月刊総合雑誌2015年6月号拾い読み (記・2015年5月20日)
今夏、安倍総理の戦後七十年に関する談話が発表される予定です。この談話に関わる有識者懇談会(「21世紀構想懇談会」の一員である山内昌之・明治大学特任教授が『文藝春秋』に「安倍談話 歴史家からの提言」を寄せています。「特定の事件だけが記憶され批判され続けるのは、『加害者』の反省が足りないからではなく、歴史認識という現在からのライトの当て方で被写体の見える部分が違うから」で、また政権が代わるとライトの当たっていなかった所を追加することになり、「焦点は歴史の謙虚な究明と言うよりも、常に外交的屈服を『加害者』の義務として永遠に恒常化するメカニズムをつくるのを日本が受容するのか否か」ということに変ってしまうとのことです。「今の中国は、日本が戦後七十年間歩んできた平和国家の実績や中国の繁栄への貢献を、日本の反省や謝罪の現れとしては認めない。その一方、大躍進や文化大革命や天安門事件で斃れた同胞の悲運や実数を公表できないような歴史認識は不幸というほかない」と記しています。戦後七十年談話の内容は、四月二十二日のジャカルタでのアジア・アフリカ(バンドン)会議六十周年記念首脳会議での総理演説を原型とすべきだそうです。「先の大戦の深い反省」との文言が入っていて、バンドン会議の原則を改めて確認し、これまでの談話の「侵略」への反省を「踏まえて受け継ぐ意志を表明した」と受け止めることができるからとのことです。
ケント・ギルバート・米カリフォルニア州弁護士は、『Voice』の巻頭インタビュー(聞き手=丸谷元人・ジャーナリスト「朴槿惠大統領は父親を糾弾すべし」)で、「私が最も指摘したい日本の業績の一つは、朝鮮半島において、李氏朝鮮時代から厳しい階級格差と差別に何百年間も苦しんでいた人びとの『身分解放』を日本政府が行った事実です」と述べています。
『Voice』の「総力特集」は、「どん底の韓国経済」で、巻頭は三橋貴明・経済評論家「先進国になり損ねた国」です。三橋によれば、韓国は、経済モデルを過度にグローバルに依存してしまったのです。「国際競争力」をつけるため、「国民の実質賃金下落を放置せざるをえなかった」のです。また、国営・公営企業の民営化、各種規制の緩和・撤廃、外国資本・外国企業への徹底的な門戸開放など、「構造改革」を受け入れたのです。国内の消費や投資を中心に経済成長を達成する道を塞いでしまったのです。
呉善花・拓殖大学教授「絶望の国の不幸な老人たち」には、「海外で教育を受けた韓国人の子供は、大学卒業後、現地の国で働くことを望み、妻も帰ってこない場合が多い。ですから、結局は男親一人が取り残されることになる。そして韓国では老後の保障が何もないとなれば、その先に待っているのはまさに絶望だけだといえます」とあります。韓国人の41.91%が公的年金未加入(2013年)で、年金の平均受給額は月30万ウォン(3万円弱)で、11年の65歳以上の自殺率は人口10万人当たり81.9人(米国14.5人、日本17.9人)とのことです。
「中露急接近で何が起きるか」を『中央公論』は特集しています。
フランシス・フクヤマ・米政治学者(聞き手=会田弘継・青山学院大学教授)「習近平、プーチン演ずる『新・世界秩序』の舞台裏」によれば、「『米国の世界的覇権』を弱体化させることに、中露は共通の利益を見いだしている」のです。ただし、中露は、同盟関係とは程遠く、中央アジアでは「真の協力関係をつくることはできないだろう」と予見しています。なお、AIIB(アジアインフラ投資銀行)には、米国は参加して、「(内側から)より西側的な組織に変えていくよう働きかけることができるはずだ」し、日本の不参加は「日米関係への配慮」ではないかと述べています。また、ロシアのナショナリズムは劇的に高まっているので、北方領土で日本がプーチンから妥協を引き出すことなど想定できないと断じています。
中西寛・京都大学大学院教授「勢力圏競争が抱え込む不確実性」も、「プーチン政権は孤立感を深めつつも、そのことで逆に愛国主義を鼓吹する傾向を強めている」ので、対話は継続すべきですが、「日露関係の鍵である領土問題については期待が薄い」としています。兵頭慎治・防衛研究所地域研究部長「軍事動向から炙り出す中露協調の虚実」は、ロシアは、中国に軍事的不信があるからこそ政治的な協調関係を強化するというアプローチをとると分析しています。加えて、「国際社会で孤立するロシアが、中国に引きずられて、反日姿勢に転じてしまう危険」があるとのことです。
