月刊総合雑誌2015年2月号拾い読み (記・2015年1月20日)

 『中央公論』は、旧臘の衆院選の結果を踏まえ、「緊急分析 自民党よ、慢心するな!」を編んでいます。
 牧原出・東京大学教授は、「(政治に)中長期的な視点に立脚した骨太の政策」を、星浩・朝日新聞特別編集委員、橋本五郎・読売新聞特別編集委員との座談会(「巨大与党の『三〇〇まつり』が始まる」)で求めています。星によれば、外交では対中国、内政では財政赤字と少子高齢化への対応が大きな課題です。星は、“ニュー安倍”を期待しつつも、「巨大与党という態勢で慢心が見えたら、政権はあっという間にがたついてくる」と懸念しています。橋本も、「圧勝が、かえって内部のきしみや緩みを誘発し、結束力を弱める」惧れがあると警鐘を鳴らしています。
 小田尚・読売新聞論説主幹「『経済最優先』で足元を固めよ 長期政権への思惑の前に…」は、長期政権への地歩が固まりつつあるようですが、まさしくタイトルにあるように、「日本経済再生への諸課題を着実にこなしてこそ」のことと説いています。しかし、財政再建は、消費増税の日程を先送りしたことで、困難になっていると、吉崎達彦・エコノミスト「アベノミクスは前途多難な綱渡り」は指摘しています。
 『ボイス』は「新安倍政権に問う」を特集しています。
 高橋洋一・嘉悦大学教授×片岡剛士・三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員×小黒一正・法政大学准教授×萱野稔人・津田塾大学教授(司会)「景気回復、この道でOK?」は、消費増税を延期するかたちで解散に踏み切った安倍首相の判断の背景、つまりはアベノミクスを論じています。小黒は、経済成長のみで財政再建は限界があるとし、消費増税やむなしの立場ですが、高橋と片岡は、まずは経済成長による増収を重視します。
 潮匡人・拓殖大学客員教授「切れ目のない安保法制を急げ」は、安全保障法制の整備や日米ガイドランの見直しが喫緊の課題ですが、自民と公明とのズレが問題化すると分析しています。そのズレは、戦後七十年の節目にあたり、歴史認識をめぐる「安倍談話」や靖国神社関連で、火種となりうるとしています。
 篠原文也・政治解説者「憲法改正狙いで衆参ダブル選挙か」も、アベノミクスの成否が長期政権になるかのカギであるとしつつ、2016年の衆参のダブル選挙もありうると予見しています。

 半藤一利・作家×保阪正康・昭和史研究家×御厨貴・東京大学名誉教授「安倍晋三と長州人」『文藝春秋』は、安倍首相・安倍政権の性格・手法を、長州・長州人を分析することにより、明らかにしようとするものです。三人が異口同音に強調するのは「(長州人の)執念と粘り強さ」で、それが安倍首相の原点です。

 『文藝春秋』は、インフレ、円安、社会保障を軸に、「2015年 日本はどうなる、どうする?」を、財界三重鎮に問うています。
 小林喜光・経済同友会次期代表幹事「ガッツなき国家は衰退する」は、日本企業の業界再編の必要を説き、日本・日本人に「負けてたまるかというガッツ」を、企業には「地球のため」に貢献することを求めています。
 榊原定征・日本経団連会長「経済と政治が一体化するしかない」は、「(現在は)デフレからの脱却と日本再興に向けた正念場」にあり、「この非常時にあっては、政界と経済界がスクラムを組んで、スピード感を持って政策課題を実現していかなくてはならない」と力説しています。
 三村明夫・日本商工会議所会頭「大企業は考えを改めよ」は、大企業が「貯蓄主体」から「投資主体」に変わるべき時であるとし、中小企業の重層的な役割を詳述し、金融機関などに中小企業への手厚い対応を求めています。

 地方消滅、地方の人口減少と表裏一体にある東京への一極集中について、問題提起してきている増田寛也・野村総合研究所顧問・元総務相が舛添要一・東京都知事と『文藝春秋』で、「『首都集中』東京は地方を殺すつもりか」と題して対談しています。東京では急速に少子高齢化が進みます。都知事は、保育所と高齢者通所介護施設の併設、都立公園内に保育園を作るなど、各種の施策メニューを考えています。増田は、東京オリンピック後、団塊世代が後期高齢者になる2025年以降の日本全体を視野に入れた方針の必要性を強調しています。さらに、増田は、「政治は明日の株価で一喜一憂するのではなく、十年後、五十年後の日本のあるべき姿を示すものであって欲しいものですね」と対談を結んでいます。

