月刊総合雑誌2012年9月号拾い読み (2012年8月20日・記)

 『文藝春秋』は「日本人の『最後の選択』」を特集として編み、その巻頭に「『総理候補』22人を採点する」を掲げています。永田町・霞が関で政治家や官僚を取材している新聞・テレビなどの政治部・経済部の記者70人へのアンケート取材の結果です。
 トップはわずか当選一回の小泉進次郎(自民党)です。将来への期待大といったところ。現在首相を務める野田佳彦(民主党)は平均点では二位でしたが、総得点では最多でした。以下、細野豪志(民主党、原発担当相)、石破茂(自民党)、橋下徹(大阪市長、大阪維新の会)と続きます。結局、この記事の結びにあるように、実績のない一回生や支持率の高くない首相が上位を占めたのは、「『永田町の人材不足』を如実に表している」のでしょう。
 巻頭に続く座談会は、片山義博・慶應大学教授・前総務大臣×御厨貴・東京大学名誉教授×後藤謙次・政治コラムニスト「谷垣自民に国家を託せるか」です。御厨は、谷垣に対しては、この三年間、「野党の総裁として、何一つメッセージ性のある主張を打ち出せていない」と厳しいものがあります。片山も国民は民主党だけではなく、「変わることができなかった自民党にも物足りなさを感じている」と応じています。後藤は、人材枯渇が自民党下野の大きな理由のひとつなのですが、その状況は改善されていない、と指摘しています。

 日本政治は、野中尚人・政治学者による『中央公論』での時評のタイトルどおり、「チルドレンが蔓延り政党は溶解する」かのようです。
 既存政党に期待できないと、政治塾が大流行しているようです。そこで、「政治家は『塾』で育つか」を『中央公論』が特集しています。ここでも片山義博が飯尾潤・政策研究大学院大学教授と対談しています(「“まともな人”が政治家になれない理由」)。両者は、政党が政治家を育成するシステムを有していないし、政治家志望者のみの政党のあり方を憂えています。また、政治家を促成栽培しようとしている政治塾は既存政党と同じ過ちを犯していると難じています。
 政治塾がまさしく「大学合格に向けて受験生を鼓舞し、必勝のノウハウを授けている大手予備校と似ている」ことを、祝迫博・読売新聞記者「橋下『維新塾』に群がる人々」が詳述しています。 八幡和郎・徳島文理大学教授「野田、前原……松下政経塾出身者 七つの欠点」によりますと、現職の国会議員だけでも38人を出している松下政経塾は、「官僚政治家の時代」を終焉させ、「地方政治家と世襲政治家の時代」をも克服したのですが、「素人政治家の時代」を招来したのです。他の政治塾よりも傑出しているとしても、やはり「政治家の促成栽培機関」でしかないのです。豊かな職業体験を有する人のための塾や、東京大学法学部の教科や各省庁のトレーニングの改善、さらには「様々な政治塾で政治に目ざめた人が、しっかりした職業経験をしたうえで、満を持して政界に進出する」コースを八幡は勧めています。

 上記のように「維新政治塾」の評価は高いものではありません。そこで、この塾を主宰する大阪維新の会が正しく理解されていないと、堺屋太一・作家「橋下維新 すべての疑問に答える」を『文藝春秋』に寄せています。堺屋は、大阪維新の会を幕末の長州の「奇兵隊」になぞらえて説明します。大阪で統治機構の変革を実現し、その変革を日本全体へと広げていく、ということになります。

 谷垣禎一・自民党総裁が『ボイス』での篠原文也・政治解説者との対談に登場しています(「国土強靭化基本法案は決してバラマキではない」)。国土強靭化基本法案は、大規模災害への備えと、消費増税によるマイナス経済成長を避けるためのとのことです。谷垣は「自分はみんなの意見をよく聞いて、そのうえで腹を固めてドーンとやるタイプ」とのことですが、その内実は、この対談を読む限りでは、把握しづらいものがあります。
 上の谷垣は、消費増税を懐疑しての「財務省に騙された日本」と題する総力特集の一環です。総力特集の巻頭は、柳井正・ファーストリテイリング会長兼社長「世界最低の『官僚社会主義』と訣別せよ」。ユニクロなどで有名な柳井は、海外展開を当たり前に行ない、「(日本ではなく)日本でも服を売っている会社」を経営する立場から、国家財政が破綻の危機に瀕していると警鐘を鳴らしています。政府による整備新幹線や自民党の国土強靭化基本法案は「国家的犯罪」とまで難じ、「社会主義的な分配を繰り返して借金を積み重ねていくような国家運営は、もはや限界にきている」と憤っています。
 松下政経塾を創設したパナソニック創業者・松下幸之助は、柳井と同種同様の危機感を28年前に表明していました。その論考「危機感なき日本の危機」が「再録 国費5割カット、効果5割増の改革」と改題され、掲載されています。

