異質な論稿と受け止められるかもしれないが」とことわりつつ、「電源供給の二割程度を原子力で支える」べきと提唱しています。「日本のような『技術を持った先進国』は、多様なエネルギー供給を確保するバランスのとれた『賢明なベストミックス』を志向すべき」だからなのです。
エネルギー安全保障の観点から原発は必要だとするのが、中野剛志・京都大学大学院准教授「悪しき政治こそエネルギー安全保障の最大の脅威である」『中央公論』です。軍事的なものに限らず、エネルギーの安定供給も安全保障の重要な一角を担うので国全体に関わる問題であるから、地方自治体の権限に委ねるべきではないし、安易に発送電分離や脱原発を行うべきではないと力説しています。
宮家邦彦・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹×吉崎達彦・双日総合研究所副所長×渡部恒雄・東京財団上席研究員「イランが導火線となり、世界の核不拡散が幕を開ける」『中央公論』は、イランや北朝鮮が核武装し、核の拡散が起こる危険性を論じています。日本がとるべき戦略は、従来と同様、核は持たないが、核兵器を造るだけの基本的能力は持っていると他国の思わせることだそうです。佐藤優・作家・元外務省主任分析官「鳩山イラン訪問の大失態」『中央公論』は、鳩山由紀夫元首相がイラン要人と会見したことを「悪い二元外交」の典型例として厳しく論難しています。
リチャード・ローズクランス・ハーバード大学教授ほか「『新しい西洋』を主導するのは日本だ」『中央公論』によれば、日本外交は展望が開けそうです。現時点の「新しい西洋」とは、EU、NATO、米国、豪州ですが、それとの一体化を図れば、日本は世界の潮流を変えられるのです。「日本の技術があれば、比較的少ない軍事費でも、十分な防衛力を維持できるかもしれない」ので、事実上の国家連合体によって、平和を可能にする戦略的一体化を実現できる可能性があるのです。
外交には会議がつきものです。『中央公論』は「会議の政治学」を特集しています。日本では二国間交渉の観点で外交を論ずる傾向があります。しかし、山崎正和・劇作家・評論家「会議は劇場、言葉が勝負する」は、映画『会議は踊る』で有名な「ウィーン会議」を例にあげ、国際会議の有効性と外交における言葉の重要性を強調しています。TPP交渉参加交渉などにさいしては、「自己の弱点を露わにする対立を避けて、問題を一段高次元の争点に引きあげて論争する戦略」をとるべきとのことです。たとえば、国民健康保険完備をTPPの共通制度にするよう提案すればよいのです。米国などは制度化の引き延ばしを求めざるをえないので、他の面での見返りを求めることができるとのことです。
この特集には、伊奈久喜・ジャーナリスト「影薄れるG8サミットと日本の首相の存在感」、細谷雄一・慶應義塾大学教授「世界史を動かした会議と宰相たち」もあり、簡便な外交史の教科書となっています。
稲盛和夫・JAL名誉会長×飯田亮・セコム創業者×牛尾治朗・ウシオ電機会長×數土文夫・JFEホールディングス相談役「日本経済復興会議2012」『文藝春秋』は、「社長の顔つきが悪い」、「言い訳が多い」などと昨今の経営者を叱り、低迷を続ける日本経済の主因は多くがひ弱になったからだと慨嘆し、日本人に奮起を求めています。
『ボイス』の総力特集のタイトルは「日本経済の大復活が始まる」です。
柳井正・ファーストリテイリング会長兼社長「グローバル競争の現実をまず直視せよ」は、ユニクロの事業展開を紹介し、日本の経営者の代表者としての矜持をもって、経営者としての心得を説いています。アジア市場は急成長しているのですから、地理的優位から日本は「ゴールドラッシュ」にあり、成長を諦めたら「早すぎる死」が待っているだけです。また、成功体験に依拠していてはなりません。成功しているときこそ、自己否定の精神が大切なのです。
「総力特集」には、澤上篤人・さわかみ投信代表取締役会長「新たな個人投資家が株価を牽引」や藤井聡・京都大学教授「巨大地震に備え『国土強靭化』投資を」など、「10大提言」が付されています。タイトルから想像できるように、日本経済の大復活が始まっているわけではなく、10大提言が実現されれば大復活が期待できるとの企画です。
『文藝春秋』には、藤吉雅春・ノンフィクションライターによる「橋下徹が『総理』になる日」と題する人物研究があります。藤吉によれば、「橋下は、さながら大衆の圧倒的な人気を得た毛沢東なのか」、「橋下の人気の高さは、理不尽な世の中でいかに人々が不満をもっているかの表れだ。彼が敵視すれば、ストレスに満ちた大衆のはけ口となる」、「そして文革で荒れ狂う紅自衛兵の姿が、あの敵視の声と重なっていく」とういことになります。
ただし、橋下の政見や政策は不明です。だからでしょうか、『文藝春秋』には、中西輝政・京都大学名誉教授「『中国観』を問う」、江崎玲於奈・物理学者「大阪は復活するか」など、橋下からの回答を待つという「『平成維新』12人の公開質問状」があります。
御厨貴・東京大学客員教授の表現によれば、“小泉現象“の後に続いたのが権力機構の自壊であり、橋下は「平成政治破壊の最終ランナー」となります(福田和也・文芸評論家、湯浅誠・反貧困ネットワーク事務局長との座談会「平成『世直し一揆』は成功するか」『文藝春秋』)。
(文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時) |