横手慎二・慶應義塾大学教授×久保文明・東京大学大学院教授×川島真・東京大学大学院教授「これは、市場経済と民主主義への挑戦なのか」は、米国が標榜してきた「市場経済と民主主義」が普遍的原理だとする公式が中露によって損なわれている様相を討論しています。国際政治の変数は著しく増加しています。横手によれば、ロシアは権威主義的な政治手法をとっていますし、中国政府は経済へ堂々と介在しています。久保は「国連の常任理事国のうちの二つの国が、戦後の秩序を力ずくで壊す、ないし壊そうという行動に出ている」ことを再認識すべきと力説しています。一方、川島によれば、「アメリカに対抗する中露の枢軸が出来上がるような予兆は、少なくとも北京からは伝わってこない」とのことです。横手は、AIIBの一件では、日本の外務省や財務省はヨーロッパ諸国の動向をはかりかねていたと嘆いています。川島は、「中国のやることだから、警戒せねば」というような視野狭窄に日本が陥ることを危惧しています。
田中哲二・中央アジア・コーカサス研究所所長「クリミア編入 プーチンの標的は中国だ」『文藝春秋』は、「中国・ウクライナ間の土地租借交渉の中断と『新深港』の建設阻止。これらを完遂するためには、クリミア半島のロシア編入という荒仕事は不可避の選択だった」と表現しています。田中は、「ロシアとの領土交渉を進める千載一遇の好機」とまで言い切っています。
AIIBに関しては、船橋洋一「新世界地政学」『文藝春秋』は、「日本と米国が『自由で開かれた国際協調主義』に合致する慣行とガバナンスを定着させる」ため、参加しなければならないと、主張しています。
津上俊哉・現代中国研究家×真山仁・作家「二年間は慣らし運転」『Voice』は、“中国嫌い”と思われる「官邸の意向」に、官僚たちが気を遣い、結果的に消極的な選択をした可能性があると指摘しています。津上は、「日本は早く参加すべきだ」と主張してきたのですが、ここに至っては、二年間は様子を見るべきだ、としています。独自の協調融資や提携事業を持ちかけ、真山の表現によれば、「指導教官のポジション」をとるべきなのです。
竹中平蔵・慶應義塾大学教授×川村雄介・大和総研副理事長「AIIB『中国のたくらみ』に気をつけろ」『文藝春秋』も、縦割りの官僚組織が災いし、イギリスのAIIB参加の動向を把握できなかったことを問題視しています。川村はAIIBに日本は参加すべきとの立場です。アジアのインフラ需要が大きいし、今後も成長が見込める中国との経済的連携は保っていくべき、というのです。竹中は、米国とともに参加するのは「セカンドベスト」で、「ファーストベスト」としては、米国と協力し、ADB(アジア開発銀行)を強化しながら、「アジア・インフラ・ファンド」を作ることを提唱しています。
浜田宏一・内閣官房参与・米イェール大学名誉教授「アベノミクス三年目の批判に答える」『文藝春秋』は、現時点でのAIIBへの参加に反対です。「利益があると分かってから入ればよい」のです。浜田によれば、「アベノミクスの効果が着実に出てきています」。特筆すべきは、失業者の減少です。賃金総額も増えてきているのです。また、株価二万円は決してバブルでないし、地方経済回復には、地方への投資を活発化すべく、法人税減税をもって対処すべきと説いています。さらに、成長戦略として、TPPの推進、女性の就業率の向上、規制改革を求めています。
一部報道によるアベノミクスや日銀への批判を、高橋洋一・嘉悦大学教授「トンチンカンな左派マスコミ」『Voice』は、「雇用の改善は右派であろうと左派であろうと、等しく歓迎すべきことである。失業のない社会を望むのは経済学の目標だ」、「ところが、左派マスコミは金融政策にともなう雇用の改善についていっさい報じなかった」と弾劾しています。
(文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時) |