月刊総合雑誌2012年10月号拾い読み (2012年9月20日・記)

 1972年9月29日、日本と中国は「共同声明」を発しました。今年はそれから40周年にあたります。しかし、尖閣諸島などをめぐり、日中間の溝が深まっています。そこで、『世界』は副題に「対立を越えるために」を付し、「日中国交回復40年」を特集に編んでいます。
 巻頭は、河野洋平・日本国際貿易促進協会会長・元衆議院議長へのインタビュー(「日本外交に理性と誠実さを」)です。尖閣諸島は日本が実効支配し、現状を維持することになっていたのを、石原慎太郎・都知事が領土問題として可視化してしまったのであり、また国有化も現状維持から逸脱することになる、とのことです。つまり、河野によれば、「日本側の一連の行動が問題を複雑にしてしまっている」のです。
 1970年代の中国外交では外交部系統と文化大革命で台頭してきた上海グループの激しいせめぎ合いがあり、「日中及び中国・西独国交正常化は、文化大革命で外交不在という状況に陥りながら、再び外交の立て直しがやや進み、周恩来が外交的な力を揮えた一九七二年だったからこそ実現できたのではないか」と石井明・東京大学名誉教授「日本と西独を競わせる」は分析しています。

 莫邦富・作家・ジャーナリスト「『中日関係』という建築物に耐震工事を」は、「築年数が四〇年となった中日関係というビル」は「耐震構造の追加工事や修繕工事を行わなければならない」と指摘します。両国民の相互訪問やソフト面での交流の促進が基本工事となるとのことです。
 「歴史問題即ち歴史認識問題と領土問題については、曖昧な戦後処理のまま残されてきた」と、劉建平・中国伝媒大学副教授「日中関係は『不正常』な状態が続いている」は、問題提起し、「国交正常化の原点に戻り、『紳士協定』や『暗黙の了解』で片づけておかずに、平和友好条約を守ることを改めて誓い、共同研究と外交交渉を始めよう」と展開しています。
 馬立誠・評論家「私は『対日新思考』を堅持する」(聞き手=本田善彦・ジャーナリスト)は、「中国と日本は、独仏関係を一つの目標」にし、「(日中両国にとって)主権を巡る争議を棚上げし、共同で開発する、というケ小平路線が最も合理的だと思う」と説いています。
 猪間明俊・石油資源開発元取締役×金子秀敏・毎日新聞専門編集委員×石川一洋・NHK解説委員「いかに『領土』を超えるか」は、タイトルが示すように、尖閣・竹島・北方四島をめぐる主権の角逐を超えて、日中韓ロによる資源・環境・エネルギー共同体構築の可能性を探る座談会です。日本にとりエネルギー政策はきわめて重要なのですが、残念ながら、グランドデザインが欠如しています。

 ここで、『世界』の特集から離れます。
 鈴木美勝・時事通信解説委員「三正面作戦を強いられる日本、中ロの接近を阻め」『中央公論』は、日韓関係は韓国の次期政権との関係改善に期待し、当面は、中ロ両国の協力深化を阻止すべきとし、かつ尖閣問題は「百年にわたる外交戦を覚悟し、あらゆるシナリオに対応できるように備えておかなければならない」と強調しています。もとより、「短兵急な強硬論では意味がない」のです。
 『中央公論』では、竹島に李・韓国大統領が強行上陸した理由に、佐藤優・作家・元外務省主任分析官「プチ帝国主義化する韓国」が取り組んでいます。李大統領は「韓国が生き残るためには、日本との関係を根本的に変える機会が到来したと見て、対日攻勢をかけ」てきているのであり、「自己の要求を最大限に行う。それに相手国が怯み、国際社会が沈黙するならば、帝国主義国はそれに乗じて権益を拡大していく」のです。日本は、竹島問題を国際司法裁判所に付託し、紛争があることを国際社会に認知させればよいのです。佐藤によれば、尖閣に関しても、「中国が領土問題を提起してくるならば、日本はそれを拒否せず堂々と協議し、その上で尖閣諸島が歴史的、国際法的に日本領であると説明すべきだ」となります。

