月刊総合雑誌2012年7月号拾い読み (2012年6月20日・記)
政府は6月16日、関西電力大飯原子力発電所3、4号機の再稼働を正式に決定しました。その1週間ほど前に店頭に並んだ月刊総合雑誌のうち、『潮』(桜井淳・技術評論家・物理学者「大飯原発の『安全性』を問う」)や『世界』(飯田哲也・環境エネルギー政策研究所所長「破綻した原発再稼働の論理」等)には、反原発・再稼働反対の論考が掲載されていました。
一方、『ボイス』は「総力特集 原発再稼働は正しいか」を編み、“再稼働やむなし”の論陣をはりました。
細野豪志・原子力発電所事故収束・再発防止大臣が田原総一朗・ジャーナリストのインタビューを受け、政府の事故対応の不手際を反省しつつ、原発利用の必要性を訴えています(「『原発をゼロに』といった極端な賭けはできない」)。
原丈人・アライアンス・フォーラム財団代表理事「世界の電力問題を日本の技術で解決せよ」は、福島第一原発での事故はGE製の「欠陥品」だったが故であり、GEに株主代表訴訟を起こすよう提言しています。他の原発は、新設計で事故は起きるとは考えにくいので、順次、再稼働させるべきとのことです。さらに、今後は、日本が先端的技術を有している地熱発電と石炭火力発電の分野で世界に貢献すべきであり、日本近海のガス資源の採掘をと展開しています。また、夜間電力の蓄電技術や電力の最適配分システムの開発をもって世界でリーダーシップを発揮する責務があると力説しています。
発送電分離をし、事業者と電力供給設備を増加させれば、競争により電力料金は安くなるとの電力自由化論に真っ向から反対するのが、山本隆三・富士常葉大学教授「電力『完全自由化論』の落とし穴」です。「小規模のものをたくさんつくるよりも、大規模のものをつくったほうがコストは安くなる」のですし、「総括原価主義で利益が保証されているから、電力会社は低い利益率でも我慢している」というのです。
『ボイス』の総力特集には、他に、藤沢数希・外資系投資銀行勤務「脱原発で日本人は金も命も失う」、村上憲郎・前グーグル日本法人名誉会長「通信会社が電力インフラを運用する時代」、澤田哲生・東京工業大学助教「福島原発“四号機が危ない”説は本当か」があります。澤田の論考は、福島第一原発の視察報告で、補強工事は順調なようです。
東日本大震災から1年余も経っているのに、被災地の廃材・瓦礫の処理がはかばかしくありません。山崎正和・劇作家・評論家「復興への提言 『善意』の制度化を図れ」『潮』は、「(日本人の)日常の利己心は岩のように根深いという現実」が露呈されたと問題視します。ボランティア・民間団体が活動しやすくなるような「善意を制度化」する社会設計と「国民自然災害保険」創設を呼び掛けています。この保険は、掛け捨て強制加入で、災害時の救援・インフラ整備・資材費・人件費に充当させるのです。山崎は、「国民の安全という要求から見れば、小さすぎる政府は百害あって一利なしなのである」と結んでいます。
『文藝春秋』の巻頭は、「何も決断できない議会制民主主義。こんな日本に誰がした」との惹句を付した座談会(御厨貴・東京大学客員教授×船橋洋一・ジャーナリスト×松本健一・作家・麗澤大学教授×福田和也・文芸評論家・慶應大学教授×保阪正康・ノンフィクション作家×後藤謙次・政治コラムニスト「平成政治24年亡国の『戦犯』」)です。
後藤によれば、日本の政治が劣化・弱化したのは、小泉純一郎元総理が日本政治を破壊し続けたからです。福田は、国家観なく、自らの権力維持のため政治を矮小化させた小沢一郎のほうが罪が重いと断じています。船橋は、外交面から、海部俊樹・鳩山由紀夫両元総理を難じています。御厨は、中曽根康弘の竹下登への後継指名、小渕恵三から森喜朗への密室決定、小泉から安倍晋三への禅譲の三つの政権引き継ぎが、国民の政治不信を招いたと指摘しています。松本によれば、「二世議員の資質」なのか「最高権力者として血みどろの戦いをするような政治家はいなくなった」のです。松本は、菅(直人・前総理)については、「市民運動家で、国家統治という発想がない」と語っています。保阪による結びは「民主・自民が主導権争いや党内抗争に明け暮れるならば、議会制民主主義をふみにじるような“強いリーダー”への雪崩現象が起きる危険性がありますね」です。
