月刊総合雑誌2015年8月号拾い読み (記・2015年7月20日)
加藤隆則・元読売新聞中国駐在編集委員「習近平暗殺計画」『文藝春秋』は、自信をもって出稿した特ダネがボツ扱いされため、退職を決意し、その特ダネをあらためてまとめ、寄稿したものとのことです。中国共産党中央による幹部あての「内部報告」をスクープし、党が認定した政治クーデターの概要を把握できた、とのことです。収賄・国家機密漏洩罪などで無期懲役となった、党の序列9位だった周永康・前党中央政治局常務委員による習氏暗殺計画があった、というのです。内部報告は、以下のように指摘しているそうです。「周永康と薄熙来、令計劃の三人が二〇〇九年に政治連盟を結び、すでに第一七回党大会(二〇〇七年)で内定していた習近平同志の政権継承を阻止して、第一八回党大会後に薄熙来政権を誕生させ、令計劃を党中央政治局常務委員入りさせるクーデターを企図した」。
その他、生々しい政権内の権力闘争を詳説していますが、結局、習総書記の権力掌握が成功したのです。また、予定されている軍事パレードも軍内の集権化を進めるためのものなのです。にもかかわらず、中国の動きを、日本のメディアは、何かにつけ、「日本への牽制」としかみなさい、ピントがずれている、と論難しています。その原因を「新聞社内の空気に流され、上司の不合理な指示に唯々諾々として従っているケースが多い」風潮にある、としています。
『中央公論』には、馬立誠・『人民日報』元論説委員「中日の和解なくして東アジアの安寧はない―『対日関係の新思考』を再び論ず」があります。
彼は、2002年、「対日関係の新思考」を発表し、中国は、歴史への過度の拘泥をやめ、戦後日本の歩み・現実を評価し、理性的な日中関係を構築すべきと主張しました。当時、反日一色だった中国で、「売国奴」とまで罵倒されたそうです。一方で、日中両国で大反響を招き、胡錦濤政権の対日改善に有用だったとの指摘もあります。その後の日中関係は、冷却・悪化し、昨年から今年にかけて、ようやく両国首脳会談が二回ほど実現しました。また、今年は戦後七〇年にあたります。この状況下で「平和」、「反省」、「寛容」をキーワードに、日中和解の必要性とそのためには中国の寛容が不可欠だと説いています。中国のウェブサイトにも公表した、とのことです。
香田洋二・元自衛艦隊司令官×小原凡司・元駐中国防衛駐在官・東京財団研究員「『中華膨張』南シナ海支配の最終段階」『文藝春秋』は、中国の南沙諸島の岩礁埋め立ては、中国が米本土を核ミサイルの射程圏内に入れようとしているためだとしています。さらには、中国は、“一帯一路”のためにも、シーレーンの安全確保が必要なのだと断じています。小原は南シナ海を日本の船・飛行機が自由に航行できなくなる事態が起こり得るとし、香田は「(中国に抗すべく)あらゆる手立てを講じて国際世論を喚起しなければいけません」と説いています。
『Voice』は、「膨張する中華帝国」を特集しています。
巻頭で、佐藤正久・参議院議員「『日米+ASEAN』で南シナ海を守れ」が、やはり、中国の南シナ海の動きを危惧しています。「アメリカと肩を並べる大国にのし上がっていこうとする姿勢が見られます。これは、覇権主義のもとで膨張する中華帝国そのものです」とまで言い切っています。佐藤は、「平和安全法制の整備に基づく共同訓練、共同警戒監視など多国間の連携を強化する体制こそが、中国の海洋支配への抑止力として最も効果的に働きます。日米の絆こそがアジアの海洋安全保障に寄与することを、海洋国家である日本およびASEAN諸国が肝に銘じておかねばなりません」と力説しています。
水谷尚子・中央大学経済学部講師「『イスラム国』を目指すウイグル人」『文藝春秋』は、中国からトルコに密出国したウイグル人にインタビューし、かれらの動向を探っています。トルコ在住のウイグル人は約3万人と言われています。亡命先にトルコを選ぶのは、宗教が同じ(イスラム教スンニ派)であり、言葉も似ているからです。軍事訓練を受けたのち、シリアに向かい、ISIL(イスラム国)に入る若者もいるようです。また、中国に戻り、暴力的反政府活動に及ぶ可能性を秘めています。