 『文藝春秋』には、「反日包囲網を打ち破る日米韓31人の提言」との惹句を有した「韓国、中国『領土紛争』の深層」があります。
 ここでも佐藤優は、竹島を国際的に紛争であることを国際的に認知させ「帰属に関する外交交渉につかざるをえない状況に韓国を追い込むべきだ」と述べています。さらに、「日本は中国と堂々と交渉し、『尖閣は日本領である。日本国家の法的管轄に服さない上陸は認めない』という立場を伝えればよい」とし、「尖閣にインフラを整備し、実際に日本人が居住する状況をつくるべきだ」と論じています(「竹島・尖閣の表裏」)。岡本行夫・外交評論家も「日本政府はなぜ本格的な灯台や船着き場を建設して実効支配を強化しないのか」と説いています(「国家の責務の放棄」)。
 孫崎享・元外務省国際情報局長「まず歴史的事実から」によれば、「尖閣諸島は『日本固有の領土で領土問題はない』との立場は正確ではなく、日中間の係争地との観点で対処すべき」であり、「日本が領有権を確保しようと対応すれば中国も対抗手段をとる。尖閣問題では出来るだけ穏便に対応し、棚上げを継続することが日本の国益にかなう」とのことです。

 『ボイス』の総力特集は、「さらば、『反日』韓国」です。
 呉善花・拓殖大学教授×竹田恒泰・作家・慶應義塾大学講師「初の『親日』大統領だとなぜ誤解したのか」での呉によれば、「韓国人にはなんでも日本が悪いと思い込んでしまうところがある。それには『恨』という韓国特有の文化が大いに関係しています」ということになります。
 一連の領土問題や慰安婦問題、天皇の謝罪要求も、下條正男・拓殖大学教授「韓国側の術策にはまった民主党政権の大罪」は、文字通り、鳩山政権以来の民主党政権の失政・対応のまずさがもたらしたものと論難しています。一方、武貞秀士・韓国延世大学専任教授「すべて想定内の韓国、戸惑うばかりの日本」では、「(韓国は)日本の国際的な影響力低下を見抜いているのだ」し、「日本は反発できないとの読みがあったのだろう」ということになります。

 財界、労働界、学者6人(長谷川閑史・武田薬品工業社長ほか)による「『国会改革』憂国の決起宣言」が『文藝春秋』にあります。現在の国会運営のあり方を問題視し、総理・各大臣に時間的余裕を与える、法案審議の計画化と予算・財源法案のワンセット化、官僚の夜間待機からの解放など、三つを提言しています。

 また、『文藝春秋』には、「総理になってはじめてわかること」があり、4人の元総理が寄稿しています。森喜朗「質の悪い政治家が闊歩している」は、諸悪の根源は小選挙区制としています。村山富市も同意見です(「小選挙区制導入を今も悔やんでいる」)。海部俊樹「金丸さん、竹下さんと膝詰め談判した」は、衆参のねじれがあっても、「個人個人が信頼関係を結んで、腹を割って議論を重ねれば、必ず道は開けるはずです」と「対話の政治を磨いて欲しい」とのことです。安倍晋三「一院制も視野に入れて」は、政治の安定のため、三年ごとの「衆参ダブル選挙」の実施や、将来のこととして「一院制」や「参議院の選挙権は、各都道府県、市町長に与える」との方法も検討すべきと提言しています。

 「衆参全議員に公開質問状」『文藝春秋』によれば(回答総数96)、衆参の適正人数について最も多かった回答は衆院四百人、参院二百人です。次に多かったのは衆院三百人、参院百人です。一院制への移行賛成は半数を超えています。

 藤吉雅春・ノンフィクションライター「橋下徹という国難」『文藝春秋』は、話題の「維新の会」を斬って捨てています。「組織内に政策を審議していく仕組みがなく、幹部たちの決定事項が伝えられるだけ」とのことです。

 竹内洋・社会学者「『国民のみなさま』とは誰か」『中央公論』は、「大衆圧力の強度がおおきく、かつ及ぶ範囲が広く、恒常的である。大衆高圧釜社会が誕生したのである」と説いています。「ありのままの(と想像される)大衆」を「御神体に担ぐゲーム」=「大衆御神輿ゲーム」の効果で「愚民」や「B層」がつくられるようです。「(『B層』とは)『比較的IQが低い』『理解したいことしか耳に入らない』『マスコミ報道に流されやすい』人々といわれる層」のこと。昨今の社会状況を解析しようとする論考です。
 

(文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時)

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