イタリアでは、マリオ・モンティ内閣により次々と新政策が打ち出されています。そこで『文藝春秋』で、ローマ在住の塩野七生・作家が、佐々木毅・学習院大学教授と「イタリアに出来ることがなぜ?」との問題意識のもと、対談しています(「日本はなぜ改革できないのか」)。
塩野は、「(政治家が)大命題を掲げ、問題を単純化した上で、具体的な政策に優先順位をつけて提示する」ことができない現状を慨嘆し、「終戦直後の原点に戻って、まずは問題を単純化してはどうでしょうか。その上で優先すべきものを決める」ようにすべきとし、日本の安定を求めています。それこそが、混迷する世界に対する最大の貢献になるとのことです。
『文藝春秋』は、三人の若手政治家にインタビューしています(「民主、自民ニューリーダが考えていること」)。玄場光一郎・外務大臣は「ポピュリズムとの訣別を」、石破茂・自民党衆議院議員・元防衛大臣は「政治家の国民不信が諸悪の根源」、林芳正・自民党参議院副会長・政調会長代理は「自民も民主も解体が必要だ」とのタイトルで登場しています。
政治不信・リーダー不在のもと、橋下徹・大阪市長たち大阪維新の会への期待感が高まっています。渡辺喜美・みんなの党代表は、自らの党のアジェンダと維新の会のそれは多くが共通するとし、国政選挙でも協力していくと、『ボイス』での飯田泰之・駒澤大学准教授との対談で明言しています(「『維新の会』とともに政界ビッグバンを起こす」)。
もっとも、上の『文藝春秋』の巻頭座談会は、「(橋下たちが国政に姿をみせたとしても)政治家として無能なチルドレンという存在を国民が受け入れられるかどうか」との後藤の発言にみられるように、否定的です。菅原琢・東京大学特任准教授「大丈夫か?維新の会の政策能力」『ボイス』も、「地方政治家として得られる政策形成体験は、質的にも量的にも国政に劣る。したがって、いまの一地方の政治家集団にすぎない大阪維新の会を、そのまま国政にもってきたところで、まったく役に立たないことは目に見えている」と斬って捨てています。
石原慎太郎・作家・東京都知事が「尖閣諸島という国難」を『文藝春秋』に寄せ、尖閣諸島の都による購入を決意した経緯を詳述しています。無能な民主党政権が誕生し、尖閣諸島について無知と主権意識の欠如をさらけ出した鳩山(初代)総理の発言により、中国が潜水艦の領海内海峡の無断通過、度重なる領海侵犯や工作船の保安庁巡視船への体当たりという愚挙を繰り返すようになったからだそうです。「さらにシナの政府は最近、尖閣における日本の実効支配を壊すために果敢な行動をとる、そのための艦船を含めての器材の充実を計ると明言したことによる。これは彼等の今までの行動を見ても決してはったりでありはしまい」と断じ、「それへの対処に地主の意向を確かめ、あの島を日本の固有の領土として守るために代償を払ってあの島々を国家の財産として保有することは本来は国家の責任、国の仕事に他なるまいが」と続けています。しかるに、外務省・日本政府がなんら動かないので、「盗まれようとしている貴重な国土と資源を守るために、緊急に他の誰が何をすべきなのかを教えてもらいたい」、「日本の心臓部であり頭脳部でもある東京の、国民でもある都民のためにもと私は信じているのだが」とのことです。
尖閣を行政区域とする沖縄県石垣市長の中山義隆が『正論』でインタビューに応じ、石原の計画に全面的に賛成と表明しています(「石原構想に全面協力 尖閣は我らが守る」)。
『中央公論』には第13回「読売・吉野作造賞」発表(竹内洋『革新幻想の戦後史』)があり、『潮』では第15回「桑原武夫学芸賞」発表(西尾成子『科学ジャーナリズムの先駆者 評伝 石原純』)がありました。
(文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時) |