6月に日本創成会議が発表した「東京圏高齢化危機回避戦略」の呼んだ波紋を踏まえ、『中央公論』が「地方移住は『姨捨て山』か」との特集を編んでいます。
増田寛也・日本創成会議座長×舛添要一・東京都知事「都知事、高齢者の増加を受け止めきれますか?」は、急速に高齢化する東京圏の問題に取り組んでいます。増田の提示している解決策は、@医療・介護サービスの人材依存度の引き下げ、A地域医療介護の整備と高齢者の集住化の一体的促進、B一都三県の連携・広域対応、C高齢者の地方移住、以上の4つです。Cのみが脚光を浴びていますが、あくまでも4番目とのことです。介護士の待遇改善、空き家対策など、難問が山積しています。舛添によれば、「もう少しのんびり、ゆっくり、仕事ばかりするのではない生活を日本中で模索していかないと何も解決しない」とのことです。
藻谷浩介・(株)日本総合研究所主席研究員「目覚めよ! 東京圏の市民」は、団塊の世代が75歳を超える2025年、全国で増える75歳以上の三人に一人が東京圏の住民ですが、地方に移住する者の数はそれほど期待できないと分析しています。地方の若者が減少しているのも関わらず、若者が大都市に流入し、大都市での生活のため出生率が低下します。このままでは、「地方消滅」で、それは「日本消滅」、「東京消滅」となる、と藻谷は言います。人口減少を食い止めるためにも、「若者の農山村回帰」の必要を訴えています。
田中良・杉並区長「杉並区が介護施設を南伊豆町に作る理由」は、都道府県の枠を超え、自治体同士が連携して特別養護老人ホームを作る計画を詳述しています。都心部では地価だけでも大変です。都心部の特養入所希望者を減らすとともに、地域の雇用創出も見込むことができます。
加藤久和・明治大学教授「介護保険制度は持続可能か」によりますと、介護保険制度は二つの課題を抱えています。財政の持続可能性と介護の供給不足の問題です。「給付対象者を要介護認定者に限定し、特に軽度の認定者に対する給付を見直すことや、資産等を考慮して自己負担の範囲を広げる」ことや、「市町村を主体とする地域保険の運営システム」の見直しなどに取り組むべきとのことです。
日本創成会議のリポートで、移住おすすめ地域の主な都市として選ばれた北九州の北橋健治・市長が「来たれ! アクティブシニア」で、東京圏からの移住者を募っています。「地域包括支援センター」、「いのちをつなぐネットワーク事業」など、福祉サービスに力を入れていると自負しています。ただ、介護が必要な高齢者が大挙して移住してくるようなことは想定していません。「消費が拡大し、雇用創出につながる」ことを期待してのことのようです。消費者物価、地価は安く、食べ物はおいしく、通勤時間は短い、と地方での生活の魅力を謳い上げています。
山内昌之・明治大学特任教授と佐藤優・作家・元外務省主任分析官の討論による「ラディカル・ポリティクス―いま世界で何が起きているか」が5回連載の予定で、『中央公論』で始まりました。第一回は「世界で噴き出すナショナリズムの深層」です。「世界中ではナショナリズムが高まり、独立運動の連鎖が止まらない。世界には大きな『地殻変動』が起きている」と佐藤は問題提起しています。ナショナリズムを「その時と場所の状況に応じて、人々をまとめ、結び付けていく力」と山内は定義します。佐藤によれば、沖縄で起こっていることも「ナショナリズムの表出」であり、山内によれば、日本では「内なる民族問題」に対する視点が欠落していたのです。
松崎隆司・経済ジャーナリスト「日本のモノづくりが駄目になったわけ」『中央公論』は、日本のエレクトロニクス産業の競争力低下の原因を探っています。つまるところ、経営者がサラリーマン化し、プロの経営者がいなくなったからだと結論づけています。立石泰則・ノンフィクション作家「未来への投資を怠ったものづくり」『文藝春秋』によりますと、「十年先、二十年先を見通しての研究開発を怠ってきたツケが表面化しただけの話」となります。
立石の論稿は、戦後日本社会の「神話」を検証する「巨弾特集 戦後70年 崩壊する神話」の一環です。53人の識者が、多分野にわたり、あらためて国・社会のあり方を問い、かつ提言しています。
(文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時) |