月刊総合雑誌2015年5月号拾い読み (記・2015年4月20日)
15年ぶりに、日経平均株価が一時2万円台を回復した4月10日、月刊総合雑誌5月号が店頭に揃いました。
『文藝春秋』の赤坂太郎「サラリーマン組織に堕した自民党」は、3月23日の日経平均株価終値の194円高をもって、「(安倍政権にとり)『経済』で後顧の憂いはひとまずなくなった」とし、さらに「安保法制の次に見据える憲法改正に向け、安倍は『維新の党』取り込みも怠りない」と記していました。ただし、「自民党は新人議員から幹部までが『上』の意向を気にせざるを得ない、“悪しきサラリーマン組織”に堕している」と警鐘を鳴らしていました。
今秋の自民党総裁選での安倍再選は確実なようで、二階俊博・自民党総務会長も、漆原良夫・公明党中央幹事会会長、篠原文也・政治解説者との『Voice』での座談会(「政界『仕事師』会談」)で、「自民党の幹部の一員として安倍総理の再選を支持します。党内のほとんどのご意見は再選支持が圧倒的」と明言していました。また、「憲法問題を継続して考えていく」とのことです。
その憲法改正論議に、ひいては自民党の改憲草案に、舛添要一・東京都知事×小林節・慶應義塾大学名誉教授×三浦瑠麗・国際政治学者「安倍首相よ、正々堂々と憲法九条を改正せよ」『文藝春秋』が疑義を呈しています。
昨年7月の集団自衛権の行使の閣議決定ならびに「安保法制」の自公合意をも、憲法9条を無視している、法治国家でなくなるとまで言い切っています。とりあえず国民に受け入れられやすいところから手をつけるというようなことをせず、「9条を正々堂々と変えるべき」と言うのです。また、自民党の第二次草案には、「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない」とありますが、小林はこれに異を唱えます。小林の表現によれば、「憲法は、主権者国民の意思として、権力を担当する政治家以下の公務員がフライングしないように縛るもの」です。
舛添も、「憲法とは国家権力から個人の基本的人権を守るために、主権者である国民が制定するもの。これが、もっとも基本的な『立憲主義』の考え方です。それすら知らない政治家が憲法改正に携わっていいのか」と危惧しています。さらには、「道徳」と「法」の区別を明確に意識すべきであり、「良き伝統」を継承するなどとも第二次草案にありますが、それらの価値判断が入った言葉は憲法にふさわしくないとしています。また、小林たちは、戦前の日本を美化するかのような復古主義には反対だとのことです。
渡辺努・東京大学教授「デフレ退治は進んでいない」『文藝春秋』は、「新聞やテレビをみていると、日本経済はすっかり復活したかのような印象を受けそうですが、政府が目標に掲げた『デフレ退治』はまだ終わっていない」とし、消費者物価指数の目標2%の旗を掲げ、かつ賃上げにも努めるべき、と説いています。
原田泰・早稲田大学教授「ベーシック・インカムが貧困を救う」『Voice』は、貧困問題解消のための提言です。まず、景気拡大のために金融緩和、景気好転させ雇用拡大、それでもなくならない貧困に対応するためには、「最低限の基礎的所得、ベーシック・インカム(BI)、たとえば月七万円を給付」すればよいとのことです。最低限の所得を直接補助し、働きに応じて所得が増える制度にするのです。こうすれば、すべての人が貧困から脱却でき、生活保護の水準以下で生活している人がいるという不合理を解消できると言うのです。
吉崎達彦・エコノミスト「日本はAIIBに参加すべきか」『中央公論』は、中国が主導している国際金融機関・アジアインフラ投資銀行(AIIB)には多くの国が参加表明し、日米だけが取り残されそうだと書き起こしています。ただ、中国共産党の指示に逆らうような独立性を有する存在になりうるか、と疑念を表明しています。吉崎の結論は、「バスに乗り遅れるな、という議論が起きたときは要注意。むしろ変なバスに乗って、得体の知れないところに連れて行かれないように気をつけたいものである」です。