 櫻井よしこ・ジャーナリスト×富坂聰・ジャーナリスト「尖閣『日中戦争』の修羅場」『文藝春秋』で、富坂は石原慎太郎・東京都知事の尖閣諸島購入宣言は「あまりにもまずい」と論難しています。彼によれば、「いちばん賢いやり方は、黙って国有化して、海上保安庁の船が着けるような港を整備」することです。富坂は、中国との正面衝突を避けていき、「問題解決は中国の内政がゆらぎ初めてからでもいい」と展開しています。「そこまで待つのは日本のためによくない」とする櫻井は、「中国に対しては言うべきことを堂々と言って、民主化を応援しましょう。同時に日本人は、どうしても必要とあらば闘う覚悟と冷徹さを持たなければなりません」と熱く説いています。
 「中国の意図は、尖閣諸島周辺海域で騒ぎを起こして、日本の関心を尖閣諸島に向けさせておいて、西太平洋に進出することにある」と分析する平松茂雄・中国軍事研究家「西太平洋の『中国の海』化を阻止せよ」『ボイス』は、中国の軍事力拡大に対応しての米国の方針転換とそれに伴う日本の役割を論述しています。「米国の空母機動艦隊が自在に行動できるように」しなくてはならないし、「空母艦隊と行動を共にして、西太平洋を守らねばならない」のです。
 同じ『ボイス』の日高義樹・ハドソン研究所首席研究員「沖縄を戦略的に必要としなくなったアメリカ」は 、アメリカが構築に取りかかっている「空と海の闘い」と称する先端兵器による対中国戦略を解説しています。「中国の戦略が強化され変化すると同時に、沖縄の基地を維持することが難しくなった。そこで『空と海の闘い』という構想が生まれ、ミサイル基地や潜水艦基地に対する攻撃や特殊部隊による攻撃がアメリカのアジア戦略の中心になった」のであり、だからこそオスプレイが重要になってきたのであり、「国の安全を自らの力で守る体制を早急に確立する必要がある」とのことです。
 前原誠司・民主党政策調査会長は、『ボイス』での飯田泰之・駒澤大学准教授との対談「拙速なオスプレイ配備は日米同盟を毀損する」で、日米同盟重視論者と自認し、今後も日米同盟を強化しなくてはならないし、日米安保が大事だからこそオスプレイの安全性の確保が重要なのだと力説しています。

 大津市で痛ましい事件が生じました。しかも、自殺から9ヵ月もの間、実態調査が伏せられてきました。その謎・真相に迫るのが、森功・ノンフィクションライター「大津いじめ自殺 父の壮絶な闘い」『文藝春秋』です。アンケート調査の結果を受け取っていながら、個人情報が含まれているので部外秘とするとの確約書が大きな壁となっていたのです。しかし、民事裁判が開かれ、岐阜県から傍聴に駆け付けた、いじめで娘を亡くした男性によるアドバイスが功を奏したのか、その後のマスコミ報道により事態が大きく動いたのです。  滝沢清明・読売新聞大津支局長「大津いじめ自殺の取材現場から」『中央公論』によれば、「教諭たちはいじめに気付いていたはずだと思っている生徒は少なくない」のです。滝沢が問題提起するように、学校、地域、保護者、そして報道が共に考えていく必要があります。

 『文藝春秋』には116頁にも及ぶ、五木寛之・作家「平壌を遠く離れて」などによる「完全保存版 太平洋戦争 語られざる証言」があります。「本当につらいことは容易には言葉にならなかった。戦後六十七年。ようやく語られる新証言、語り継ぐべき体験談―」とのことです。また同誌には、第147回芥川賞発表(鹿島田真希「冥土めぐり」)があります。
 

(文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時)

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