 『中央公論』は、「脱『地方消滅』成功例に学べ」を特集し、上の増田が巻頭に「主役は市町村、総合戦略への四つの視点」を寄せています。四つの視点とは、@雇用、A「結婚・出産・子育て」への切れ目ない支援、B「コンパクト・シティー化」、C「財源」です。公共投資を拡大しても、長期的雇用には結びつきません。地域の資源・特性を活かした産業の開発に地道に取り組まなくてはなりません。結婚支援には行政も積極的であるべきであり、企業も長時間労働や地域との関係を考慮しない転勤を求めてはなりません。また、「若者の雇用を守るためにも医療介護機能を集約し、高齢者を誘導して街全体のコンパクト化」を進める必要があります。また、地方でも民間からの社会的投資を受け入れる手段を検討すべき時に来ています。
 特集は、増田の問題提起を踏まえ、生き残りに懸命な自治体の実例を紹介しています。土地の所有と利用を分離して商店街の賑わいを保っている香川県高松市、パウダースノーなどで観光を活性化した北海道ニセコ町、グローバル化の先端を行く眼鏡の福井県鯖江市、英語教育を含む幼小中一貫教育で子育て世代の転入者増をはかった福島県磐梯町、ITベンチャーを呼び込んだ徳島県神山町、バイオマス関連の研究・人材育成拠点となった岡山県真庭市など、盛り沢山です。
 冨山和彦・経営共創基盤代表取締役CEO「企業と街の集約化が再生の鍵」によれば、ローカル経済圏にあっては、企業の集約化と街の集約化が必要とのことです。増田の説く「コンパクト・シティー化」と同じく、密度と集積が、経済活動にとって効率的なのです。アベノミクス第二幕として、冨山は、ローカル経済圏に目を向けるべきだとします。地方で生きる人々のため雇用を整えなければなりませんが、それには三つの条件があります。共働き夫婦が子ども二人を大学に行かせるだけの年収、長期雇用の確立、プライドを持って働ける環境です。この三つを満たす仕事は、ある程度の規模を持つ中核都市でしか作れないとのことです。

 昨今、教育、特に大学が改革と国際化が求められています。そこで、『中央公論』は、「大学国際化の虚実」をも特集しています。
 山際壽一・京都大学教授「真の国際化とは何か」は、国際的な研究のため海外拠点をいっそう活用し、国際的に活躍できる人材、世界のリーダーを育成するとの発想で取り組むとのことです。そのうえで、「日本語のすごいところは、どんなに難しい外国語の概念であっても、日本語で理解しようとするところ」で、「日本語の重要性も強く認識しなければ、日本の文化は廃れてしまう」と熱く説いています。さらに、大学内だけでなく、市民・産業界と協力し、相互交流できる場を増やす「京都・大学キャンパス計画」に取り組むとのことです。
 特集には、事例研究として、岩淵秀樹・九州大学韓国研究センター学術共同研究員「企業の外向き指向を受けて変化した韓国の大学」があります。隣国の大学の国際化は日本よりはるかに進んでいます。それは、アジア通貨危機以降、韓国企業のビジネスが急速に国際化を余儀なくされ、就職難下で学生が国際指向を強め、大学も国際化を強いられた、ということのようです。

 李登輝・元台湾総統×魏徳聖・映画監督「KANO精神は台湾の誇り」『ボイス』とウェイ・ダーション・『KANO』脚本・プロデューサー×マー・ジーシアン・『KANO』監督×佐藤忠男・映画評論家「日本統治が台湾にもたらした親しみと憎しみの間で」『中央公論』は、ともに台湾で大ヒットした、日本統治下、漢人、先住民、日本人の混成による野球チームが台湾代表として甲子園に行き準優勝したという映画『KANO』を論じています。ウェイ・ダーションは魏徳聖であり、マー・ジーシアンは馬志翔です。李は言います。「『台湾人はこの映画をみるべきだ』。これと同じように、日本人にいいたいと思います。『日本人はこの映画を見るべきだ。そして歴史に学びなさい』と」。

 (文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時)

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