4月12日投開票された統一地方選前半戦で、大阪府議会・市議会も「大阪維新の会」が第1党の座を守り、市議選では前回獲得議席を上回りました。維新の会が掲げる「大阪都構想」の是非は、5月17日の住民投票で問われます。この都構想に、藤井聡・京都大学大学院教授「大阪都構想 橋下市長の恫喝には屈しない」『文藝春秋』は、真っ向から反対です。大阪市が解体されますと、府に大金が吸い上げられそうです。事業所税・都市計画税・固定資産税・法人市民税を自由に使う権限を失うことになります。市役所が解体され五つの区役所が作られると、各区に一人の担当者が必要になり、コストが五倍になりそうです。そこで、市全体で業務を行う「一部事務組合」が必要となります。つまり、大阪府・一部事務組合・特別区という三重化で、かえって非効率になる惧れがあると言うのです。
『中央公論』は、「原油安の地政学」を特集しています。
巻頭は、田中直毅・国際公共政策研究センター理事長「米露を揺るがす中東の思惑」です。原油だけを見るのではなく、鉄鉱石、原料炭と合わせて考える必要があるとのことです。中国の天然資源・エネルギーの消費増テンポが、もはや続かないと資源供給企業が判断した故の原油安とのことです。
福田安志・早稲田大学教授「サウジアラビアは何が狙いなのか」は、「(原油価格の急落は)サウジアラビア政府によって意図的に作り出された側面が強い」としています。「シェールオイルをはじめとして生産コストの高い非在来型や北極海などの原油の開発と生産にブレーキをかけようとしている」ようです。
宇佐見良記・ジャーナリスト「給与返上を演出したプーチンの苦境」は、欧米諸国の経済制裁や原油価格の下落により、自らの分を含め国家公務員の給料を一割カットするなどとの対応に追われている、プーチン・ロシア大統領の苦悩を描いています。いまだ国民の支持はありますが、それは経済が良好でなければなりません。ロシアは、難しい時期に入ってきているようです。
白澤卓二・順天堂大学大学院教授「医学部エリートが病気を作っている」『文藝春秋』は、「最初にはっきりと申し上げておきましょう。健康診断は無意味です。受ける必要は一切ありません」と始まります。「健康診断の数値をもとに、あまりに多くの病気が作られてきました」のです。「やるべきことは、早期発見ではなく、原因物質や環境・生活要因を除去すること」で、つまり、「何を食べるか、どう生活するか」です。従来の投薬をベースにした治療医学に特化した医学部は不要で、必要なのは「予防医学と救急医療」とのことです。
小浜逸郎・批評家「少年法は改正すべきか」『Voice』は、川崎市の中学1年生殺害事件により提起された問題に取り組んでいます。残虐な犯行にはしった未成年者はいかに扱ったらよいのでしょうか。小浜は、少年の凶悪犯罪は減少しているのであり、矯正に重きが置かれている少年法の厳罰化に反対です。かえって、法的な「成人」年齢を引き下げ、「少年」に制度的・システム的に大人化への道をあてがったほうがよいとのことです。犯罪が起きるとネット情報が氾濫する状況には、風評被害の激化や異論に対しての非寛容が強まることを懸念しています。発信主体・受信主体に公共心を高めることを求める以外になさそうです。
「加害者は少年であれど厳しく処分すべきだ」との意見に、河合幹雄・桐蔭横浜大学教授「少年法で非行少年の九割が更生する」『中央公論』も反対です。タイトルにあるように、「少年の更生率は高い」からです。河合は、投票権年齢のみならず、民法の成人年齢を18歳に引き下げるのにも賛成です。18歳になって最初の4月1日から「大人」と定め、儀式(通過儀礼)を行うことは、自覚を促すに適していると考えています。
「子どもを成熟させる最も効果的方法は、彼らを大人扱いすることである」と、内田樹・思想家・武道家「『子ども』と『大人』を分かつもの」『中央公論』も、小浜や河合と同意見です。そのうえで、現在の日本で子どもを大人にする通過儀礼に似ている機能を有している「就活」を問題視します。繰り返し採用試験で落とすことで、よい意味での「子どもらしさ」を奪い、卑屈な大人へと「老い込んでゆく」かのようです。
『文藝春秋』に、「少年A神戸連続児童殺傷家裁審判『決定(判決)』全文公表」があります。
(文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時) |